第104話 デュメナス・ナドレ・ケルディム・エクシリア

 ゴスロリでオッドアイなリリィホワイトさんは、俺たちの前にやってくると自己紹介を始める──前に、横ピースした左手を左目の前に構える不思議なポーズを取った。


 そして言った。


わらわは天界より使わされし聖なるしもべデュメナス・ナドレ・ケルディム・エクシリア。わらわの力を欲さんとするはなんじらか。ふむ、なかなかに強き魂を持った者たちじゃの。気に入ったぞ。偉大なる我が光の魔力を、汝らに貸し与えようではないか」


「……」

「……」

「……」

「……」


 そのあまりに個性的過ぎる自己紹介――でいいんだよな???????――を聞いて、俺たち(ミューレ以外)は一様に沈黙した。

 ミューレは知っていたのだろう、言葉を失った俺たちを見ながら一人、


「ふふっ……」

 笑いをかみ殺していた。


「どうした? 何ゆえ黙っておる。ふむ、察するに偉大なるわらわを前にして、畏怖と畏敬の念から言葉を発することを身体が忘れてしまったのじゃな」


「えーっと……」

 なんと返したらいいものか、返答に窮する俺。


「じゃがそれもまた仕方なきこと。何人なんぴとわらわの前に出れば、己の矮小さをることになるのじゃからの」


 なんとも困った俺がリュカ、マリーベル、アスナと順繰りに視線を向けると、これまた困ったような視線が俺を見返してくる。


 仕方ない。

 ここはみんなを代表して、俺が質問をするとしよう。

 デュエル・アナリストという仕事は実に多岐たきにわたるのだ。


「ええっと、デュメナス・ナドレ・ケルディム・エクシリアってのはなんなんだ? 君はユリアンナ・リリィホワイトさんなんだよな?」


 俺はまず、ミューレが呼びかけた名前と自己紹介の名前が全く違うという最大の疑問を尋ねてみた。


「ユリアンナ・リリィホワイトは現世うつしよでの仮初めの姿。我がまことなるデスティニーネームは、デュメナス・ナドレ・ケルディム・エクシリアである」


「な、なるほどな」


 ごめん、さっぱり意味が分からない。

 これがジェネレーションギャップなのか。

 若い子の感性にはついていけないなぁ。

 最近ひしひしと思うんだけど、若い女の子の感性とズレてしまっていることが、俺の最大の弱点だよ。


 俺は助けを求めてマリーベルを見た。

 こういう時は同年代かつ、なんでもはっきり言えるマリーベルの出番ではないだろうか?

 きっとそのはず。

 そうに違いない。

 デュエル・アナリストとしての勘がそう告げている。


 よしきた、頼んだぞマリーベル!


 マリーベルは『もぅ、ヤマトさんは頼りにならないわね』みたいな目で俺を見ながら、小さく肩をすくめると、俺の話を引き取るように話し始めた。


「じゃあなんて呼べばいいわけ?」

「エクシリアと、そう呼ぶがよい」


 ゴスロリオッドアイの女の子――エクリシアは尊大に頷いた。


「エクリシアね。私はマリーベルよ。これからよろしく」

 しかしマリーベルがそう名乗った瞬間だった。

 

「あの無敗の女王アリッサ・カガヤ・ローゼンベルクを倒したマリーベルさん! すごい! 本当に同じチームで戦えるなんて、わたくし感激です! こちらこそよろしくお願いします! あの、大ファンなんです! 後でサインをください!」


 エクシリアは言葉遣いから目の輝きから表情まで、さっきまでのミステリアスな姿とは別人ってくらいに豹変した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る