第214話 昼食も普通ではない

「そういう事なら領主様、やはり別に町を作る方が良いのではないでしょうか?」


「しかしな~~、流石にいきなりそれは無理だぞ」


「それでしたら、伯爵様にご相談なさったらどうでしょう?」


「それは伯爵様に金を出して貰えという事か?」


 村長さんは凄く頭が良いんだな。こんな田舎の村の村長にしておくには勿体無いぐらい頭が働くよ。伯爵様を引きずり込むなんて、俺の事も含めて状況判断が適格だ。


「そうです。そうすれば伯爵様もこの村に口を出せるようになりますし、逆に守っても貰えます」


「それはそうだな。隣領は男爵が交代したばかりだし、それ以外はうちより上の爵位の領地に囲まれているからな。ましてダンジョンを持っているのは伯爵様の所だけになっていたから、うちが持つとやっかみが凄い事になりそうだ。まして初級以上だとなればな……」


 基本この世界の寄り子は仲が良いもんだけど、中には元隣領の貴族のように寄り親を裏切って自分の利益に走るバカもいる。それを考えると用心はしておいた方が良い。特級ダンジョンを男爵が持つとなれば幾ら仲が良くてもどうなるか分からない。それを防ぐには伯爵がここのダンジョンにも絡んでいると見せつけるのが一番だ。


「お話し中失礼します。昼食の準備が出来ましたので、こちらにどうぞ!」


「そうだな。先ずは腹ごしらえをしてから再度話そう。さっきから良い匂いがしてもう堪らんのだ」


「ん? この匂いは? いつぞやこのうちから匂っていたものだね」


 あちゃ~~この匂いも村長さんにバレてたか……。以前米を食べる為にオークの角煮や生姜焼きを作ったので、折角山菜を採りに行ったのにその日は食べなかったんだよね。でもその次の日に、天ぷらにして食べたんだけどその匂いも嗅がれていたとは……。そうなるとほぼ毎日我が家の食事時まで監視されていたという事になるけどね。


「何か見た事も無い料理が並んでいるぞ。これは一体なんだ?」


「これは天ぷらという物です。酒も入っていますから丁度良いと思い作りました。塩を少し振ってお食べ下さい」


 本来ならここで米を出せれば良かったんだが、流石に今はまだ無理なので、酒のつまみにもなって腹も膨れるものとして天ぷらにした。まぁパンには合わないけどね……。


「おぉ~~これは外はサクッと中はしっとりとしていて美味しいの~~」


「しかし、これは何の野菜だ?」


「根菜以外はこの村の森で採れる山菜です」


 本来この時期に採れる野菜と言えば多くが根菜、多少の葉物も可能だが、この村では雪が少なくてもちょくちょく降るので厳しい。


「オニ(玉ねぎ)、キャロ(人参)、ポテ(ジャガイモ)は分かるが一つだけ分からん根菜がある。これは何だ?」


「それは根菜でもありますし山菜でもあります、タケノコです」


 これだけは不思議だったんだけど、竹は竹と母ちゃん達も呼んでいたし、タケノコもそのままタケノコと呼んでいた。殆どの野菜や木の名前が英語名の短縮だったのに違う物もあるんだよね。あ! そうだオーク材もオークと呼んでるな……。あれ? オークという魔物がいるのに……?


 俺の前世の知識ではオークというのは有名な小説に登場するオーク族という兵士として使われる種族で、語源から考えるとラテン語の「Orcus」(冥界の神や死者の世界)や古英語の「orc」(悪霊や地獄の悪魔)に関連するんだが、この世界では違うのではとこの時ふと思った。


 だって見た目は二足歩行の豚なんだよ、それなのにそう言う系統の名前になっていない。そこでさっき閃いた、鶏と卵のどっちが先かじゃないけど、オーク樽とオークの体形が似ているからどちらもオークと名付けられたいうのはどうだろうかと思ったのだ。かなり無理があるとは思っているけどね……。


「タケノコだと! あれはタイミングがずれると灰汁が強くて食べられたものじゃないぞ! それが……、こんなに美味しいとは……」


「領主様、勿論その通りなんですが、ある工夫をすればある程度タイミングがずれても食べられるようになるんです」


 本当はここでぬかを教えたいのだが、米が教えられない以上それは出来ませんから、今回は草木灰を入れて混ぜた水の上澄みを使う方法を教えます。勿論、草木灰をそのままタケノコを茹でる時に使っても良いのですが、それだとやはりあまり良い気持がしないので、上澄みを使う方法を教えます。


 それにこのアルカリ性の水は石鹸を作る時にも使いますから、一石二鳥になるのです。


「それはどうするのだ? 私の領地には竹林が結構あるから、それが出来るようになれば、食料として助かる」


「それは簡単です。石鹸を作る時にも使いますが竈の灰から作る水で煮る事です」


「な、何ですって! 石鹸を作る時にも灰を使うの?」


「そうです。それに今出しているタケノコ以外の山菜のあく抜きにも使っています。ですから灰はとても大事な物なんです。ただ捨てるなんて、勿体無い事をしてるんです」


「それにしても、良くこんな事を思いつくな?」


 領主様がそう言いながら俺を見てる。これは拙いかな? どうもこの事で俺に矛先が向きそうだぞ。だがここを乗り切れば天才児で何とかこれからも乗り切れる……。俺がそう思っていたら


「領主様、それは偶然と研究の成果です。例えばあく抜きの時は水がめに灰が入ってるのを知らずにその上澄み水をタケノコや山菜の煮炊きに使ったら何時もより柔らかったり、癖がなくなったりしたので気づきました。そしたらその水には何かあるという事になりますから、色んな物と混ぜて見る事に。そういう感じで色んな物に興味を持って実験した成果が今です」


「成程な、だからポーションの水を変えるという事に発想が行ったのか……」


 父ちゃんの機転とも言える説明で、領主様の矛先が俺の方に向かなくなった。まぁ完全にそう思っている訳ではないだろうが、俺と父ちゃん達の研究成果という感じには思えて貰えたかも?


「エンターさん! このあく抜きに関しては村で広めても構わんかね?」


「それは問題ないですよ。料理のレシピでもないですから、それは広めて下さい」


「出来たら、この料理のレシピも知りたかったが、そこまでは図々しいな」


 そうなんだよな……。料理のレシピも特許登録出来るんだよ。だけど料理を生業なりわいにするつもりもないんだよ。まして親戚にもそういう人いないしな。


 醤油や味噌のような調味料の方で儲けるようにすれば、レシピはどうでも良いんだけど、登録せずに適当に教えると悪人の収入になる可能性があるから、いっその事、特許登録後、無料公開にした方が良いのかも……?

 


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