第190話 錬成鍛冶と冒険者
「それじゃ、わしは冒険者に会ってくる。戻るまではモリー達だけで新酒作りを頼む」
「あいよ! 任せときな。だけどエンターが帰って来たらあんたが作るんだよ」
「それは良いんだが、わしもそろそろ熟成酒に挑戦したいんだがな」
「エンター、あんたはそれよりもっと付与の方を習熟しな。うちは鍛冶屋なんだからね」
う~~ん、母ちゃんの言ってる事も正しいけど、俺からすれば彫金師も変わらないんだけどな。これから魔石魔道具が色々作られて売りに出されるようになるはずだから、指輪やネックレス、ブレスレットなどに、魔石をはめてそれに魔法を付与出来るようになる筈だ。まぁその研究を俺はまだしていないから、必ずそうなるとは断言できないけど、可能性は充分にある。
「マーク、わしらは動けんがお前がベアリングや板バネを作っている所見てて良いか?」
「セガール爺ちゃん、それは良いけど、見ていてもそんなに面白くないよ」
セガール爺ちゃんにこうは言ったけど、内容的には俺流の無茶苦茶方法で今回は作るから、多分見てるだけでも腰を抜かす可能性はある。だって炉での製鉄の段階を一足飛びにするからね。やり方は錬成陣の上に鉄鉱石を置いて純鉄を作る。その後木炭と純鉄で、炭素鋼を作る。これはイメージで炭素量を調整して作る。炭素は大体0.02%~約2%の範囲、それにダンジョンで採掘したマンガンやリンなどの成分を錬成陣で追加する。
「マークは何をしてるんだ? わしはあんな製鉄の仕方を見た事がないぞ」
「あれが面白くないと言った作り方か? いやそんな事は決してない。あんなことが出来るなら、婆さん達の彫金もあのやり方で出来てしまうな」
「そうね……。あのやり方だと自分でイメージした形に自由に成形出来てしまうわね」
「でも、あれは物凄く魔力が必要だと思うよ。エンターが剣に付与する時も物凄く魔力を使うって言ってたからね」
「あれ? 今度は錬成陣ではないんだね? 今度は普通に炉を使うようだね」
これから俺が行うのは焼き入れ、焼き戻しの工程、こうする事でこれが板バネなどに使われる焼き入れリボン鋼という物になる。焼き入れリボン鋼は強度、靭性、弾性に優れた鋼帯なのだ。ただ一度熱処理を施しているから、その後の成形には向いていない。
『見て良いとは言ったけど、やっぱりこう後ろで見ていられるとやり難いな』
そう思いながらも俺は板バネ用の鋼材を長さや厚みをテーパー状にしたりと錬成陣をフル活用し作って行った。勿論、その他にも、コロ式ベアリング用の部品も成形して行ったが、う~~ん、これって鍛冶なんだろうか? どう見てもこれは鍛冶屋の仕事風景じゃないよな……。
今では父ちゃんも慣れたからこういう事を俺がやっても何も言わないが、以前は色々言って来ていたし、良い顔はしなかったな。
「マーク、なにを気にしてる?」
「ルベリ爺ちゃん、俺、顔に出てた?」
「しっかりな。それで何を気にしているんだ?」
「――このやり方って鍛冶じゃないなぁと……」
「そんな事か。そんな事気にする必要はないだろう。作り方はどうでも出来上がった物が鍛冶師が作るものなら鍛冶で良いんじゃないか? マークの作り方が特殊なだけで、普通の鍛冶師が作るものと同じ物を作っているんだから、それ以上の別の呼び名があるか? そうだな……、そんなに気になるならマークのやり方は錬成鍛冶とでも言ったらどうだ」
錬成鍛冶、確かに錬成陣と鍛冶の組み合わせで作っているんだから、ネーミングとしてはピッタリだ。
**********
俺が錬成鍛冶というネーミングを気に入っている頃、冒険者の所に行った父ちゃんはちょっとしたトラブルに巻き込まれていた。
「おお、漸く依頼主のお出ましか? 待つとは言ったが、いったい何時まで待たせるんだ」
「待たせてすまんな、丁度その連絡に来たところだ。出発は明日に決まったから、準備の方を頼む」
「明日だと! いい加減にしてくれよ。散々待たせて置いて、そんなに急な出発では準備が出来ないだろうが!」
「言いたい事は分かるが、どうしても前もって知らせる事が出来なかったんだ」
「そんな事はこちらには関係ない」
冒険者達の言い分も分かるが、父ちゃんが知らせに来たのは朝早くだ。これが夕方とかなら準備が出来ないという言い分も通るが、今から準備すれば問題ない時間だ。まして、こいつらはこれまでの約一週間、宿屋、借家でずっと酒を飲んで過ごしていたのだ。言ってみればこいつらはうちの金で休暇を過ごしていただけで、何もしていないのだから、こちらに文句を言える立場ではない。まして今も飲んでいるしね……。
「お前らいい加減にしろよ。こちらが下手に出ている事を良い事に言いたい放題だな。準備なんて今からやれば問題ない筈だろうが。それにどうしても足りない物がでるなら、次の村や町でも調達できるだろう! こちとら若い時は冒険者の真似事もしてるから、そういう事は知ってるんだよ!」
こんな風に父ちゃんが冒険者の横暴ぶりにキレて、大きな声で文句を言った時、一人の冒険者が出て来て、頭を下げて来た。
「すまんな、こいつらまだこういう依頼に慣れていなんだ。こちらは明日の出発で問題ない」
その男はそう言いながら、父ちゃんに文句を言った若い冒険者を睨みつけていた。
「そういう事ならこちらもこれ以上言うことは無い。ただこいつらはこれでも冒険者か? 幾らなんでもこの時間から酒を飲むなんてドワーフのわしでもせんぞ!」
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この話は父ちゃんが戻って来てから聞いた話だが、今回の爺ちゃん達の護衛依頼は、父ちゃんに文句を言った奴らのパーティーの昇格試験だったようで、父ちゃんに頭を下げて来た男のパーティーが試験官役だったらしい。
「それにしても最近の冒険者は質が下がっているな。わしらが冒険者の真似事をしてる時でもあんな奴らは居なかったぞ。あんな奴らで爺さん達は本当に大丈夫か?」
「それは大丈夫じゃ、その真面な方の冒険者は高ランクのパーティーで、王都でも結構名が売れているからな」
ほほう~~、それは良い事を聞いたぞ。そのパーティーは使えそうじゃない。是非出発前にコンタクトを取りたいな。勿論、俺ではないがね……。
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