第215話 話が大きくなる
「それではこちらもお試しください」
母ちゃんが領主様達に進めたのは俗に言う天つゆだ。日本酒が出来ていないので味醂が使えないが、この世界にも白ワインは少ないがあるので、白ワインと蜂蜜で味醂の代用をして干しキノコで出汁を取って醤油と合わせて天つゆを作った。
「これはなんだ?」
「これは天つゆと言います。天ぷら用のつけ汁ですね」
「これにこの天ぷらを浸して食べろという事か?」
「はいそうです。塩とまた違って美味しいですよ」
「しかし、黒いな……」
あぁそうか! 醤油の宣伝に成ると思って作ってみたが、醤油と味噌は登録したばかりでまだ世間に広まっていないんだ。やはりこういう事を考えるとレシピの登録は必要だな。料理を知らなければ調味料も使われないからね。
「この黒いものは醤油という調味料で今度特許登録して来た物です。それと同時に味噌という調味料も登録しました。これがそうです」
「村長さん、天ぷらの匂いを覚えているなら、この匂いに覚えはありませんか?」
俺は村長が天ぷらの匂いを覚えているなら、その前日の夕食だったオークの角煮やオークの生姜焼きの匂いで、醤油の事も覚えていると思い声を掛けた。
「マーク、確かに覚えてはいるけど、その言い方はちょっと気になるな」
まぁそうだよね。毎日うちの食事の時に監視に来てたでしょうと言っているようなもんだもんね。――あぁでもそれなら醤油だけじゃなく味噌も味噌汁の匂いで分かるんじゃないかな? 村長に嫌味で返されたのに、そんな事を考えてしまう、全然反省しない俺でした。
「ロドリゴが知っているなら、エンターのうちで使われていた物だという事だな。それに登録までしてるなら食べても問題無い物だという事だ。それで頂いてみよう」
「「「……」」」
あれ? 誰も何も反応しないけど、天ぷらから手は止まっていない。物凄い勢いで食べ続けているよ。
「どうでしょうか?」
「うわっ、旨い! この深い味わいは何だ!」
「これが醤油の味なの?」
「はい、奥方様、この天つゆは醤油だけの旨味ではありませんが、基本となる物の一つではあります。そしてこれは大豆から出来ています。勿論、味噌もです」
「ま、待ちなさい! それはとんでもない事じゃない。石鹸にも使える油も大豆からなのよね。そしてこの天ぷらに使っている油もそう。それに醤油と味噌……。一体大豆をどれぐらい生産するれば良いの?」
当然こうなるよね。でもこうなるように仕向けたんだから、なって貰わないと困るんだ。将来的に必要になる大豆の量はとんでもない量だから、正直領主様のザック男爵領だけでは到底賄えないからね。
「ここまでで、お分かりだとは思いますが、大豆というのは物凄く使い道がある物なんです。ですから少々増産しても追いつかないので、そこをどうするか検討して頂きたいのです。伯爵様も含めて……」
「いや、エンターよ。私が思うに伯爵様だけでは無理だと思うぞ。この石鹸やら調味料だけでも国をあげてやらないと駄目だ。それに今の話しぶりから他にも利用法がありそうだからな」
流石は領主様。本当に頭の良く働く方だ。石鹸は獣脂ででも出来るが、調味料を普及させるには国をあげて増産するぐらいしないと無理だと直ぐに判断した。まぁ醤油の美味しさで売れると判断したんだろうが……。
「そうよ! 石鹸も大豆油で作った方が良いのでしょ? それなら絶対国でやるべきよ。外国にも輸出出来るんですから」
「輸出までは考えていませんでしたが、ポンプの件で特許も国際的になったようですからそれもありですかね」
「そうだ。この際だから国をあげて特許についてももっと厳格にしていくべきだな。そうとなればこれはやはり、伯爵様だけではなく、国王陛下にも一枚かんで頂こう」
わぁ~~、大豆の話から一気に国どころか国際的な話に成って行ったよ。こうなる事はある程度想定してたけど、先ずは伯爵様からと思っていたのに一気に行くとは……。しかし、まだ話は全部終わっていないんだよね。今は休憩中だという事をみんな忘れていないかな?
・ポーション
・酒
・付与魔法 (錬成陣)
・魔石魔道具 (魔法陣)
・スライム(スライムゼリー)
・温度計
・肥料
・石鹸、シャンプー、リンス
・錬成陣による金属加工
・ベアリング、板バネ
・ダンジョン
正直これ全てが国まで話が行きそうな物ばかりなんだよな。今までは領主様達も言わなかったけど、この村で始めるスライムの浄化と水車だけでも成功すればポンプ同様世界規模になる。ましてスライムゼリーの話まですれば本当に世界がひっくり返る。俺がそう思っていると、爺ちゃんが、領主様にこの後の事も考えてか、究極の質問をした。
「領主様、国王陛下にお話をお持ちになるのは良いのですが、今回私共が領主様にお教えしている内容は、今後国同士の争いの種になりませんか?」
「確かに、そうだな……。全てがそうじゃないとしても、付与魔法の武器なんて特に国同士の争いに成り兼ねん。そうなるともっと慎重に事を運ばんといかんな……」
「領主様、その付与魔法の武器とは何ですか?」
「これはいかん! 今、慎重にと言ったばかりなのに、もうバラシテしまったな。ロドリゴ、今聞いた話は極秘だから絶対に他で話すで無いぞ。もし話したら極刑もあり得るからな」
「領主様、そこまで言われなくても、村長さんは大丈夫だと思います。どうせなら今後のことも考えて、午後からは村長さんにも参加して貰いましょう」
父ちゃんの言う通りだ。今後の事を考えればうちとしても村長さんには一枚かんで貰った方が良い。王都から来る家族の事もあるから特にね……。
「エンターの言う通りだな。ダンジョンの事をもう知ってるんだから、隠し事をしても良くないな」
これで村長さんも午後から地下室で色々見る事になるけど、人種で高齢の村長さんの心臓が耐えられるかな? それだけは心配だ。うちの婆ちゃんでもあれだったからな……。
「それでは、もう少し休憩したらまた地下室に降りましょう」
「地下室? そんな物がこの家に有ったのですね。どうりでこの家から音が殆どしない訳だ」
村長さんがそう言いながら俺の方を見て来たので、みんなには分からないようにVサインをしておいた……。
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