第194話 米の為なら
自らの行いから起きている事だが、やはり今の現状はキツイ。でもこれを乗り越えれば、丸投げハッピー生活が待っている筈。もしそれでも無理なら、ダンジョン引きこもり生活も選択肢にはある。
「ふぅ~~、修理の注文はこれで終わり。そろそろ精油の方も出来てるみたいだから、これも錬成陣で分離しよう」
こういう時本当に魔法や錬成陣て便利だよな。前世の方法で作ると精油は水の上に浮く形で取れるから、その部分だけを取るのが結構難しい。それが錬成陣なら簡単に精油部分だけを分離出来るんだから錬成陣さまさまだよ。
――ん? それが出来るなら初めから錬成陣で原料から精油だけを分離できないのかな? という事でやってみたんですが、何故か魔力が物凄く必要だった。俺ならこれでも出来るけど、普通の人には無理だな……。もしかしたらこれも熟成魔法のような物かな? 普通にやる事が出来る物を魔法で代用しようとすると魔力が大量に必要になる。そういう法則じみたものがあるのかな?
ただ、それだけでは無いようには思うな。だって、鉱物から成分を分離するのはそんなに魔力を使わないからな。
「マーク、そろそろご飯だよ」
「は~~い! 今行くよ」
今日も夕飯はパンか。もうそろそろ禁断症状が出てきそうだな。まして持っていない訳じゃないのに米が食べられないのは物凄い苦痛だ。だけど、これは日本酒を作る為に取って置かないと、みんなに怒られそうだもんな……。
だが! 日本人としては米が食べたいのだ! なんとか誤魔化してでもご飯を炊けないかな? そうだ! 日本酒作りで……、いや駄目だ。日本酒作りの時の米は炊くではなく、蒸すだもんな。
味噌と醤油の特許も登録しに行ってるんだから、ここは何とかそれに合う米を何とかうちの中だけでも普及させたい。でもひとつ気に成っている事があるんだよな。あの湖の所にあった米の成長に変化があるんじゃないかとね。それはソラのダンジョンの成長速度にあの湖の近辺の魔力が結構使われているからだ。
あそこから魔力が噴き出ているなら良いが、そうではなく、あそこに入った魔力が変化してるなら、今までより魔力が薄くなっている可能性がある。そうなると米の成長が遅れるかも知れない。どうしたらいいかな? 確認に行く? いや今はそんな時間はないな。う~~ん、しょうがないか、この手はあまり使いたくなかったけど、ソラの力を借りよう。近いうちにもう一度ダンジョンに行って、米の生産を何処かの階層で頼もう。
こんな事を食事中にずっと考えていたから、母ちゃんと婆ちゃんに変な目で見られ、追及されてしまった。まぁ隠す事でもないので正直に話したけどね。
「マークはそんなに米が食べたいのかい?」
「無茶苦茶食べたい!」
「マークちゃんがそこまで言うのなら、一度私達も食べてみるかね」
「良かった! それなら、とー達が帰ってくる日に準備するよ」
何とか母ちゃん達の了解は取れたから、日本酒作りにも必要な精米機を作らないとな。さてどういう仕組みにしようか? 普通は圧力式が主流なんだけどこの世界では簡単じゃないよな。先ずモーターのような高速回転は無理だから、それをどうするかだな。
水車を利用した突くという動作で、籾殻を取ったり精米する事も出来るけど、それは今この村では出来ないから、自家消費分だけの籾取りと精米が出来る小型の装置が必要だ。
先ずは籾摺りだが、これはスライムゼリーを使ったゴム籾摺りを作ろう。それに魔石に生活魔法のウィンドを付与して、風の力で籾殻を飛ばして玄米にする。多分俺が作った物では一度に全てを玄米にする事は出来ないだろうから、何度か繰り返せばいいだろう。
次は精米だが、こちらは圧力式、まぁ単純に玄米同士を擦り合わせて、白米にすると言う方法。どうせこの先水車も作る予定だから、色んな形の歯車を組み合わせて前世の機械式精米機の構造を手動で動かす。構造的には網目の小さな筒を作ってその中でスライムゼリーで作ったゴムの羽を回転させるだけ。
将来的に日本酒を作るにはこれを水車の動力で出来るようにすれば、精米具合は幾らでも調節出来るから大吟醸も夢じゃない。
夕食後、米の精米のOKが出たので構造を考え簡単な設計図を書いて就寝。翌日朝早くから作業に取り掛かろうとしていたら、当然のように母ちゃんから待ったが掛かった。
「マーク、気持ちは分かるけど、他の作業をしなくて良いとは言っていないよ」
「そ、そうだね。そんな事は確かに言っていないね」
結局、俺は店の仕事と違う植物の精油作り、それと同時にオーク樽、籾摺り機、精米機の部品作りを夕方までやって、夕食後に籾摺り機と精米機の組み立てをし漸く完成させた。まぁうちの母ちゃんがそんなに甘い訳ないよね……。
翌日、今日は父ちゃん達が帰って来るから米がやっと食べられる。しかしそれにはもう一つ必要な物がある。そう羽釜である。やっぱり米を炊くなら羽釜か土鍋だよね。だけどこの家には土鍋は無いし、作ろうにも現状面倒だ。その点羽釜ならうちは鍛冶屋だから作れるという事で、ここは母ちゃんが何といおうと譲らず羽釜を作り始めた。
と、偉そうに言っているが本当はオーク樽の金属部品を作るという名目で作っているのだ……。
「婆ちゃん、ちょっと手を貸して欲しんだけど良いかな?」
「マークちゃんは私が遊んでるように見えるのかい?」
「いやそうじゃないけど、店番をしながらで良いからこれを回して欲しいんだ」
俺が婆ちゃんに嫌味を言われながらも渡したのは手動の精米機。本当は籾摺りからやって欲しかったけど、流石に店番しながらでは無理なので、眠たい目を擦りながら、昨日の夜のうちに俺が籾摺りまではやって置いた。
「これを回すだけで良いのかい?」
「そうだよ。僕が良いというまでだけどね」
「その言い方は気になるね」
「だ、大丈夫! そんなに長くは必要ないと思うから……」
婆ちゃんにはこう言ったが、正直、どのくらいの時間掛るかは俺にも分からない。それはしょうがないよ手動式で始めてやるんだから。
その後、何度も婆ちゃんに呼ばれたけど、白米と言える程に精米出来ていなかったので、休みながらでも良いから回し続けて欲しいとお願いした。結局、最終的に熟成酒小樽一つで手を打ったけどね。
『はぁ~~無茶苦茶高くついたな。でも米を食べる為にはしょうがないか。今日だけだからな』
一度米の美味しさを知れば、家族の気持ちは変わると信じての行動だったが、さてどうなるか……?
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