第92話「うわーん!!!!!」
「ちょ、なにいきなり泣き出しているのよ!?」
「うわーん!!!!!」
「ちょっとアリッサってば、みんな見てるでしょ」
「うわーん!!!!!」
「みっともないから泣き止みなさい」
「うわーん!!!!!」
「ちょ、ちょっとアリッサ。話を聞いて――」
「うわーん!!!!!」
「アリッサってば──」
「うわーん!!!!!」
「…………」
「うぅぅぅぅわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーんっっっっ!!!!!」
駄々っ子のように泣きわめくアリッサに、
「ああもう分かったわよ! アリッサもここで一緒に住めばいいでしょ! だからいい加減泣き止みなさい!」
根負けしたマリーベルがやけくそ気味に怒鳴った。
「……ほんと?」
するとアリッサはピタリと泣き止んだ。
アリッサは目を真っ赤にしながら、いかにも甘えた感じの可愛らしい上目遣いで、マリーベルを見つめている。
「これ以上、ローゼンベルクの恥を晒せないでしょ」
呆れたように呟いたマリーベルに、
「やったぁ!」
アリッサが目をクリクリ大きくしながら、両手を元気よく上げてミニジャンプして喜びを表現した。
「な、何がいったいどうなっているんだ????」
目の前の状況にどうにも理解が追い付かない俺が、リュカに問いかけると、
「ええっと、私も何がなにやら……」
リュカは困ったようにアスナに視線を向けた。
「ちょっと、アタシに振らないでよね!?」
アスナは両手を左右に振って、ノーサンキューをアピールする。
そんな大変困惑しきりの俺たちとは対照的に、
「アリッサって本っっっ当に泣き虫よね。しかも我がままな駄々っ子だし。あーもう。最近はメディア対応なんかも落ちついていて、ちょっとは成長したと思っていたのに、これじゃ昔と全然変わっていないじゃない」
「すまんマリーベル。昔のアリッサってこんなだったのか?」
さすがに気になり過ぎて、俺は小さく手を上げながらマリーベルに問いかけた。
「この子は昔からこうよ。私にべったりで甘えんぼで、我がままばっかり言ってくるの。最後はいつも私が折れてあげるんだから」
「いやー、俺のアリッサ・カガヤ・ローゼンベルク像からはちょっと想像できないんだが……」
俺の言葉に、
「ええっと、私もです」
「世の中、表向き見えていることと真実は、必ずしも一致しないんだろうねぇ」
リュカとアスナもなんとも困ったように同意した。
「だが今目の前で起こっていることを見ると、事実なんだろうな」
西から上ったお日様が東に沈むのを目の当たりにしたかのごとく、困惑しきっている頭に、俺はなんとか無理やり折り合いをつけた。
ちなみにアリッサはというと、自分の最大の要求が通ったからか、さっきまでの大泣きはどこへやら、けろっとした顔でマリーベルの腕を抱きかかえるようにしながらくっついていた。
そこには最強王者の威厳は微塵も感じられない。
まぁなんだ。
さっきアリッサのことを神々しいとか思ったのは、取り消させて欲しい。
この子も根っこは普通の女の子だった。
「いやぁ、俺の人を見る目なんて全然たいしたことないなぁ」
という、とても良い教訓を得た俺だった。
その後、全てが終わった後になって、やっと起き出してきたミューレに事情を説明して最終的なOKを貰い。
アリッサはライトニング・ブリッツの拠点である元・小学校で生活をすることになった。
「ただしアリッサがここに来るのは週に3日までよ。アリッサはバーニング・ライガーのエースなんだから、その義務はしっかりと果たしなさい。ローゼンベルクの家名にかけて、アリッサのことを慕って集まった仲間を見捨てるような真似は許さないわよ」
マリーベルがアリッサに釘をさす。
「もちろんですマリアお姉さま♪」
「だからマリアはやめてって言ってるでしょ」
「はい、マリーベルお姉さま♪ バーニング・ライガーをもっともっと強くして、次はマリーベルお姉さまとライトニング・ブリッツを粉砕します♪」
「はぁ? 私とライトニング・ブリッツが負けるわけないでしょ? 調子に乗ってんじゃないの」
「えへへ、ごめなさい♪」
なんかもうすっかりご機嫌なアリッサだった。
こうして2度目のアリッサ襲来を経て、マリーベルとローゼンベルクの数年に渡るいざこざは――ここからまだ少し時間はかかるだろうが――おおむね解決することとなった。
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