第62話 コンセプトチーム『バーニング・ライガー』

「じゃあ次にマリーベル。相手はあのアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクだ。誰もが認めるゴッド・オブ・ブレイビア最強の姫騎士。悔いのないように戦って、でも最後は勝ってこいよ」


 結局、俺は最後までマリーベルに有意義なコーチングを提供することができなかった。

 強いて言うなら、俺なりにまとめたアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクの対策データを渡しただけだ。


 しかしデータを見たくらいで、自他ともに認める最強王者に勝てたら誰も苦労はしない。 


 だからかける言葉も、こんな風にふんわりとしたものにしかなり得なかった。


「ええ、絶対に勝つわ。同じ炎魔法の使い手として、どっちが上か証明してあげるんだから」


 だがマリーベルからは力強い答えが返ってくる。

 表情は固いし、まってくもって対策は足りていないが、モチベーションは失われていない。


 これならいい勝負をしてくれるはずだ。

 アリッサは強いが、マリーベルだって強い。

 いい勝負さえしてくれれば、何とかなる可能性は決してゼロじゃない。


「期待しているな」

「任せて」


 最終ミーティングがほぼ終了したのを見て、


「ねぇねぇヤマト。バーニング・ライガーは全員が炎魔法の姫騎士なんだよね?」

 アスナがあまりデュエルとは関係ないことを尋ねてきた。


「そうだぞ。いわゆるコンセプトチームだな」


 アスナの言った通りで、バーニング・ライガーはエースのアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクを始め、控えの姫騎士に至るまで、全員が炎魔法の姫騎士のみで構成された特殊なチームだ。


「昔は普通のチームだったんだよね?」


「5年前のアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクの加入に際して、ローゼンベルク家がチームを買収した時から、炎魔法の姫騎士だけで戦うコンセプトチームに変化したんだよ」


「ローゼンベルクは言わずと知れた炎魔法の名門だもんね」

「炎魔法こそが最強という強い信念とプライドが、ビシバシと感じられるよな」


「でも炎魔法の姫騎士だけに絞ってエース級の姫騎士を集めるのは、かなり大変なはずでしょ? 簡単にやっちゃうのが、さすがは名門中の名門ローゼンベルクだよね」


「金もツテもあるだろうからな。アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクが規格外の存在とはいえ、五連覇するような最強チームをあっさりと作り上げてみせたのはさすがの一言だよ」


「すごいよねぇ」


 普段はリーグ戦に出てこない控えの姫騎士ですら、全姫騎士参加のドラゴンキング・トーナメントに出てくると、中堅チームのエースを圧倒したりする。


 そんなに強けりゃ、よそのチームでエースを張ればとも思わなくもない。

 だがしかし、アリッサと同じチームで戦うことに憧れる炎魔法の姫騎士は多く、しかも引退後はローゼンベルクが面倒を見てくれるそうで、希望者が後をたたないそうな。


 そういう意味ではマリーベルはローゼンベルクと和解してバーニング・ライガーに移籍するのが、もしかしたら一番いいことなのかもしれなかった。


「ま、それでも最後は環境とか待遇よりも、気持ちが一番大事だからな」

「なになに、急にどうしたの?」


「悪い、独り言だ。さてと。いい時間だしそろそろ行くか」


「はい!」

「ええ」


 俺たちは控室を出ると、デュエル・アリーナへと向かった。


 さぁ決戦だ──!

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