第179話 現状のダンジョン

「領主様の所に行くのは皆がダンジョンに言ってからで良いんじゃない。だから、誰が行くかもその後決めよう」


「マークの言う通りだな。誰が行くにしても一度は皆で見に行く必要があるな」


「ルイスよ、やはりわしらも行かんといかんか?」


「父さん、その方が良いと思うな。わしでさえ完成したダンジョンは見ていないからな」


「ルイス、それはどういう事じゃ?」


 俺もすっかり忘れてたけど、ダンジョンが完成してるのは誰も見ていないんだよな。ダンジョンの主の俺でさえね……。あの後定期的にソラから連絡は来ているから、どの程度出来上がっているかは聞いているが、俺もこの目で実際には見ていないから、全貌は知らない。


「あぁそれは出来てる途中を見ただけという意味だ。わしがマークとダンジョンに入った時はまだ色々出来ている時じゃったからな」


「そうなのか……。という事はエンターも知らんのか?」


「ルベリ爺ちゃん、とー達は知らないよ! その時、酔っぱらって寝てたからね」


 俺がそう言った時、またまた皆の視線が父ちゃんに向けられた。今度は「ドワーフのくせに」という感じの視線だったが、どう勘違いしたのか、父ちゃんは頭を掻きながら照れていた。


『とー、そこは照れる所じゃないぞ。皆はどちらかというとバカにしてるんだからな』


 そんな事を考えながらも、この後ダンジョンについてどう説明しようか俺は悩んでいた。だってソラからの連絡で、もう十階層まで完成していると聞かされているからだ。ましてその時の連絡の内容に相談が含まれていて、フロアーボスをどの階層に置くかという事と、どんな魔物にしようかという相談だったからだ。


 ダンジョンと言えばフロアーボスは定番で、大体が階層ごとか、五、十とかの区切りの良い階数に存在していて、それを突破出来ないと次の階層に行けない仕組みに成っている。そんな中、今回ソラの作ったダンジョンは特級ダンジョンで、階層一つずつが物凄く広いので、ソラはフロアーボスの配置階に悩み、俺に相談して来たという事です。勿論、この相談は前回のソラのダンジョン運営の失敗の経験があるからですが、まぁ俺も勝手にはやるなと言ってありましたけどね……。


 結局、俺はマスターとして、フロアーごとではなく五階層ごとにフロアーボスを配置しろと指示しました。そして俺が選んだ、初めの五階層目のフロアーボスは以外にも普通のオーク五匹です。その次の十階層目はこれまた定番のオークジェネラル。何故俺はこんなに簡単そうなボスにしたのか? それはこのダンジョンが将来百階層まで行くからです。それなのに五階層のフロアーボスが、オークでもジェネラルやキングだったら、その先のボスは何だという事になり、挑む人が居なくなるし、初心者が来れないダンジョンになってしまうからです。


 俺の理想の特級ダンジョンは、初心者から上級者まで来れるダンジョンなんです。前世の異世界物に良くある特級ダンジョンは、上級者しか行けないダンジョンというのが多かったですよね。それだと行ける人が限られてしまって、この世界のダンジョンで起こるスタンピードが、冒険者だけでは防止出来ないダンジョンになってしまいます。そうすると、結局は現状のような領主や国が大きく関与するダンジョンになってしまい碌な事にならないのです。


 ここの領主はそういう事はないと無いと思いますが、領主が絡むと碌なことがないのは、前のソラのダンジョンで証明されていますから用心は必要です。ただ、俺が悩んでいるのはそこではないんだよ……。


「マークよ、さっきから偉く大人しいな。何を考えておるんじゃ?」


「ごめんルイス爺ちゃん。ちょっとダンジョンについて考えてた」


「ダンジョンがどうかしたのか?」


「それが……」


「マークよ、はっきりせい! 男らしくないぞ!」


「だったら言うけど驚かないでね。ダンジョンは現状十階層まで出来ています!」


「マ、マーク! ちょっと早すぎないか!? ついこの間作り始めたのにもう十階層まで出来てるって……」


 俺だってソラから報告を受ける度に驚いていたんだよ。最初作り始めた時でもいきなり五階層まで作ったし、ソラ自身は将来百階層になる所に居たからね。ただそれでもこの後はペースも落ちるだろうと思っていたのに、それどころか、一か月も経っていないのに、もう十階層でフロアーボスで悩むぐらいまで出来ているという。


「それは僕だって驚いているの。まして完成が十階層だからね」


「おい、マーク! その言い方だと完成していない階層はもっとという事になるぞ!」


「ルイス爺ちゃん、ソラの報告では現状階層だけで言えば、既に十五階層まで出来ているんだって」


「マーク、このペースで行くと百階層なんて直ぐに出来てしまうんじゃないのか?」


「多分それは無いと思うよ。このペースで作れているのは僕のダンジョン設計が現状甘いからだと思うからね」


 確かに俺のフロアーボスの配置から見ても甘い設計だから、当然各フロアーに出る魔物もそれなりのものしか出ないので、魔物生成に必要な魔力が少ない分ペースが速くなっていると思えるが、俺はそれだけではないと思っている。ルイス爺ちゃんにはこう言ったけどね……。


「そんなに楽なダンジョンにしたのか、特級ダンジョンなんだろう?」


「僕の計画では初心者から上級者まで来れる特級ダンジョンだから、前半はかなり緩めに作ってるよ」


「それでもあの広さだからな……」


「親父、そんなに広いのか?」


「エンターよ、わしは他のダンジョンに入った事がないから、良くは分からんが、あの広さはかなり広い物だと思うぞ。この村が十個は軽く入るぐらいの広さがあるからな」


「…………」


 これはあの何もないダンジョンを見た事のある、ルイス爺ちゃんだから言える事だ。まぁ今見てもかなり広いとは思えるだろうけど、森が出来ていたりしたら、分かり辛い物だからね。


「何だい? この雰囲気は? マーク、何かあったのかい!?」


 男達だけで領主様の所に誰が行くかから始まって、ダンジョンについて話していたら、最後に皆が沈黙してしまうような事をルイス爺ちゃんが言ったタイミングで母ちゃん達が風呂から出て来た。


 天使の輪を髪に乗せて……。




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