第37話 コービー牛と聞いて目の色を変えるアスナ

「さて、と。開幕5連勝を祝して、今夜は景気よくパーッと焼き肉にでもしゃれ込もうか」


「焼き肉!?」


 その言葉に、アスナが鋭く反応した。

 目に見えてそわそわしながら、ミューレをガン見している。


「上質なコービー牛を扱う焼き肉店が近くにあるんだよ。一度行ってみたかったんだが、なにぶんお金がなくてね」


「もちろんミューレの奢りなんだよな?」


 コービー牛は、いわゆるブランド牛。

 めちゃくちゃ高い。


「当然さ。君らの勝利ボーナスも今後は弾むから、期待していてくれたまえ。ふふふん」


 ミューレが、小さな子供が宝物でも自慢するかのような、ちょっとお茶目な笑いを見せた。

 えらく可愛らしいぞ。


 と、


「あ、アタシも一緒していいかな? いいよね? だってフェンリルはアタシが開発したんだし、公式に技術サポートもしているもんね! 公式ってことは、つまりオフィシャルパートナーってことだよね? ねぇねぇミューレさん、いいでしょ? アタシもコービー牛、食べたいの~~! おねが~い!」


 アスナがシュバっと手を上げたかと思うと、怒涛のおねだりを始めた。

 タダでコービー牛が食べれるチャンスということもあって、かなり必死かつ強引だ。


 その気持ちはとてもよく分かるんだが、お前もう22だろ。

 幼馴染としてちょっと恥ずかしいぞ。


「ミューレさん、私からもお願いします。フェンリルを作ったアスナさんは、チームの大切な一員だと思うんです」


 ここまで俺たちのやり取りをニコニコと楽しそうに見守っていたリュカが、即座にアスナの応援に入る。


「ははっ、もちろんアスナもライトニング・ブリッツの欠かせない一員さ。焼き肉で気分を良くしてくれるのなら、安いものだ」


 ミューレは当然と言わんばかりに笑顔で頷いた。


「やったぁ! ミューレさん話わかる~!」


「今後もフェンリルの調整をしっかり頼むよ? なにせフェンリルを装備したリュカは、今やトップランカーの1人に数えられるほどだからね。そしてそれにはアスナの協力が不可欠なんだ」


「任せて♪ コービー牛を食べた私は最強だから♪」

「まったく。調子のいい奴だなぁ」


「コービー牛が食べられるんだから調子もよくなるに決まってるでしょ? それとリュカちゃんも援護射撃ありがとね♪」


「そんな、私は思ったことを言っただけですから。アスナさんのフェンリルがないと私はまともに戦えませんので。アスナさんあっての私です」


「うーん、リュカちゃんはホントいい子だねぇ」

 アスナがリュカをヒシっと抱きしめた。


「マリーベルも来てくれるかい?」


 そしてミューレは、ちょうどデュエルを終えて戻ってきたマリーベルに、母親のような姉のような、優しい微笑みを浮かべなら問いかけた。


「ミューレさんがここまで喜んでいるんだもの。いいわ、今日くらい付き合ってあげる」


 お、マリーベルも来るのか。

 これはちょっと楽しみだな。

 もしかしたら猫カフェ以来となるコミュニケーションが取れるかもしれない。


 1か月同じチームに居てほぼノーコミュニケーションなのは、さすがに気になってくるからな。


「じゃあリュカちゃんとマリーベルのデュエル後のインタビューが終わったら、焼き肉屋にレッツ・ゴー!」


「なんでアスナが仕切ってるんだよ」


 なぜか話をまとめにかかったアスナに俺は思わず苦笑しながら、チームの仲間たちと一緒にセコンド・エリアを後にした。


 正直言うと、俺もものすごーーーく楽しみです。

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