第189話 これからの事

 わぁ~~~、これはちょっとやり過ぎたかな? めっちゃ落ちこんでるよあの二人。でもしょうがないよ、勝手に二人が盛り上がっただけで、俺はレベルが上がるなんて一言も言っていないし、パワーレベリングでもないんだから……。


「それじゃ、みんな帰ろう!」


「本当に帰るのかマーク?」


「もう少し駄目か?」


「しつこいよ! 二人とも! 駄目な物は駄目です! どうせここに住むんでしょ! 」


 ここで帰らないと本当に何時までも帰れないから、俺は心を鬼にして二人の希望を断った。だが、どうせここに住むんでしょという断り文句は方便だ。だってここに住んでもダンジョンに頻繁に来れる訳がないのよ。俺の作った物をこれから売りに出そうとしているし、これからも色んな物を作って行こうとしてるのに、暇な訳がない!


 ごめんよ、マルクス爺ちゃんとセガール爺ちゃん……。


 俺がこんな気持ちで二人を見ていたら、残りの皆に「こいつは」という感じで見られていた。そりゃ分かるよね。冷静に考えれば誰でも俺が言った事におかしなところがある事ぐらい。しか~~し! 俺はそんな視線ぐらいではひるまないのだ。帰ると言ったら帰るのだよ、この先に進む為に……。


 正直、これからが俺にとっての本当の意味での異世界デビューなんだよ。これまでもポンプや新酒、化粧水と作って来たが、これからはそんなもんじゃないぐらい一気にこの世界の文明を進める事になる。そうなれば当然、俺の周りが騒がしくなりもっといろんな問題が出て来る。貴族とか貴族とか……、勿論、王族もね。


 まぁその為に今回王都の家族を引き込んだんだから、上手く使わないと勿体無い。だから今は心を鬼にして帰るのだ! それから、肩を落として元気のない二人を連れて、ダンジョンを後にし、帰りは身体強化で爆走して、その日の夕方には村に帰り着いた。


「とー、明日はみんな動けないと思うから、とーが冒険者に会って来て」


「あぁ~~そうなるな。わしが会ってこよう。明後日帰ると言ってくれば良いんだな」


「うん、それと明日は酒作りだからね。多分必要になると思うから」


 俺が父ちゃんに明日の事を頼んだのは、当然身体強化の反動で、王都のみんなが動けなくなるからだ。短時間なら問題ないがダンジョンから村まで爆走すれば、当然体に無理が掛る。そうなれば日頃鍛えていない王都の家族はみんな筋肉痛になるのだ。


「酒を作るのは良いが、そんなに必要か? どうせみんな戻って来るんだぞ」


「とーは忘れているの? 爺ちゃん達の冒険者の依頼費に酒が含まれているの」


「あぁ~~、そんな事言ってたな」


「それに、王都でこちらに来る準備をする間に新酒が無かったらみんな怒るよ」


 父ちゃんは忘れているようだけど、今回王都の家族がここに来た当初の目的は新酒の製造と熟成酒だ。それを俺が無理やりこちら側に引き込んだだけで、爺ちゃん達にとっては寝耳に水。ホントご愁傷様と言って良いぐらいだ。


 翌日、みんなが悲鳴をあげながら、ベッドから起きて朝食を食べている時に俺は今後の事について話しをした。


「今日はとーが冒険者に報告後、とーを中心に村組で新酒作りをして、かーとマイカ婆ちゃんは熟成酒作り。ルイス爺ちゃんも出来るようなら熟成酒に挑戦してみて。そして僕は、みんなの馬車にベアリングと板バネの取り付けをします」


「マークよ、酒は良いとして、馬車の改造をして大丈夫か?」


「そこは多分駄目だと思うよ。当然馬車の改造に冒険者達は気づくと思うからね。だけどこれは必要な事だから良いの」


「どうしてじゃ? 特許登録する前に噂でも広まると拙いじゃろ」


「それは問題ないよ。ベアリングと板バネの特許登録は王都でして貰うからね」


 何故、王都でベアリングと板バネの特許登録をするのか? それは王都の鍛冶屋を引き込むのに現物がないと始まらないからです。職人に物を頼むのに設計図だけでも出来ない事はないけど、特許が絡むような物に現物がないというのは無理がある。ましてコロ式ベアリングでも錬成陣を使った微調整が必要なんだから、現物がないと説得力に欠ける。


「それなら、私もグリスが必要だね」


「そうだねマイカ婆ちゃん。でも婆ちゃんは王都に行かないよ。どうするつもり?」


「マークちゃん、それは大丈夫だよ。私が頼もうと思ってる人は幼馴染の子だからね」


「それって女の人?」


「そうだよ」


 そういう事か、マイカ婆ちゃんは子供の頃王都に住んでいたんだよな。だから王都に帰るサリー婆ちゃんに頼むつもりだ。所謂ママ友の子供という事だ。それにこれで何となく事情が分かる。テイムのスキルを持っているけど王都に住んでいるなら使い道が殆どない。ましてマイカ婆ちゃんの幼馴染なら年齢も近いか同い年だろうから、商売をしていても動ける可能性が高い。子供もいるだろうからね……。


 ん? でも家族がいるという事は旦那もいるという事だよな。その人は仕事とか大丈夫なのか? 商売をしてるなら条件は幼馴染と同じだけど、商売をしていないなら、仕事をしてる事になるから、動くのは難しくなる。


「マイカ婆ちゃん、その人の旦那さんは何をしてる人?」


「確か大工だった筈だよ」


「大工なの! それならこの村に作る店を作って貰えるんじゃない?」


「さぁどうだろうね。母さんロビンの旦那は店を作るぐらいは出来るの?」


「マイカ、流石にそれは失礼だよ。ロビンちゃんの旦那は工務店を持っているぐらいの大工だよ」


 それは幸運なのか? 商売ではあるけど、商店主ではなく棟梁という立場の人が簡単に動けるか? まぁそれはうちの家族も変わらないんだけど……。いや、それより厳しいか。うちの家族は身内に店を任せる訳でもないからな。


「マイカ婆ちゃん、それだとちょっと無理じゃない?」


「大丈夫だよ。ロビンは田舎に住みたがっているからね」


 いや、婆ちゃんそれは駄目だ。この村はこの先村では無くなるから……。


「マイカ婆ちゃん、それは無理だよ。この先この村がどうなるか話したよね」


「マークちゃん、それこそロビンの旦那には良い事なんだし、村が発展するまでは田舎なんだから良いんだよ」


 わぁ~~流石マイカ婆ちゃんだ。何という自分勝手な解釈。これで来てくれるならその人も中々のもんだけど、本当に大丈夫なの?


 こんな感じで先が思いやられる一日の始まりだが、何とか先に進まないとね……。


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