第175話 丸投げ一つ決定

「ロジー婆ちゃんの言いたい事は分かるけど、実際にベアリングを作るのはやっぱり鍛冶師だと思うよ。ただ、こういう細かい事が出来るのは彫金師や錬金術師のような魔力操作が上手い人だというのも分かる。だから、この部品だけ作るというのはどうかな?」


「成程、マークが言いたいのは分業をするという事だね」


「そういう事。それに初めに鋳造である程度の形にするのは鍛冶師の仕事だし、その後の微調整が彫金師や錬金術師の仕事だから、覚えるのにもそれ程時間は掛からないと思うよ」


「そうだな。鍛冶師が全部やろうとすれば、それなりの修業期間が必要だろうが、彫金師達ならそれほど時間も掛らんか」


 ここまでは何とかなったけど、問題はこの後だ。実際に誰がこの事業を受け持つのか? それが一番大事なんだよ。俺としてはうちの家族の誰かに受け持って貰いたいんだよね。確かに特許登録するから、誰にでも作れるようになるけど、それでも開発者の身内が一切関与しないというのは嫌なんだよ。まして特許登録だけして、実物を誰も作らないのはおかしな事になるからね。


「それじゃ、この特許は誰が申請する?」


「おい! マーク‼ それはわしたちに特許を売り払うという事か?」


「ルベリ爺ちゃん、何言ってるのさ。売るんじゃなくてあげるの」


「待て待てマーク、それは幾ら何でもおかしいだろう。この特許は結構な利益になるんだぞ」


 ルベリ爺ちゃんの言う事が普通なんだろうけど、正直うちはポンプや蒸留酒、化粧水の特許でかなり儲けている。だから、これ以上こんな小さな村の鍛冶屋が稼いでいると目を付けられるから、利益を分散したいんだ。


「ルベリ爺ちゃんも商人だから分かると思うけど、利益を独り占めにして良い事なんてないでしょ。少し意味は違うけど、実際ルイス爺ちゃんも乗っ取りにあいそうになったからね」


 特許の利益とは違うけど、長年掛けて作り上げた商圏でも狙われるんだから、うちが狙われないという保証はないのだ。それに馬車に関係する物なら貴族とかが思いっきり関係しているから、王都の家族の方が良いんだよね。


「それなら、わしが特許を申請しよう」


「セガール爺ちゃん、木工職人だけど良いの?」


「ああ、但しベアリングを作らせるのはわしの知り合いの鍛冶師だがな」


「セガール爺ちゃん、それじゃその鍛冶師の人が得しないよ」


「そうだ。だからマークに許可が欲しんだが、特許の利益の一部を分配しても良いだろうか?」


「それは全く問題ないよ。かえってその方が良いぐらいだよ」


 セガール爺ちゃんの提案は俺にとっても理想の形だ。利益の独占はしたくないけど、うちの家族が全く絡まないのは一番やりたくない事だから、彫金師のサリー婆ちゃんが絡む、こんな良い条件はない。まして、王都の鍛冶屋なら貴族との繋がりを持っても問題なさそうだしね。


「あ! そうだ! 言うのを忘れていたけど、僕の作ったベアリング付きの馬車にはブレーキが必ず必要になるから、木工職人のセガール爺ちゃんはうってつけだね」


「ブレーキ? ――あぁあれか!」


「そう言えば、セガール爺ちゃんがその鍛冶師の人と知り合いなのって、馬車を作った事があるからなの?」


「そうだ。王都の木工職人と言えば何でも屋に近いからな」


 そりゃそうか。職業が大工であろうと木工職人であろうと、木を扱う事に変わりはないから木工スキルが発現するもんな。それに馬車職人なんていう職業はないから、大工や木工職人がそれをやるんだ。ただ大型の物、例えば家や橋なんていう物は大工の職業の人が得意で、その逆に木皿のような小さい物は木工職人の方が得意なだけなんだ。


「これで、馬車関係の事は良いね。そしたら次はポーションだけど、これはロジー婆ちゃんに任せて良いよね」


「マーク、何ついでのように決めてるのさ! 私はやるとも何とも言っていないよ!」


「それはないよロジー婆ちゃん。錬金術師が一人しかいないのに、それを拒否するの? 家族としておかしくない?」


「マーク、あんたね、あのポーションが世の中に出たら、どういう事になるのか分かって言っているのかい?」


「勿論、分かって言っているよ! でもそれじゃロジー婆ちゃんはあのポーションを秘匿するの? 多くの人が安価で怪我が治るし、まだ作っていないけど、魔力も大幅に回復するだろうし、毒消しも効果が上がると思うよ……」


「それは……」


 ここまでロジー婆ちゃんがポーションの特許申請に関わりたがらないのは、恐らく酒の熟成と美容用品に関わりたいからだと思うんだ。それにまだ作っていない、魔力ポーションや毒消しポーションを自分が作らなきゃいけないし、それに加えて、中級、上級の全てのポーションの研究も自分がしなくてはいけなくなるから、嫌なんだと思う。


「こうなったらしょうがない。 ポーションの研究は僕がするから特許の申請だけお願いできないかな?」


「マーク、それじゃ特許の申請はかなり先になるという事だね!」


「まぁそうなるよね。ポーションの材料から揃えないといけないからね」


「それなら良いよ。それまで私は好きな事が出来る事になるからね」


 やっぱりそうだよ。ロジー婆ちゃんは他にやりたい事があるから渋っていたんだ。

 

「それでロジー婆ちゃんは何がやりたいの?」


「そりゃ勿論、石鹸、シャンプー、リンスだよ」


 当然そうだとは思ったけど、酒の熟成を言わない所がうちの家族らしいよ。だって、石鹸の熟成にも熟成魔法を使うから、それで熟成魔法の修行が出来るんだよ。その結果、酒は作らなくても、自分の飲む分の酒の熟成は出来るようになる。


「ロジー婆ちゃん、石鹸はまだ直ぐには売りに出せないよ。材料が足りないからね。まぁ別の材料の見当は付いているけど……」


「ちょっと待った~~~! 今聞き捨てならない事をマークは言ったね。その別の材料とは何だい?」


「かー、それは、大豆油の代わりに獣脂を使うんだよ。勿論、品質は落ちるし、場合によっては臭いかもしれない。まぁ色々試作してみないと分からないけどね」


「マークちゃん、そんな話は初めて聞いたけど、どういう事だい?」


「マイカ婆ちゃん、油という考えなら、獣脂でも良いんだけど、どうせ作るなら、やっぱり品質も良く、匂いも良い方が良いでしょ。だから、話すのをやめておいたの」


 ここまで来たら、もう話すしかないと思い、獣脂石鹸の話をしたけど、さてどういう結論を出すかな? 

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