第178話 男だけの話し合い
これまで俺が考えていた計画がかなり変わってしまった。だって、王都の家族がここに住むなんて想定外だよ。ましてこの村に店と工房まで作るというんだから、勘弁して欲しい。これだけ濃い家族だよ、マイカ婆ちゃん一人でもあれだけ苦労したんだから、考えるだけでも胃がキリキリ痛くなる。五歳でこれじゃ、胃癌になって俺はこの世界でも早死にするんじゃないか? 今度はせめて大往生と言われるぐらいまでは行きたいからね。ドワーフだと200歳ぐらいかな……?
その為には、毎日HPポーションを飲み続けよう……、いや? それって逆効果になる可能性もあるな。魔法薬という特殊な物を毎日なんて飲んでいたら、細胞が突然変異を起こしてかえって癌になり易いんじゃないだろうか?
そうだな、何事も程々にが一番だ。一切それを実行していない俺がそれを言っても説得力も何も無いけどね……。
「それでこれからどうするの?」
「マーク、その話はまだだよ。あんたはまだ私らにシャンプーとリンスの作り方を教えていないよ。それに売るなら自分で体験してみないとね」
母ちゃんがいう事はそうなんだが、現状、獣脂石鹸も作っていないし、精油も作っていない。それに今は季節的に冬の終わりだから、香りの良い植物や花がそんなにないから精油が作れないんだよ。でもここで作らないと大変な事になりそうだから、取り敢えずある物で作るしかないよな。
「今は材料がないから、あり合わせで作るけど良いかな? 春になればもっと良い物が出来るからそれまでは我慢して」
「それで良いから兎に角作って見せな」
それから、大豆油で作った石鹸を使って何の香りも付けていない極普通のシャンプーを熟成魔法を使って作り、うちにあったワインビネガーでリンスを作って見せた。
「これがシャンプーとリンスなんだね。それで使い方はどうするんだい?」
「使い方は……」
俺が一通り使い方を教えた瞬間、その場から一斉に女性陣が消えた。水魔法が使えるロジー婆ちゃんがいるから風呂の水は問題ないし、沸かすのは魔道具だから魔石があれば良いし、魔石に魔力が足りなければ、母ちゃんとマイカ婆ちゃんが補充すればいいから、俺がいなくても良いという事で、直ぐにシャンプーとリンスを試しに向かった。
「女は怖いな……」
「そうだな……」
「何言ってるのさ、こんなもんでそんなに恐怖してたら、この先、身が持たないよ!」
「マーク、それは他にもあいつらが喜びそうな物があるという事だな?」
「あるよ」
また言ってしまった。お気に入りの言葉「あるよ」 まぁ本当にあるから、間違いでは無いんだが、正直どこまで教えるかなんだよな。この世界に白粉はあるんだろうか? 俺自身が高貴な人にあった事も無いし、化粧をしている人を見た事も無いから分からない。前世の中世などでは鉛を使った白粉が主流だったが、人に害のある物だったから、近世には使われなくなった。口紅なんかは日本では紅花から作られる物一択で、現在でもその製法は引き継がれているが、物凄く高額で、おちょこぐらいの入れ物で六万~七万円するらしい。
他にも乳液、ハンドクリームなど、一般的に使われていた物ならそんなに作るのも難しくないから、広めることは出来る。ましてこの世界は魔法の世界だから、上手く行けば保存魔法も可能かもしれないから、防腐剤などを使わなくて良いので肌に優しい物が作れる。ただ熟成魔法同様、必要魔力は多いだろうから、それをどうするかが問題だが……。
あ! そう言えば、昔の白粉に真珠やタルク(滑石)が使われていたというのを聞いたことがある。ここは海も近いし、真珠が獲れる可能性もあるし、あの湖の辺りならもしかするとタルクが見つかるかも? 神秘的な不思議な場所だからな……。
「あいつらが喜ぶ物があるのは良いが、今はそれどころでは無いだろう。先ずは領主様にダンジョンの事を何時誰が話しに行くかだ」
商人のルベリ爺ちゃんがその場を仕切ってそう言った瞬間、一斉に皆が父ちゃんの方を見た。
「おいおい、わしか? わしは無理だぞ。鉄鉱石の鉱山の時でもビビりまくっていたんだから」
「エンター、それでも自由採掘権はもぎ取ったんだろう。それなら大丈夫だ」
「いやいや爺さん、あれもマークのお陰なんだ。マークが作った無茶苦茶性能の良い鶴嘴があったのと、キノコがあったから気安く話が出来たんだ」
「それなら、今回もマークが作った物を持って行けば、領主様も快く後ろ盾になってくれるだろう?」
そうかな……? 確かにそういう手もあると思うけど、俺の作った物より、父ちゃん達が作った物の方が良いと思うけどな。だって俺が作る物って性能が良過ぎるから、わざわざ性能が落ちるようにしていたんだから、それなら世間に普通に売り出せる物の方が喜ばれるし、変に疑われないと思うけどな。それにダンジョンに領主様を連れて行った時に、それを使わせたら
「僕が作った物より、とーが作った物の方が良いと思うよ。量産出来ると思って貰えるからね。それに母ちゃん達が作った物も手土産にすればもっと効果があると思うよ」
「マーク、それは伯爵様の時に使ったやり方だな」
「そう、女性を味方に付けるのは良い方法だと思うよ。うちのかー達を見ていても分かるでしょ」
「それなら、モリーにも行って貰うか?」
「それも良いけど、僕としてはルイス爺ちゃんとルベリ爺ちゃんが一緒に行くべきだと思うな」
だってこの二人は商人だし、一人は王都の事にも詳しいからその先の展望まで話せるし、もう一人は領主様の寄り親である伯爵様と顔見知りだ。
「わしらもか?」
「そうだよ。この先世界規模の特許制度を作って貰うなら、その説明が出来る人じゃないと無理でしょ。とーが駄目じゃなくてそこは餅は餅屋というからね……」
「また訳の分からん言葉が出てきたが、『酒は酒屋』と似たような事だろう。それなら分からんでもない」
へぇ~~、この世界にも「酒は酒屋」という言葉はあるんだ。前世では「酒は酒屋に茶は茶屋に」だけどよく似てるな。これってドワーフだけに通じる言葉だったりして?
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