第176話 シャンプーとリンス
獣脂による石鹸製造が可能だという事を暴露してしまったから、当然、石鹸などの美容用品に興味がある女性陣が色めきだった。ただ、どちらにしても人手が足りないという事は変らないので、その点についてどう考えるのか興味深い。爺ちゃんと父ちゃんは解決出来なかったからね。
獣脂石鹸について女性陣が話し合っている所に、何故かルイス爺ちゃんとルベリ爺ちゃんが引き込まれ何やら質問攻めにあっているようだ。だが俺にはそんな事関係ないし、今はシャンプーとリンスの事を考える方が大事なので、そちらに集中する。
この間から、シャンプーとリンスに関しては考えているんだが、どの作り方にしようかかなり迷っているんだよね。古典的シャンプーやリンスの作り方なら簡単なんだけど、それで良いのかと思ってしまう前世持ちの俺……。
シャンプーなら物凄く簡単なのが小麦粉シャンプーなんだが、これは日持ちがしないんだよね。それに自分で作ろうと思えば作れる物だから、商売にはならない。そうなるとやはり石鹸シャンプーが一番無難なんだよ。石鹸を作るんだから原材料で困る事がない。当然、獣脂石鹸でも作れるからだ。
獣脂石鹸シャンプーの作り方。
・石鹸を細かく砕いて、水(蒸留水又は一度沸騰させた水)と混ぜ合わせます。
・エッセンシャルオイルと乾燥花を加え、よく混ぜます。
・混合物をガラス容器に入れ、1週間ほど置いて自然に発酵させます。
・発酵が終わったら、濾してシャンプーとして使用します。
こんな感じなんだが、難点が二つ程ある。その一つがエッセンシャルオイル。先ずこれを作らないとやはり匂い対策が出来ない。まぁこれは蒸留と同じ方法で出来るので、そう難しくはないのだが、これを作ってしまうと香水も作れる事になるので、美容用品が増えてややしい事になる。香水はエタノールと精油(エッセンシャルオイル)で、出来ちゃうんだよ。まぁ言わなきゃ良いんだけどね……。
だけど、酒好きのドワーフがエタノールを作るまで、酒を蒸留するかという疑問は残るんだけどね。エタノールってアルコール度数で言うと通常95~98度の物だから、元の酒が物凄く減るのよ……。
他にも前世知識から、天然の界面活性剤から作るシャンプーもあるんだが、これがなんと、大豆レシチン。それも大豆から搾り採った油に含まれている。大豆レシチンの作り方は、搾油したての油に温水を加えて沈殿させたものを、 遠心分離機 を用いて分け取ったのち、乾燥させてつくるんですが、この世界では錬成陣によって成分を分離できますから、大豆油から大豆レシチンを直接取り出す事が出来る。だが、そうなるとこれまた大豆が足りないという事になるので、今回は見送ったのです。何でこうも色々と被るかな……。
次にリンスですが、これも簡単に作れるのですが、この世界には今のところワインビネガーしか存在しませんので、作り方はこうなります。
・ワインビネガーと水(蒸留水又は一度沸騰させた水)を混ぜ合わせます。
・エッセンシャルオイルを加えて、よく混ぜます。
これで直射日光を避け、密閉度の高い容器に入れておけば数か月はもちます。
ちなみにワインビネガーはワインとバルサミコ酢から作れるんだけど、バルサミコ酢があるならリンスもそれで作れば良いと思うでしょうが、そうは問屋が卸さないのです。バルサミコ酢って滅茶苦茶高いのよ。蒸留酒のようにバルサミコ酢って元の葡萄の量から考えると量が作れないから自然と高くなる。だから、殆ど売っていない……。
う~~~ん、考えたのは良いけど、この作り方を素直に婆ちゃん達が受け入れるな? 全てにアルコールが絡んでいるんだよね。
「マーク、なにブツブツ言いながら考えてるのさ。こっちは結論が出たよ」
「そう、それでどうするの? 獣脂石鹸を作るの?」
「獣脂石鹸については作ることにしたけど、やっぱり根本的問題として人手が足りないという所に行き着くんだよ。そこで、この村に店と工房を作って従業員の募集を掛けることにしたよ」
「え! この村に店を作るの? それに工房も……」
「そうだよ。だってこの村はこれから変わって行くだろう。マークのダンジョンがあるんだから」
確かにそうなると俺も思っていた。ダンジョンそれも特級ダンジョンがこの村に出来れば、多くの人が集まってくるから、村どころの騒ぎではなくなる。恐らく王都に次ぐ街が出来上がるだろう。そうなれば、多くの店も出来るだろうし、流通も凄く増える事になる。多くの店……!
「まさかとは思うけど、皆で此処に引っ越して来るなんて言わないよね?」
「そのまさかだよ。どう考えてもこれまでの物を全部作るとなると、王都で作るよりここで作った方が都合が良いんだよ」
いやいや、言ってる事は分かるけど、それがこの間まで王都至上主義だった人達が考える事。確かに此処には鉄鉱石の鉱山もあるし、田舎だから、色んな材料が栽培出来る。そして原料を遠くまで輸送もしなく良いとなれば、製造コストを下げられる。だけど、ベアリングの製造を頼もうと言っていた鍛冶屋はどうするのさ。
「セガール爺ちゃんは納得してるの? 知り合いの鍛冶屋さんはどうするの?」
「マーク、その事はまだ分からんが、多分行けると思うぞ。あいつの所もうちと一緒で、それ程儲けてはいないが、従業員を雇うぐらいは出来る店だから、支店を作ると思えばやれるだろう。勿論、わしの店もな」
「そういう事。王都から引っ越しては来るけど王都の店は残すって事ね」
俺が勘違いしてたようだな。王都組の店は従業員のいない家族経営の店だと思い込んでいたが、そうではなく中規模もしくはルイス爺ちゃんの店と同じぐらいはあるという事みたいだ。そりゃそうか。そうじゃなきゃこれだけの日数店を閉められないだろうし、馬車も六台、冒険者の護衛もあんなに雇えるわけがない。
「マークもその方が良いだろう。王都に販路があれば都合が良いからな」
「それはそうだけど、本当に良いの?」
「マークよ、正直わしらはここでの暮らしの方が快適になっておるんじゃ。飯は美味いし、風呂もあるんだぞ。こんな生活王都では出来んからな」
ルベリ爺ちゃんの言いたい事は分かる。実際なんやかんやでルイス爺ちゃんもマイカ婆ちゃんもずっとここに居るからね。自分達の店があるにも拘わらずね。勿論、店の経営を任せられる人材がいるというのもあるけど……。
ここに来て俺の思惑が大きく外れて来たけど、これから先いったいどうなるんだろう?
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