第177話 これからの計画

 王都組の人達も思い切ったな。この村に引っ越して来て、店と工房まで作ると言うのだから……。


「店と工房を作るというけど何処に作るの? それに皆が引っ越して来るんだったら、店を最低でも三つは作らないといけないよ」


 俺が何故こう言ったのか、それは、皆がどのくらいの店や工房を予定してるのか分からないけど、正直この村の中には現状建てるような場所はないんだよ。


 まぁダンジョンが公表されて、領主様がこの村を拡張すれば別だけど、それまでは現状維持だろうし、多分優先するのは冒険者の宿泊場所やその人達に関係する物だと思う。子供には関係ないけど、当然、〇〇館のようなものも優先的に作られるだろう。


「いや、店は一つだ。そして工房はこの村の外に作るつもりだ」


「は! それはどういう事?」


「まぁ一つと言っても大きめの物を作るがな。それと工房を村の外と言っても、この店の裏手に作る予定だ……」


 その後も大雑把な計画だが店と工房について話してくれた。その内容はこうだ。店はうちの店の家庭菜園を潰して、その他に続きの土地を確保して店舗を建てる。それも地下一階で地上二階建てだという。そして、工房のほうはうちの家の裏の村の外壁に隣接して建てて、地下通路で行き来するという物だった。


「そんな事するぐらいだったら、僕はその前に領主様に話しに行った方が良いと思うけどな。ダンジョンを発見したと言って」


「マークよ、それも考えたんだが、それだと良い場所が無くなるかもしれないだろう」


「ルベリ爺ちゃん、そんな事はないよ。ダンジョンの発見の褒美に良い場所をお願いすれば良いんだから。それにダンジョンの報告の前にそんな事したら村中で噂になるよ」


「マークのいう事も分かるんだが、それだと従業員の募集を掛けられないんだ」


「それは分かるけど、かーはそれで良いの? ずっと大事にしていた家庭菜園だよ。それに菜園を潰されると風呂の排水処理にも困るんだけど」


「マークが気にしてくれるのは有り難いけど、これから私も菜園をやる暇が無くなると思うんだよ。今までは趣味程度にしか彫金もしていなかったから、暇な時間があったけど、これからは酒の熟成、石鹸の熟成、場合によっては魔石魔道具やアクセサリーの魔道具も作る事になるだろう。そうなったらもう菜園なんてやる暇がないんだよ」


 母ちゃんのいう事ももっとも何だよな。その原因を作ったのは俺だから、それ以上反論できない。だけど、村が拡張する前に店と工房を作るというのはやはり目立つよ。それこそダンジョン発見の報告を遅らせたと言って処罰されかねない。


「ルベリ爺ちゃんもセガール爺ちゃんも皆一度は王都に帰らないといけないでしょ。それに、そうなったらルイス爺ちゃん達も店に戻ってやる事があるんじゃない。一応は一時的にここに居る事になっているんだから……」


 もうここの住民のような顔をして住んでるけど、正確にはルイス爺ちゃんが蒸留酒を王都に届けるまでが一区切りだった筈なんだ。それをなんやかんやでズルズル来てるのが今の現状だからね。俺も村組なんて言う区切りに入れてるから、強くは言えないけど。


「もしマークが言うように、ダンジョンの事を領主様に報告するとして、ミスリルについてはどうするんだ?」


「それは当分言わないよ。原料に関してまで言わなくても、付与武器は作れるでしょ。ましてダンジョンの壁からミスリルを採掘出来るのは当分うちだけだからね」


「確かにそうだな。それにダンジョンからミスリルが採れるとなると、世界中のダンジョンで騒ぎになる。もしそうなったらもう国王様に出て来て貰わないと収拾が出来ないだろうからな」


「正直、この村は世界でも有名になる筈だから、作るなら特大の店を作るべきだし、工房も一つや二つでは済まなくなるよ。それに協力者はちゃんと作っておいた方が良いと思うよ。俗に言う後ろ盾だね……」


「そうなると、先ずは領主様、次には伯爵様だな。その後はもう任せれば良いか」


 実際そうなると思うんだよね。王都組が加わっても、結局は小さな店だから、先ずは地盤固めから初めて、最終的に王家に出て来て貰うのは伯爵様に任せれば良い。だって法律に特許制度があるんだから、うちはその範囲内で儲ければ充分だ。領や国が儲ける分は貴族に任せれば良い事。正直世界規模の販路を作るような商売は俺は出来るならしたくないんだよね。それをするぐらいなら世界規模の特許制度を作ってくれた方がどれだけ儲かるか。


「とー、それで良いと思うよ。出来ればその時に、世界規模の特許制度を作って貰えるように話せれば一番かな」


「マークの言う通りかな。わしらが世界を跨ぐような商売をするなら別じゃが、国内での生産と販売だけ出来れば充分じゃし、当分隠すこともあるなら、その方が良いな」


 父ちゃんはそう言いながら俺の方を見て来たが、多分秘匿する事はミスリルではなく、銅鉱脈と湖の事だ。勿論、ミスリルも当分は秘匿するけど、銅鉱脈と湖の件は俺達もまだ解明できていないから、今は出来ないと思っている。


「エンターよ、でもどうやって世界規模の特許制度をお願いするんじゃ?」


「先ずは馬車のベアリングと板バネで良いんじゃないか? あれなら世界中の王侯貴族や豪商は絶対に欲しがるだろうから、国も動くだろう」


「エンター、それだけじゃないわよ。石鹸やシャンプーなんかでも動くと思うわ!」


 母ちゃんが持ち出したから思い出したけど、俺はまだシャンプーとリンスの材料と作り方を教えていないし、実際に作って見せてないんだよな……。このままは拙いよね。香水の話はしなくても、エッセンシャルオイルや大豆レシチンの話はしないと、大豆の増産計画も課題だからな。


「ルベリ爺ちゃん、かーが言った石鹸に関しては獣脂で作るから、大豆の増産は止める? 他にも味噌や醤油にも関係してくるし、他にも色々使い道はあるんだけど?」


 味噌と醤油は勿論の事、この村は離れているとはいえ、内陸程、海からそんなに離れていないから、にがりの採取も出来るから豆腐も作れるし、大豆油の搾りかすにも使い道は多い。なんならスライムゼリー肥料にだって応用出来るかも知れない。


 ダンジョンを当てにした計画が出来て来た以上、これは一日でも早くダンジョンに皆で行かないとな。


 ソラからも連絡が来ているから……。

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