第170話 酒作りからの魔石魔道具
王都の家族とルイス爺ちゃんが昏倒して早三時間、普段ならもう夕食を終えている時間だが、皆が揃ったのが先程なので、漸く今は食事をしてるところ。そして起き抜けに気付け薬をやいのやいのと要求されたが、夕食後に好きなだけ飲ませてやると言って、その場は収めた。
「モリー、この料理の味付けに使われているのが、醤油と味噌なんだね?」
「そうよ母さん。奥深い味わいでしょう」
「この味噌と醤油も大豆(ソイ)から作られているんだったわね」
「そうです。ロジーお婆さん」
「大豆というのは、マークが言っていたけど本当に有能な物なんだね」
今更だけど何故我が家では大豆と言っているのか? それは単純に俺が味噌と醤油を作った時に大豆と言ったからです。元々この世界では殆どの食物が英語の短縮版というのが多いのですが、俺からしたらどう見ても大豆だし、自然にそう呼んでいたら、家族はそれに慣れてしまい、今ではそれが普通に成っている。
まぁこれには副産物というか良い事もあって、人前でも味噌や醤油の話も出来るし、その原料が何なのかこの世界の人には分からないのです。勿論、これから作る石鹸でも同じことが言えるから、特許登録が済む前でも割と気にせず話が出来るのだ。
「う~~ん、やっぱりこの味付けには麦焼酎が欲しいの……」
「駄目だよ、ルベル爺ちゃん。お酒は夕食の後だと言ったでしょ」
「どうして、今じゃ駄目なんじゃ?」
「それは食事の後にも少しやって貰いことがあるからだよ」
「マークはまだわしらに何かやらせるつもりか?」
これは拙いな。ここで正直に言ってしまうと、自分達で酒を作るという事を拒否しそうだ。だけど此処を上手く乗り切れれば、酒を飲みたければという駆け引きが出来るんだ。それにはどう誤魔化せば良いだろう……?
「やらせるなんて人聞きが悪いな。ただこの後酒の作り方を教えながら味見をして貰うだけだよ」
「ほう、それなら聞いて損はないな」
良し! 上手く誤魔化せたぞ。殆ど正直に言ったように聞こえただろうが、俺は一言も酒を作らせないとは言っていない。教えるが講義か実習かは言っていないでしょ。それと勘違いしやすいように、「やらせるなんて」と言ったが、これはあくまで、ルベリ爺ちゃんの言葉に対しての返事で、意味は命令はしないということで、結果的に自分達で作らないと飲めないという事を言っていないだけなんだよ。物凄い言葉の詐欺だけどね……。
その後の食事はドワーフにとって水代わりのようなエールだけしか出していないので、比較的短時間で終わり、皆と一緒にまた地下室に向かった。
「マークよ、新酒はこの装置で作っているんだったな?」
「ウイスキーとブランデーはそうだよ。それがどうかした?」
「いや、一つ気になっての。今は酒は作っていないだろう? それなのに何故、今この装置に火が入っているのかと思ってな?」
「それは、今から蒸留酒を作るかも知れないからだよ。爺ちゃん達がね」
「だ、騙したな! マーク!」
「人聞きの悪い事言わないでよ。今から僕はこれを使って酒の作り方を教えるから、もっと飲みたいならと思って、前もってこの装置が使えるようにしているだけだよ」
そうです、俺が今から酒の作り方を教えるのは、ビーカーやフラスコのような錬金術に使う装置で蒸留酒の出来る仕組みを教えるのです。ですから当然出来る蒸留酒の量は極僅かですから、味見は出来ても物凄く少ないという事になります。
これでお判りでしょう。俺は一切ルベリ爺ちゃんに嘘は言っていないのです。
「ぐぬぬ……」
「ルベリさんこれは一本取られましたな。マークの言った事に一言も嘘はないですからな」
おお、これまであまり冷静な事を言ってこなかった、セガール爺ちゃんがここで俺の肩を持ったよ。これまでなら商人であるルベリ爺ちゃんが一番冷静だったのに、逆に成るなんて、おかしな事もあるもんだ。まぁルベル爺ちゃんが悔しがる気持ちも良く分かるんだよ。だって商人が言葉の罠に嵌まって、見た目だけだけど、僅か五歳の子供に負けたんだから……。
「それじゃ、蒸留酒が出来る仕組みを教えて行くよ」
この言葉と共に、それから実験道具のような器具だけで、極僅かなウイスキーとブランデーを作り、皆に試飲させた。当然そうなれば、もっと飲みたくなるので、俺が言ったように俺から材料のエールやワインをアイテムボックスから出させて皆で作り始めた。
「マーク、さっき使っていたのが温度計という物なんだな?」
「ルベリ爺ちゃん、そうだよ。蒸留酒を作る時は温度を水が沸騰する100度にしてはいけないから、それに近くなりそうだったら、火を弱める必要があるんだよ。大体70~80度ぐらいかな。そうしないと出来上がった蒸留酒が薄くなってしまうからね。まぁそれでも一度で簡単に水を取り除くことは出来ないから、二回は蒸留してアルコール度数を60~70にするんだよ」
「だから、さっきわしらに蒸留酒の作り方を教えた時、二回繰り返したのか」
「そう。だからかなりきつかったでしょ」
「マーク、一回ではどのくらいになるんだ?」
「一回だと大体20度ぐらいかな」
「でも、わしらにこれまで飲ませてくれたウイスキーやブランデーはそんなにきつくなかったが、どうしてじゃ?」
「それは最後に水で薄めてるからだよ。飲みやすい度数にね」
これを聞くと多くの人が本末転倒のように思うだろうが、前世では酒の税金や規制の問題もありこの45度前後という度数が多く作られていたんです。まぁ元々ウイスキーやブランデーに限りませんが、水の良いところで酒造りがされるのはこのような理由もあるからなんです。
「それじゃ、今からは皆でする作業も無いから、手の空いている人はちょっとこっちに来て面白い実験につき合って」
「面白い事? それはどんな事?」
「そうだ、魔力を流すのが得意なマリアベル婆ちゃんに今度も手伝って貰おう」
「何をやらせるつもりだい? 試し切りみたいなことなら、もう嫌だよ」
「大丈夫、今回はこの魔石に魔力を流すだけだから」
マリアベル婆ちゃんは俺に言われるがまま、魔石に魔力を流し、結界を作った。が、ここからは、俺と母ちゃんが打ち合わせをしていて、父ちゃんに初めて結界の魔道具を使わせた時のように、母ちゃんがマリアベル婆ちゃんに向かってナイフを投げた。
さて、この後の母ちゃんはどうなったでしょう? とはいわないよ。当然俺が結界の魔石魔道具について説明したから問題なく収まったからね。それに今回はナイフだけで魔法は使わなかったのも騒ぎが大きくならなかった理由の一つ。
もし、母ちゃんが魔法を使っていたら……、母ちゃんもマリアベル婆ちゃんに拳骨貰ってたかな……?
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