第188話 ダンジョン一階層と腹黒

 ソラはソラなりに気を使ったんだろうが、俺からしたら物凄く迷惑な事だ。こんなにスライムがいたら、先に進むのにも苦労するから、一階層を探索するだけでも時間が掛ってしまう。


「マーク、これはどういう事なんだ?」


「とー、聞かないで欲しいけど聞きたいよね……。これはソラが僕達の話を聞いていて増やしたんだよ」


「成程な。それじゃあ普段はこうじゃないんだな」


「勿論そうだよ。普段からこれだったら冒険者が来なくなるよ。まぁスライムゼリーの話が広まるまでという条件は付くけどね」


 そこなんだよね。今後スライムゼリーが使われるようになれば、この状況も冒険者にとっては満更でもなくなる。ただ、こんな状態が続いてスライムゼリーが供給過多になるとこれもまた問題になる。供給過多=安くなるという事だから、冒険者が儲からなくなり、またスライムゼリーを持ち帰らなくなる。


「とー、面倒だろうけど、出来るだけ討伐してくれる。――でもどうしよう? スリングショット組はスライムの討伐は難しいよね」


「別に問題ないぞ。スライムの倒し方は外と同じだろう。あの核を壊せば良いんならそんなに難しくはないぞ」


 マジかよ……。この短時間であの核が狙える程腕を上げたのか?


「マルクス爺ちゃん、それだったら爺ちゃんはこれで倒してみる? ただ、ダンジョンのスライムは攻撃してくるから、油断したら駄目だよ」


「マーク、これはモリーが使っている武器と似ているが少し違うな」


 俺がマルクス爺ちゃんに渡した武器は、物凄い遊び心で作った武器で、前世の中国の小説に出て来る武将の関羽が使っていた冷艶鋸れいえんきょと呼ばれる青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを模して作った物。まぁ作り方は刃が幅広で大きいだけで薙刀とほぼ同じだけど、 柄の長さは刃の大きさに対してやや短め。これは関羽を象徴する武器で、中国語では関刀グアンダオという呼称もある。ただ、これが本来の青龍刀であって、中国刀ではない。これが中世ヨーロッパだとグレイブと呼ばれる武器になる。


「マルクス爺ちゃんがレベル上げの時に悔しがっていたから、かーに挑戦するならこれの方が良いと思ったんだ。ただちょっと重いよ」


「わしは剣や槍は使った事が殆どないが、これなら長さもそこそこあるし、刃も大きいから使いやすそうだ。それに重さもそう気にならん」


「そうそれなら良かった。あぁそうだ! 皆に言っておくけど、幾らダンジョンだからってこの森の中で火魔法は使わないでね。特に火魔法が使えてコッソリ練習してる人は……」


 王都組の宿泊場所を地下にしたのは間違いだった。ルイス爺ちゃんとマイカ婆ちゃんが攻撃魔法の練習をしてると知ってから、俺に隠れてコッソリ地下で練習してたからね。


 俺がマルクス爺ちゃんに武器を渡し、火魔法の注意喚起をした直後、俺が合図をする事も無くスライムの討伐が勝手に始まった。それもレベル上げで不満を漏らしていた二人がちょっと俺達がひくぐらいの勢いで討伐し始めた。結果今回も俺は参加出来ず、スライムゼリーの回収役に徹するしかなかった。


「おい! そっちじゃないぞ! 二階層への階段はこっちだ」


「ルイス爺ちゃん、今日はこれで良いよ。このままスライムを放置する訳にもいかないから、このまま皆の好きにさせて」


 傍から見ると狂喜乱舞してるように見えるぐらいの勢いで、皆がスライムを討伐しているから、二階層への階段方向から大分ずれて来ていた。だから何もない時に入って階段の方向が分かっている、ルイス爺ちゃんが方向を変えるように言ったんだけど、俺が今回は良いと言って止めた。どうせスライムの数は減らさないといけないし、この一階層を見て回りたいからね。


 その後もスライムゼリーの回収をしながら俺は鑑定を掛けているんだけど、ここまでソラがこのダンジョンをちゃんと作っているとは思わなかった。スライムの件を除けばね……。


 それは初心者冒険者の定番依頼である薬草採取が、このダンジョンでもちゃんと仕事として受けられるように、群生地を出来るだけ設けないようにして、バラバラに薬草を配置している。勿論、くじの当たりのように、ところどころに規模の違う群生地も設けてある。


『ソラ、良い仕事してるじゃん』


『マスターに褒めて貰えたなら間違いでは無いという事ですね』


『そうだね。薬草の種類やキノコの種類も完璧だし、魔物もスライムの数以外は大丈夫だぞ』


 これはソラを連れて森に入った効果だろうな。一階層はほぼ地上と変わらない植生をしているし、魔物もスライムとゴブリンが単独でしか出てこないから、冒険者になって直ぐでもここなら安全に仕事がこなせるだろう。それにこの分だと五階層のボスがオーク三匹だから、それに見合った配置をそれまでの階層でもしている事が想像出来るから、五階層の手前までが初心者向きだと判断出来る。勿論これは個人、ソロでの事で、パーティーを組んでいるなら十階層の手前ぐらいまでが初心者向きになるとは思うけどね。


『ところでソラ、このダンジョンの進み具合が早いのはやっぱりあそこの魔力のせいなの?』


『多分そうだと思います。あそこから吸収している魔力は一味違いますから』


 魔力に味があるのかは別問題として、ソラがそう感じているのなら、やはり特別なんだろうな。俺があそこと言っているのは、当然あの湖がある場所の事です。あそこはただでさえ不思議な場所ですから、魔力も当然違うんだろうと思っていたから、ソラから受けるダンジョンの進捗状況の報告の度にそう思っていた。


『ソラ、この分だと百階層に到達するのにそんなに時間は掛からないね』


『マスターの言うように早いとは思いますが、冒険者が来るようになればそれでもペースは落ちると思いますよ』


『そりゃそうだ。今は冒険者が居ないもんな』


 俺がソラとこんな話をしてる間も爺ちゃん達のスライム討伐は進み、かなり減っては来ていますが、まだまだこれで大丈夫という数ではない。


「とー、そろそろ帰らないといけないから、みんなを止めて」


「マークよ、止めろと簡単に言うが、これはそう簡単に止まらんぞ」


「それじゃ、スライムを倒したぐらいじゃレベルは上がらないと言ってやれば止めるんじゃない」


 正直、初めからこれは分かっていた事だ。幾ら数を倒そうと所詮スライムなんだから、経験値が少な過ぎる。今の皆のレベルだとひとり千匹倒してやっと上がるかどうかなんだよ。だけど敢えてこれをやらせたのは、俺が面倒だったから。この一言に尽きる……。 今度は腹黒マークの登場……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る