第67話 大苦戦するマリーベル
「くっ、この!
マリーベルは我慢比べのような接近戦からなんとか抜け出すと、巨大な火炎球を次々と放った。
フレイム・アローの強化版のような魔法で、連射速度は落ちるが威力が格段に大きい強力な魔法だ。
しかしアリッサはそれに対して真正面から受けて立った。
避ける素振りを見せすらせず、
「
自分の方が強いと言わんばかりに、同じ魔法を撃ち返す。
またもや激しい撃ち合いになるが、 マリーベルはやはりここでも撃ち合いを先に止めて、別の行動をとった。
「天を
足を止めていたアリッサのその足元から、炎の火柱が豪快に吹き上がる!
(メテオ・フレイム・シュートの撃ち合いをすると見せかけて足を止めさせ、しかし即座にフレイム・ゲイザーに切り替えて狙い撃つ、か)
(マリーベルちゃんが得意とする魔法技術の高さを存分に生かした、美しい戦術だね)
(ですがそれ故に読みやすいとも言えます。特にこれだけハイレベルの姫騎士同士のデュエルであれば)
「甘いです。ファイヤー・ガード」
しかしアリッサは炎のバリアを自身の周囲に展開すると、激しく吹き上がる炎をなんなく防いでみせる。
火柱が消えた後には、アリッサが涼しい顔をして立っていた。
「くっ……!」
完璧に対処されたことへの悔しさか、マリーベルの顔がわずかに歪む。
その後も、力比べになるたびに、マリーベルはすぐに別の選択肢を選んでかわそうと試み続けた。
(マリーベルちゃん、ちょっと苦しい展開だね)
(何をやっても完璧に返されるからな。まずいな、マリーベルはもうほとんど打つ手がなくなってきたぞ)
(さっきのシーンも、メテオ・フレイム・シュートを終了させたのとほぼ同時に、ファイヤー・ガードを発動しました。恐ろしいほどに無駄のない、流れるような魔法の切り替えです)
(今までマリーベルは魔法技術の高さを最大の武器として、相手を圧倒していた。だが、今回ばかりは通用しないか)
本当にアリッサは強い。
強いなんて言葉じゃ表しきれないくらいに強すぎる。
分かっちゃいた。
分かっちゃいたが。
それでもやっぱりアリッサは強すぎる……!!!!
「どうですかお姉さま。そろそろ今の実力差を納得していただけましたか?」
「く……っ」
「なにも恥じることはありません。長年のブランクがあるのですから当然です。わたしはそのことを正しく理解しています」
「このっ、偉そうに……!」
「降参してください。お姉さまと戦うことは、わたしの本意ではありません。むしろわたしたちは、肩を並べるべきなのですから」
「降参なんてするわけがないでしょうが! 炎獅子咆哮! ライオネル・ストライク!」
マリーベルが吠えるとともに、巨大な炎の獅子を身にまとった。
ライオネル・ストライク。
強力な魔法が揃う炎魔法の中でも最大威力を誇る、マリーベル得意の突撃魔法だ!
「やれやれ。本当にお姉さまは諦めの悪い人ですね。ですがそれはとてもローゼンベルクな生き様で、すごく好感が持てます。炎獅子咆哮! ライオネル・ストライク!」
アリッサが同じく、激しく燃え盛る巨大な炎の獅子を身にまとった。
ともに激しく燃え盛る炎の獅子をまとったマリーベルとアリッサが、正面から激突する!
互いに魔力を注ぎこむ力比べは――やはりマリーベルが力負けして弾き飛ばされてしまった。
防御加護を大きく削られ、派手に地面に叩きつけられるマリーベル。
「あぐ……っ」
「今度こそ納得して頂けましたか?」
いまだ炎の獅子をまといながら悠然とつぶやいたアリッサに、
「くぅ……! 私は、負けない……!」
マリーベルはなんとか立ち上がると、キッと鋭い視線を向けた。
「本当にお姉さまは強情ですね。こうなったらもう仕方ありません。そうですね、いい機会なので、わたしの本気を見せてさしあげます」
「本気……ですって?」
「今日はお母さまとお父さまも見に来ています。お披露目にはちょうどいい舞台でしょう。ローゼンベルクに眠るカガヤの血が生み出す最強の神聖魔法を、お姉さまとここにいる全ての観客に見せつけてあげます。スイッチ!」
その言葉とともに、アリッサの周りで赤々と燃えていた炎の獅子が突然、ところどころ黄金色を帯びはじめた。
それはしだいに輝きを増していき、いつしかアリッサの炎は全て、美しい黄金の炎へと変化していた。
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