第213話 休憩の合間の一コマ

「お待たせしてごめんなさいね」


「い、いえ。何も問題ありません」


 俺は奥方様に謝られたけど、その体制で言われてもと思いながら、ぎこちない返事をしてしまった。だって未だに領主様の襟首を持ったままなんだぜ、そりゃこうなるよな……。


「それでは暫し休憩の間、こちらでもお飲みになってお寛ぎください。お昼の準備が出来るまで」


「おぉ~~それは蒸留酒じゃな。だが何時もと少し色が違うようじゃが?」


「これは、蒸留酒をオーク樽で寝かせた物です。大体半年ほど経った物ですね」


 本来この村の近くでオークは手に入りませんが、どうにかして手に入れたという事にすれば誤魔化せるし、ダンジョンにはあるのでそれ程追及されないと思い、俺が最近熟成させたウイスキーを領主様に出した。


 まぁ本当に詳しい人がいればこれもおかしいとバレるんですけどね。オーク樽の新しい物ならこれぐらいの月数でも色が付きますが、そうでないものだとそうはならないし、蒸留酒の特許を取った月から考えると初めからオーク樽があった事になりおかしな事になる。


「それは珍しい木材の樽だな。この辺りだとパイ(パイン、松)が主流だからな」


「どうぞ、お召し上がりください。樽が違いますから領主様が保管されているウイスキーとはまた味が違いますから」


「それは楽しみだな。私が熟成させている蒸留酒も何時かはこうなるんだな」


 爺ちゃんと父ちゃんにその後は任せて俺と母ちゃんと婆ちゃんはお昼の準備を始めたが、それで終わらせる俺ではない。この際だからこの村でも出来る事が他にもあると分からせる為、これも最近作った自家製のチーズをつまみに出した。


「エンター、これはなんじゃ?」


「これはチーズという、牛の乳から出来ている物です。酒のつまみや料理にも使える面白い食材です」


「はぉ~~、チーズとな。では一口」


「お待ちください御屋形様! 先ずは毒見を!」


「良い! エンターがわしに毒を持って何の利益がある」


「そうよロベルト、その気があるならキノコの時でも毒キノコでどうにか出来たでしょ」


 そりゃそうだよね。うちが毒のないキノコを広めたんだから、そんなうちが領主様に毒を盛る必要性なんて全くない。それにその後も蒸留酒を大量に納めているんだからあり得ない事。


「おぉ~~~! こりゃまた独特な風味の食べ物じゃな。確かに蒸留酒にピッタリのつまみだ」


「エンターさん、このチーズというのはどうやって作るんだい?」


「村長、それはまだ登録してないから流石に教えられないよ」


 父ちゃんは村長にこう答えたけど、俺としては村長にこの特許を上げても良いと思っているんだよね。父ちゃんに恩義を感じて俺の事を隠してくれるような人なんだから、それぐらいしても良いと思う。それにこの村はいずれ変わって行くから、その時にはこの村でチーズやバターが作れるかどうか分からないからね。


 何と言っても特級ダンジョンがある町になるんだから、牧場がそのまま続けられるかどうか……? あ! でも! 養蜂もやるんだから完全になくなるというのはないのか?


「それはそうか……」


「まぁでも近いうちには教えるから、その時は沢山作って売って下さい」


「その時は私の家でも買わせて貰おう」


 その後、チーズの話が落ちついたところで、村長がスライムの浄化と水車の話を持ち出して領主様と色々話し始めた。


「ロドリゴ、報告は良く分かったが、それで問題なく進められそうか?」


「領主様、そこは人足次第です。何といっても規模が大きいですから」


「やはりそうか……。だがそうなるともっと人足が必要になるな」


「それはどういう事でしょう?」


「エンター、ロドリゴには話して良いか?」


「その辺りの判断は領主様にお任せいたします。それにいずれは分かる事ですから」


 俺はお昼の料理を作りながら、みんなの会話を聞いていたけど、全部を話せないからもどかしく思っていた。それはソラのダンジョンが特級だとは言えないからだ。もしそれが言えるならそんな規模の工事では将来追いつかなくなるよと言いたいのだ。この村が町、いや王都に匹敵する規模になるからね。


 ただ、最近俺が思いついたことで、こういう事を解決する方法があるんだよ。これはまだ誰にも言っていないけど、ダンジョンの近くを開拓して新しい街を作るという案。そうすれば今の工事は現状の案で大丈夫だし、色んな物が残せる。


「ロドリゴ、実はな。この村の近くにダンジョンが発見されたんだ」


「え~~~~~! それはとんでもない事ではないですか! つい最近隣領のダンジョンが消滅したばかりだというのに……」


「私もそう思うが、そうらしいのだ。私もまだ確認はしていないけどな」


「まだ、確認をしていない?」


「村長、それを発見したのはわしで、今日その事を領主様に報告したばかりなんだ」


「エンターさん! またあなたですか!」


 まぁ当然村長はこう言うよね。鉄鉱石の鉱山の時も父ちゃんだったんだから……。だけど、その時村長さんの目が、俺の方に向いたのを俺は見逃さなかった。あちゃ~~、これは見透かされてるかな? どんな形かは分からないにしても、俺がそれに一枚かんでいるのは村長には分かってしまったようだ。


「ロドリゴ、そういう事だから今の規模では足りなくなりそうなんだ」


「確かにそれでは無理ですね。――それなら、新しい町を作るというのはどうでしょう。それなら別の町ですから工事も規模は大きくなりますが、二度手間になりません」


「それはそうだが、それはダンジョンのクラスを確認してからだな」


「エンターさん、あなたが発見したんですから、どのクラスか予想は出来ないんですか?」


 これは父ちゃんも困ったよ。特級ダンジョンだとは知っていても現状ではそこまでの規模もないし、序盤の階層は俺の希望で初級ダンジョンのように成っているから、特級だという予想は出せない。


「村長、流石にそれは出来んよ。ただ初級以上だという事なら言えるかな」


「エンター、予想出来ないというのに何故初級以上とは言えるのだ?」


「それは成長速度が速いからです。私がダンジョンを発見した時には結構な深さまで出来ていましたからね。元々そこには何もなかったのにです」


「成程、確かにそれなら理解出来る……」


 おぉ~~父ちゃんにしてはやけに上手い言い訳を考えたな。これなら俺も驚いたが俺と同じ発想をした村長の案もありなようになった……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る