第168話 全部前世の知識に責任を押し付ける

「かーが言ったけど、そろそろ僕が特級ダンジョンの主だという事を理解してね。そうしないとこれから色んな魔道具を作ろうと思ってるのに、その度に驚き過ぎて寿命を縮めるよ」


「マーク、それは言い過ぎだよ。拳骨が欲しいのかい?」


「かー、そうは言うけど、本当の事だよ。かーも忘れているようだけど、僕には前世の記憶があるんだよ。まぁ確かにこれまで前世の記憶についてあまり話してこなかったから、分からないとは思うけど、僕の前世には空を飛ぶ乗り物や、馬がいなくても走る馬車のような物もあったんだよ。勿論、今直ぐそんな物を作ろうとは思わないし、今は作れないけど、それぐらい文明が進んでいた世界なんだから、この世界にない魔道具何て物凄く沢山あるの。だからそれを一つ作る度に驚いていたら、身が持たないのは確かだと思うよ」


 俺としては今までになく、かなり饒舌に話してしまったが、これもこれからの事を考えると必要だと思って頑張ってみた。理由は俺の持っている知識の殆どが前世の記憶に関係していると思って貰う為だ。本当は前世のアニメや漫画、小説などの想像の知識も含まれてるけど、それを話しても頭がこんがらがるだけなので、前世の知識という大きなくくりで捉えて貰いたい。そうすれば驚きも少ないだろうし、前世の知識なんだで納得し易いと思うからね。


「マーク、それじゃお前がわし達に教えた付与魔法も前世の知識ということなんだな」


「とー、そうだよ。それにさっき話に出た魔法陣もそうだね」


「あぁ~~言われてみれば蒸留酒も前世の物だと言っていたね。だから改良ポーションも前世の知識から生まれたものなんだね」


「ロジー婆ちゃん、大正解! そういう風に繋げて考えてくれたら色々理解しやすいと思うし、自分達で出来る事が増えると思うよ」


 ロジー婆ちゃんにはこう言ったけど、本当はもっと知識があって初めて思いつく事なんだけどそれを今言うと、自然科学や医学的知識まで絡んで来て、その結果石鹸の話まで持って行かなければいけなくなるから、これで誤魔化した。


「それじゃ、今から付与魔法について話していくよ。この魔法は主に武器にするものだけど他にも使える物だよ。それがさっき言ったアイテムバッグね。ただアイテムバッグのような物は物凄く魔力が必要だから、誰でも作れる物じゃない。だけどそれを可能にするのが魔法陣という事になるんだけど、それはまた後でね。あぁそれとこのアイテムバッグは僕一人で作った物じゃないからね。特級ダンジョンのソラと協力して作った物だから、勘違いしないでね」


 最後のソラとの事は言っておかないと、俺が簡単に作れると思われると大変な事になるから、この家族には必須だ。まぁ魔法陣の事を話してしまっているから、焼け石に水ではあるんだけど……。


「マークの話からすると、さっきマリアベルが使った剣にもその付与魔法がされていたんだな?」


「マルクス爺ちゃんその通りだよ。爺ちゃん達は戦闘を殆どしないから、剣に魔力を流したりしないだろうけど、冒険者の中にはそういう人が結構いるんだ。何故そうするかというとそれで切れ味が良くなるからなんだけど、今回マリアベル婆ちゃんが使った剣ほどの切れ味が良くなる訳ではないんだ。だからその性能をよくする付与魔法をしているの。鋭利という付与魔法をね」


「鋭利とはどんなものだ?」


「そうだね。言葉で説明すれば良く切れるという事なんだけど。日頃武器をあまり使わない人達には分かり難いと思うから、鋭利を武器じゃない物で考えると分かり易いかもね? 例えば料理に使う包丁に鋭利を付与するとどうなると思う?」


「良く切れるという事なら、普通なら力を入れないと切れないような物が楽に切れるという事かのう……?」


「普通そう思うよね。だけど包丁に鋭利を付与すると、力がどうのという問題じゃなくなるの。包丁をきりたい物、まぁ野菜とか肉になるけど、その上に置くだけで、包丁の重さで結構深い切れめが入るほどに性能が上がるんだよ。そしてそれに魔力を通したらどうなるかを想像してみて?」


「そんな物があれば、まな板も切ってしまうんじゃないのか?」


「その通り。だから包丁でもさっきのマリアベル婆ちゃんがやった事が出来るという事なんだよ。そして付与魔法というのはそのイメージを錬成陣の上でやる事なんだ」


 スキル名だけど、付与魔法と名前が付いている以上、付与魔法も魔法の一種だから、イメージで出来る事。だから鋭利=よく切れるのイメージをすればイメージ別で差は出るだろうけど鋭利に近い物は付与出来る。そう実際父ちゃんがこの鋭利の付与を練習してる時に出来たものには「やや鋭利」とかいう物があったからね。そして今の俺がこの鋭利を付与すると困った事に「物凄く鋭利」と鑑定に出るのだ……。


 なぜ「物凄く鋭利」が困った事なのか、そう思うよね。だけど本当に困ったんだよ。切れ過ぎる刃物は何処にでも置けないし、剣なんか鞘にさえ入れる事が出来なくなったんだ。その結果、鞘の中に魔石魔道具で結界を張るという本末転倒のような事をしなくてはいけなくなったんだ。トホホ……。


「そんな事が出来る包丁がマークの前世にはあったんだな」


「あ、うん、そうだよ……」


 マルクス爺ちゃんにはこう誤魔化して返事をしたけど、勿論、空想の世界ではという注釈が入る事。だけど、ここでそれを説明しても理解出来ないだろうし、この世界ではその空想が現実に出来るからという事を言っても尚更困惑するだろうから言えない。


「マーク、わしとマイカに攻撃魔法を教えた時に、イメージをしろと言っていたのはこの付与魔法と関係あるのか?」


「そうだよ。付与魔法も普通の魔法も全てイメージが大事なの。だから爺ちゃんの加護が商業神の加護でも付与魔法も使えるようになるよ。当然技巧神の加護を持っている人よりは苦労すると思うし、性能が劣る事になると思うけどね」


「マークちゃん、私に魔法を教えてくれた時にはイメージの他にも言っていたじゃない。あれは関係ないのかい?」


 確かにマイカ婆ちゃんに魔法を教えた時には別の事も意識させたんだよな。そう科学で解明できている事をね。婆ちゃんも爺ちゃんも魔法属性が火だったから、物が燃えるのに必要な物、酸素なんかを意識させてイメージさせたんだ。他にも温度が上がると炎の色が変わるという事もね。そうする事で、一回の魔法での消費魔力量が増減したから、この世界の魔法には物理法則無視以外にも法則はあるんだと、人を実験台にして俺は知る事になった。


「婆ちゃん、関係なくはないけど、付与魔法を初めてやる人には必要ないかな……?」


 俺が婆ちゃんにそう答えた瞬間、婆ちゃんの顔色が変わった。これは拙い事になったかも? 婆ちゃんは自分達が実験に使われたと気付いたかも知れない。そりゃそうだよね。俺は物凄く矛盾してる事言ったんだから。


 初めてというのはどちらも同じなのに、片方には必要で片方には必要ないはおかし過ぎるよ……。



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