第180話 時は金なり
ダンジョンの広さに驚いて、皆が黙ってしまった時に母ちゃん達がシャンプーとリンスを試して戻って来た。そこでこの雰囲気について聞かれたので、正直に全て話したら、母ちゃん達も同じように固まってしまった。まぁ特に母ちゃんはダンジョンという物に多少なりとも知識があるから余計にだが……。
「それで、かー、シャンプーとリンスの使い心地はどう?」
「……あぁ、それは見ての通りだよ。こんなに髪が綺麗になってサラサラするのは初めてだよ。これは絶対に売れるよ!」
「それは良かったね。でも先ずは石鹸をどうするかだよ。人手と場所が無ければ作れないからね。それにもう一つ今回は使っていない物があるから、それも考えないといけないよ」
「今回は使っていない物?」
「それは獣脂石鹸と獣脂石鹸から作るシャンプーにも欠かせないし、リンスにもあった方が良い物だよ」
「それは何だい?」
「精油という物なんだけど、今の時期だと手に入れるのが難しいんだ。主に花や草から作れる物だからね」
大豆油から作る石鹸を後回しにすると言う事までは良いんだけど、獣脂石鹸には出来れば精油は使いたいんだよね。庶民向けならそれでも悪くは無いけど、特許を登録すれば直ぐに真似されるから、そうなった時に精油で直ぐに対抗したいから、精油が作れる時期以降にしたい。まぁどう考えても今の現状、ただの獣脂石鹸でも販売が出来るようになるのは春以降だ。
「それは、大丈夫だよ。どう考えても石鹸やシャンプーを売りに出したら大変な事になるのは分かっているから、こちらも万全な体制を作ってからにするよ。だからその精油が作れる季節は間違いなく過ぎるから安心して良いよ」
「それが分かってくれているならいいや。本当に凄い事になると思うからね」
「それでマーク、この後はダンジョンに皆で行くんだね?」
「そうなんだけど、皆がこの調子だから如何しようかと?」
「まぁ、こうなるのは仕方が無いよ。ダンジョンを知っている私でも驚きの広さだからね」
母ちゃんはこう言うけど、ここでこの状態だと実物を見たらどうなるんだよと思うから、どうするか悩んでいるんだよ。本当に連れて行って大丈夫か……? それに王都組は戦闘経験が殆どないから、どうやってレベル上げするかも考えないといけない。最悪、パワーレベリングでも良いんだけど、出来たら簡単な魔法は覚えて貰ってから行ければ良いんんだけど、滞在期間がこれ以上伸ばせそうにないから時間が足りない。だって冒険者の護衛がいるからね……。
ん! 冒険者の護衛……! これ上手く使えないかな? どうせあの人達も王都にうちの家族と一緒に帰るんだから、ここのダンジョンの宣伝に使えないだろうか? 確かにまだ領主様に報告していないから拙い部分もあるが、実物を見た冒険者が王都で宣伝するのと、素人のうちの家族が噂で広めるのとでは大きな違いが出る筈。その違いから、先ず、評判が広まるスピードと信憑性に大きな違いが出る。そうすると、人の集まり方が大きく違ってくるだろうから、ソラのダンジョンのスタートダッシュにかなり影響する。
しかしな~~~、やっぱり報告は先だよな~~~。そうしないと冒険者が報告を先にしかねないからな。どんなに人の良さそうな人でも、金に目がくらう事はあるからな。うん、この考えは一旦保留にしよう! 兎に角今はダンジョンに皆で行ってから考えよう。
「良し! 此処でウダウダ考えてもしょうがない。かー、今から皆でダンジョンに行くよ!」
「な、何を言ってるのさ。今からなんて無理に決まってるでしょう」
「かー、そんなことは無いよ。僕の荷車なら王都の家族全員乗れるし、身体強化を使えば多少しんどいだろうけど、行けない事はないよ!」
「マーク、あんた鬼だね。あの荷車を身体強化で牽いたら、後ろの人間は確実に酔うよ……」
思い立ったが吉日という言葉があるように、俺は今直ぐダンジョンに皆を問答無用で連れて行こうと思う。どうせ時間がないんだから、これが正解だ! それにダンジョンに行けば自給自足も可能だから、必要な物なんてないからね。
「鬼にもなるよ。時間が無いんだから……」
この時間がないというのは俺の時間が無いという事。勿論、王都の家族の時間がない事でもある。だが、俺がこういうのには理由がある。それは全てを丸投げしたいからだ。その為には詰め込めるだけ全部この機会に皆に詰め込みたいんだよ。そうしないと今回のように色んな事に俺が対応しないといけなくなるからね。
「マーク、そこまで焦らなくても良いんじゃないのかい? 誰も逃げたりはしないよ。皆も戻って来るんだし……」
「かー、それは違うよ。人は逃げないけど、時間は逃げるんだよ。『時は金なり』という言葉があるぐらいにね」
この「時は金なり」という言葉は英語のTime is moneyから来ている言葉で、前世では物凄く有名なベンジャミン・フランクリン(100ドル札の人)の残した言葉です。ですが本来の意味は「時間を浪費するのは周囲のせいではない、常に自分が選択している。自らが利益になるための行動をおこせ」という考え方です。ですから鬼と言われようと、今回の俺の行動もそれに従っただけ。俺の丸投げの為にはこの人達を使えという行動なのです。
「マークのその言葉も前世のものなんでしょうが、その言葉は私にも何となく理解出来るよ。時間は大切だからね。私らも『時間は酒なり、無駄にすれば味が失われる』というからね」
マジか、そんな格言を言うような偉いドワーフも居たんだな……。
「かー、そういう事で皆を正気に戻して出発するよ!」
「マーク、それは良いけど、持って行けるものは適当にあんたが持って行くんだよ。幾ら何でも何もないでは困るからね」
「分かった。適当にアイテムボックスに入れて持って行くよ」
「あぁそれと、皆を荷車に乗せるのは村を出てからにしてあげなよ。流石に可愛そうだから……」
「流石にそんな事はしないよ。それに村から出るのに荷車に何も積んでいなかったら怪しまれるでしょう」
母ちゃんとそんな問答をした後、皆が正気に戻ったので、問答無用でダンジョンに行くと宣言して、村の外に連れ出した。
そう言えば、お昼も食べずに色々やってたんだな……。
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