第69話 ローゼンベルクの秘奥義『カラミティ・インフェルノ』

(相手の弱点を突いて勝つ、的なことを全く考えていなさそうなのが、いかにもアリッサ・カガヤ・ローゼンベルクらしいですよね)


 リュカの声にはマリーベルを心配する気持ちだけではなく、アリッサという圧倒的強者への憧れのようなものがわずかに感じられる。


 それにしても、えらく挑発的にマリーベルを煽って来るよな。

 そのことが少し気になったが、まぁいい。


「少しはやる気になってくれたみたいですね。よかったです」

「いいわ、舐めたまねしてくれたことを後悔させてあげるから!」


 アリッサに煽りに煽られたマリーベルはやけくそ気味に叫ぶと、一度、大きく深呼吸をしてから、俺が聞いたこともない魔法の詠唱を開始した。


「煉獄の焔天に集いし、漆黒の業火よ! 我が手に集え!」


 天高く掲げたマリーベルの両手の上に、漆黒の炎が渦巻き始める。


(黒い炎だと!? これがカラミティ・インフェルノ、ローゼンベルクに伝わる最強の炎魔法なのか――!)


 俺が驚愕し。


(こ、これまたすごい魔力量です! どうなっているんですかこれ!? 2人だけ別世界のデュエルをしているみたいです!)


 リュカが恐れおののき。


(で、データ取りたい……大規模魔力の運用は絶対にフェンリルの改良に役立つ……だ、誰かデータを取って……誰かデータを……データ……データ……)


 アスナが研究者らしいつぶやきを漏らした。


「いいですね、お姉さま。実にいいです! それでこそお姉さまです!」


 黄金の炎を激しく燃やすアリッサの顔が紅潮し、その表情が歓喜の色を見せる。


「烈火を解き放ち、絶えなき災厄となりて、我が敵を──くっ!」


 しかしそこでマリーベルの詠唱がプツっと止まった。

 その顔には明らかな苦悶の表情が浮かんでいる。


(いけません! これは──!)

(どうしたんだリュカ?)


(マリーベルさんの魔法が暴走しかけています!)

(暴走? まさか制御できていないのか?)


(はい、完全に制御が効いていません。今は抑え込むのに精一杯です! このままでは魔力暴走して大爆発します!)


(な、なんだって──!?)


 リュカの解説を聞いて聞いている間にも――よほど苦しいのか――ついにマリーベルは片膝をついてしまう。


 それでもなんとか両腕を突き上げてカラミティ・インフェルノの制御を続けようとしているが、今や黒い炎はマリーベルの努力を嘲笑うかのように、激しく荒れ狂おうとしていた。


(ダメです。魔力量が決定的に足りていません。必要なところに魔力が行っていないので、魔法式の中で魔力の奪い合いのような状態が発生して、魔力の流れがメチャクチャになっています!)


(それって大丈夫なのか? マリーベルは──)


(もちろんマリーベルさんは姫騎士ですから防御加護で守られていますし、デュエル・アリーナも強固な結界魔法で覆われています。そういう意味では安全ですが──)


(この勝負は、負けってことか――)

(……はい、残念ながら)


 このままではマリーベルが負ける。

 負けたらマリーベルのプライドはズタボロになるだろう。

 移籍も決まってしまう。


 さてと。

 切り札を切るなら、ここか。


 そもそも効果があるかは分からないし、そんなたいしたもんでもないし、根拠がある訳でもなくただの思い付きに近いものだし、ぶっちゃけ切り札というのもおこがましい。


 だがチームのデュエル・アナリストとして。

 心を開いて辛い過去を話してくれたマリーベルの想いに応えるためにも。


 たとえ0.1%の足しにしかならなくても、やらないで負けることだけはできなかった。


(リュカ、ちょっと耳を貸してくれ)

(なんでしょう?)


(今からマリーベル特別支援作戦を開始する)

(特別支援作戦!? つまり奥の手ということですね! ラジャーです!)


(詳しく説明している暇はないから、とりあえず俺の言った通りに行動して欲しい)

(お任せください!)


(リュカにして欲しいのは──)


 俺はリュカに作戦概要を説明すると、直ちにマリーベル特別支援作戦を実行に移した!


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