第216話 再び地下に降りる前の一コマ
「ねぇマイカ、石鹸にも大豆の油を使うのよね?」
「そうですね。大豆は他にも使い道が多いです。それに出来たらワインも多く作れるようになると良いですね」
「ワインはリンスの為よね」
「それもありますが、蒸留酒にも影響しますから、赤も白も両方増産して貰えるとこれから使い道がもっと増えます」
「ねぇあなた、これはうちの領でも開拓が必要じゃない。村をあと二つぐらいは増やしても良いぐらいじゃない」
おぉ~~、奥方様が積極的だぞ。確かにこの領の広さなら、あと二つぐらい村があっても問題ない。特に農業を中心に考えた村がね。これから大豆や葡萄、小麦、大麦、まだ言えないけど米も大量に作って貰いたいから、村を増やす事には大賛成だ。
ましてこの世界には魔物がいるから農業の殆どが村の中で行われている。それを考えると村と村の間の土地は全くと言って良い程使われていないから非常に勿体ないのだ。
「マーガレット、言いたい事は分かるが、その前に既存の村の事があるからな」
「それは、伯爵様にお願いすれば良いじゃない。それよりもこの領が色んな意味で先駆者にならないと勿体無いわよ。折角マイカ達家族がこれだけの物を提供してくれているのだから」
そりゃそうだよな。これだけの物がこれから売りに出されれば、税収がとんでもない事になる。ましてそれにダンジョンも加われば、この領はゴールドラッシュ並みに繁栄する。それをみすみす他の領地に渡すなんてあり得ない。勿論、共存共栄は考えないといけないけどね……。
「それはそうだが……、それなら先ずは既存の村を優先させないとな」
あぁそうだよね。確かに領主様のいう事の方が正しい。新村を作るのも大事だが、既存の村にも手を入れないとその村が可哀そうだ。ん! それなら一つ提案してみたい事があるけど、どうやって言おうかな? 領主様に聞けば元自分の領だから詳しく教えてくれそうだけど、どうしよう? この世界の海ではどんな物が獲れて食べられているのか是非知りたい。それが分かれば提案出来ることの幅が広がる。
「爺ちゃん、ちょっと」
「何だマーク、そんなに小さな声で」
「あのさ、さっきの領主様の既存の村の事で、知りたい事があるんだけど、どうにか聞き出せないかな?」
「聞くのは良いが、マークは何が聞きたいんだ?」
「あのね……」
俺は爺ちゃんに元領主様の領地だった海沿いのクロック村で、獲れている魚や貝等について聞いて欲しいとお願いした。勿論、異世界あるあるのカニやエビ、昆布やわかめなどについてもそれとなく聞いて欲しいと。
「そのカニやエビとはどんな物なんだ? 名前だけではどう聞いて良いか分からんぞ」
「そうだよね……。だけど僕が直接聞くのは拙いと思うからどうしたら良いかな?」
「それなら、マークは絵の具を作っていたろ。その絵の具で絵を描くのはどうだ?」
「絵の具はまだ作っていないよ。今はある物でやってるだけで」
自分らが止めろと言ったんじゃないか! 今そんな事までやったら特許がもっと増えるから今は自重しろと……。
「そうだったかな? まぁでも絵を描くぐらいなら色は無くても良いか?」
「そうだね。形が分かれば領主様が当ててくれるかも知れないからインクや木炭でも書けるよ」
「じゃあそうするか」
でもな……。これを言ったらまず間違いなく俺が疑われるんだよな。爺ちゃんが幾ら商人でも見た事も食べた事も無いような物を知っている事があり得ないからね。何とか出来ないかな? やっぱり一度俺が村まで行くしかないかな……?
「爺ちゃん、ゴメン! やっぱり止めておくよ。これを聞いたら俺の事がもっとバレる事になりそうだから」
「そうか。それならどんな物が獲れるかだけ聞いてみるから、それで色々考えてみろ」
流石は爺ちゃんだ。判断が早いし機転が利く。世間話のようにクロック村の事を聞いてくれれば今はそれで
「領主様、先程からクロック村のお話が出ていたようですが、そもそも私共はその村に付いて良く知らないのですが、良ければお教え頂けませんか? もしかしたら私共でお手伝い出来ることがあるかも知れませんので」
「そうなのか? もしそうなら喜ばしい事だ」
「勿論、絶対とは言いませんが、今も研究中の物がありますから、今後という事になるかも知れませんが、それで良ければ……」
「勿論だ! 現状では特別手を入れる事も出来ないのだから、それで良い!」
そりゃそうか。領主様は手を入れるなら既存の村からと言っているが、実質何をして良いか分からないんだ。当然だよ、今出来るならとっくの昔にやってる筈だもんな。
「では領主様、先ずは村では何が獲れていますか? 特に漁業の方で……」
「漁業か、そちらなら良く知っているぞ。そうだな……、一番獲れるのは……」
領主様が教えてくれた獲れる魚や貝については、俺が知っている物に似ているような物ばかりのようだ。だが、カニやエビのような話は出てこないし、海藻類なんて全くだ。これは困ったぞ、ここでこれ以上聞くのは拙いけど、出来れば海藻だけでも聞きたいな。海藻も使い道が多い物だからな……。
「領主様、海の中ってどうなってるの?」
「おう、マークから子供らしい質問が出たな。それなら答えなければいかんな」
いや別に、子供らしい質問だから答えて貰わなくても良いんだけど、俺が海藻について聞くにはこう聞くのが良いと思っただけだからね。子供の好奇心という感じにすれば疑いをもたれずに情報が聞き出せる。
「海の中はな。そりゃ美しいもので溢れかえっているぞ。色とりどりの植物や石のような物まで本当に美しいぞ。是非今度夏にでも行って海に入ると良い」
「そうなんだ。でも領主様、海には魔物はいないの?」
「勿論、魔物はいるぞ。だがな、狂暴な魔物は海の深い所にいるから海岸沿いでは滅多に会う事はないな」
海の魔物はそういう性質なんだ。だから漁師が魔物の魚を気にせず漁に出れるんだな。陸の牛や鶏のような物は同じ大人しい魔物でも、やっぱりテイムしないと無理な魔物だけど、それと魚類が同じなら領主様が海に入れなんて言わないもんな。
しかし、領主様の話からすると前世の熱帯や亜熱帯の海のような感じなんだけど、生息してる魚は前世で言うと日本全体で良く獲れる魚のようだった。
奇妙な生態系だな。わかめや昆布は取れるかな……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます