第169話 王都の家族の扱い

 婆ちゃんに拙い事を言ってしまったと思いながらも、先へ進まないと話が何時まで経っても終わらないので、俺は皆に付与魔法を実践して貰うことにした。


「それじゃ、このナイフにそれぞれさっき言った、鋭利の付与をして貰おうと思います。イメージの仕方は実際にこのナイフで物を切った時に、どのように切れるかをイメージしたら良いと思うよ」


 俺がこう言った後、皆は付与魔法を始めたが、10分もしないうちにマルクス爺ちゃんとマリアベル婆ちゃんは魔力不足で気分が悪くなり、地面にへたり込んでしまった。そして残りの人達も二十分前後で全員同じようになり、誰一人として付与魔法を成功出来なかった。


「とー、どうしたらいいと思う? このまま暫くは魔力が回復するまで何も出来ないから、今日はこれぐらいで終わりにして良いと思うんだけど?」


「そうだな。なんやかんやでもう夕方だ。モリーとお袋も夕食の準備をしなくてはいけないだろうから、この辺で良いんじゃないか」


「そしたら、皆を貯蔵庫の方に案内してくれる。皆の分のベッドを出しておくから」


「エンター、わしらの宿泊場所はこの地下なのか?」


「爺さん、そりゃそうだろう。この家に客間なんてないんだから」


 父ちゃんは当たり前のようにルベリ爺ちゃんに言い放ったが、本当は客間を作るという計画もあったんだ。王都の家族がここに来るという事を、ルイス爺ちゃんから聞かされた後にね。だけど、実際は他の事が忙し過ぎてどうしようもないという事で断念したのだ。


「とー、本当に此処で良いの?」


「しょうがないだろう。あんなに護衛の冒険者を連れて来るとは思わなかったんだから」


 そうなんです。本当は客間増築を断念した時点で、王都の家族も村の宿屋に泊めることにしていたんです。ですが、実際に王都の家族が来てみれば、馬車が六台という大所帯でくるし、そのせいで護衛の冒険者が多くなり、宿屋と空き家が冒険者で一杯になってしまうという事態に。だから急遽、地下の貯蔵庫が空いているという事で、そこに宿泊して貰うことにしたのです。丁度増築を計画した時点でベッドだけは注文してあったからね。


 まぁこれも父ちゃん達にしてみれば、不幸中の幸いだったんだよね。俺が酒を全て没収するような形で、アイテムボックスに全て入れてしまったから、偶然貯蔵庫が宿泊場所に利用出来ただけなのだ……。


「とー、それでも、ここは少し寒いよ。皆高齢なのに大丈夫?」


「お前がそう思うなら、鍜治場に火を入れて、地下全体を温めたら良いだろう」


「いやいや、何言ってる! 地下には醤油と味噌の貯蔵庫もあるんだよ。短時間なら良いけど、そんなに長い間地下の温度は上げられないよ」


「それなら、何時ものようにお前がアイテムボックスに一時避難させれば良いだろう」


 確かに父ちゃんのいう事は正しいし反論のしようも無いけど、ここまで自分勝手な事を言われると少し腹が立つ。まぁ俺も色々作り過ぎて、客間増築の時間が無かったから強くは言えないが……。


「分かったよ。味噌と醤油を避難させるから、とー、は鍜治場に火を入れて……」


 そんなやり取りが小声で父ちゃんとの間にあったが、皆を無事、貯蔵庫のベッドに案内したら、うちの家族はやはりどこかおかしいのか、丁度良いと言わんばかりに、わざわざ残り少ない魔力を生活魔法のライトで消費して全員昏倒をする始末。本当におかしい家族です……。


「婆ちゃん、そう言えば王都の家族はどの位ここに居るつもりなんだろうね?」


「そうだね……、私も何日とは聞いていないけど、一週間ぐらいは滞在するんじゃないかい」


「一週間も! その間、護衛の冒険者はどうするの? あぁでもそうか、始めから新酒を作らせるつもりで来てるから、それぐらいはみてるのか……」


「マークちゃんの言う通りだね。酒を作らせるのは分かるけど、その間の冒険者はどうするつもりなんだろうね?」


 元々行商に冒険者の護衛を殆ど付けない婆ちゃんも、こういう事には疎いので二人とも非常に興味があり、皆が昏倒から目覚めた後に聞いてみた。すると返って来た答えは、通常の護衛費プラス新酒ひと樽で手を打っているという返事だった。冒険者もドワーフ同様酒で釣れるのか……?


「とー、この後はどうしよう? 夕食は取るにしても、みんな今昏倒してるから、夜はすぐ寝ないよ」


「マーク、それなら簡単な事だ。酒を浴びる程飲ませれば万事解決じゃ」


「とー、何でも酒で解決しようとしないでよ。また禁酒を強化されたいの?」


「これ以上禁酒を強化って一切飲ませないつもりか?」


「そこまでは流石にしないけど、新酒が一日ジョッキ一杯のところが、コップ一杯になるかもね」


「マーク、それだけは勘弁しろ。真面目に考えるからな!」


 父ちゃんを脅してはみたけど、俺自身もどうするか決めかねているんだよな。このままリストの内容を順番にやって行っても、この先は人によっては必要ない物もあるんだよな。


 ・酒 (今あるもの以外、日本酒、芋焼酎、コーンウイスキー)

 ・魔石魔道具 (魔法陣)

 ・魔道具 (魔法陣、特にアイテムバッグ)

 ・スライム(スライムゼリー)

 ・温度計

 ・肥料

 ・石鹸、シャンプー、リンス

 ・錬成陣による金属加工

 ・ベアリング、板バネ

 ・ダンジョン 

 ・ミスリル


 あぁ! そうだ! 父ちゃんの酒を浴びる程飲ませろは強ち間違っていない。そうだよ、丁度良いじゃないか! 食後に自分達で新酒を蒸留させれば良いんだ。そうすれば作り方を覚えながら、ついでに味見と証して嫌という程飲んで貰えば良い。


 そして更に酒で頭が冴えているうちに、魔石魔道具と魔法陣について話せば、大まかな事は教えられる。


「とー、夕食後は新酒を作ろう!」


「何! そんな事したら皆飲み始めるぞ。わしには酒で解決するなと言っておきながらおかしいだろう」


「それはそうなんだけど、どの道酒作りは教えないと、とーが作る事になるよ。それでも良いの?」


「そう言われるとそうだな……」


『やっぱり自覚しとんのか~~~い!』


 これは脅しでも何でもない。王都の家族が来た時に話していた感じからすると、自分達で作るという意思は感じられなかったからね。完全にこちら側に作らせようという気満々だったから、現状だと父ちゃんが作る事になる。


 そして熟成酒を欲しがっているマリアベル婆ちゃん達は、母ちゃんとマイカ婆ちゃんに熟成魔法を使わせるだろう。勿論、俺にもね……。だが、これも回避は出来る。王都組が王都に帰る前にソラのダンジョンでレベルを上げさせて、称号のランクアップをさせれば、自分達で熟成魔法が使えるようになるからね。


 まぁこう上手く行くかはまだ分からないが……。


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