第212話 マークと父ちゃんのやらかし
「どういう理由で僕の事を隠したのは分かったけど、どんな事を隠したの?」
「当然そこは気になるよな。それじゃ、そこのところも話しておこう。隠した事は……」
村長が俺に付いて隠した事は、特別な事じゃなく物凄く簡単な事だった。俺が何時も父ちゃん達と行動を共にしてるという事。当然五歳なんだから親と一緒に居るのは極普通の事だが、通常五歳の子供を森に連れて行ったりしない。まして子供と女性だけで、馬車で出掛けるなんて通常あり得ないからそういう事も隠したそうだ。
これらを纏めると、俺に戦闘能力があるという事がバレてしまう事になる。
「村長さんは僕が気持ち悪くないの?」
「何でじゃ? あれだけ色んな物を作れる子じゃ、魔物を倒す術ぐらい持っていておかしくないじゃろう。だがそれは領主様に知られて良い事じゃないからな」
確かに村長さんの言う通りだ。物を幾ら作れても領主にとっては脅威にならないが、戦闘力を持っているというのは脅威だからな。
「だからその部分に繋がりそうなことは話さなかったんだね」
「そうじゃ」
ん! そう言えば爺ちゃんも村長と同じような事をしてるよな。魔力の増量法とか魔法については隠してるもんな。これもどちらかと言うと戦闘に関係してくる部分だから、現状領主様に話すといらぬ警戒心を与えるし、俺の戦闘力を疑われる。俺はあくまで物作りが得意な子供で終らせたいんだな。
「婆ちゃん、話は大体分かったけど、そろそろ領主様達が休憩で上がって来るから、この話はここまでにしよう」
「そういう事なら村長さん、この続きは領主様達と一緒に話しましょう」
「そうですな。私も領主様に水車の件を報告しないといけませんから」
そうやって話を終わらせたと同時位に家の奥から声が聞こえて来た。何処かで聞いていたんじゃないかというくらいドンピシャのタイミングでね。
「マーク! お義母さんはいたかい?」
「うん、居たよ! 村長さんと店で話してた。かー達は休憩にするの?」
「そうだよ。漸く一区切りついたからね」
「それじゃ僕達も食堂に行けば良いね」
「そうしておくれ!」
漸く休憩になったと母ちゃんが言うよに、俺が婆ちゃんを探しに来て村長さんと話していた時間は結構な物だった。俺としては母ちゃんに休憩を進めてから、そんなに掛からないと思っていたのに、えらく時間が掛った物だ。
「かー、えらく時間が掛ったね?」
「あぁ、それはエンターがやらかしたんだよ」
父ちゃんがやらかした? あの時父ちゃんも普通に休憩に入りそうな口ぶりだったじゃん。その後にやらかすってどういう事?
「とーが、何したの?」
「結界の魔石魔道具を見せちゃったんだよ」
魔石魔道具……! そう言えばあれも地下に置きっぱなしにしていたな。だけどちょっと見るだけではあれが魔道具だとは分からない筈。何も知らない人が見ただけでは只の魔石にしか見えない筈だ。
「もしかして、魔石に付いて聞かれた?」
「その通り。奥方様があの魔石がオークの物だと気が付かれたんだよ」
そうだよ! この世界ではあの大きさ以上の魔石はダンジョンから出る魔道具の交換用の魔石か宝石扱いなんだよ。そうなると当然領主様のような人達からすれば、宝石と同じ扱いだから、宝石が無造作に置かれているという事になる。
「そうなると説明しなくてはいけなくなるから、とーはするよね。ましてとーの事だから調子に乗ってあれをやっちゃたんでしょ」
「流石親子だね。その通りだよ」
いや流石にそんな所で親子だと言われたくないぞ。俺ならその場は流すか、魔道具だという所で止めて置く。幾ら何でもあの結界のテストをその場でやろうなんて絶対思わない。まぁ後から説明しなくてはいけないんだから、遅いか早いかの違いではあるけどね。
「そりゃ時間が掛るわ。だけど逆に良くこの時間で終わったね?」
「終わるもんか! 領主様の食いつきが凄い事になって終わりそうも無かったから、無理やり止めさせたのさ」
「え! どうやって止めたの? まさか領主様に拳骨は出来ないでしょ!」
「マーク、私を何だと思ってるんだい。私だってそれぐらいの常識はあるから拳骨はエンターにだよ」
いやいや、それの何処に常識があるんだよ。恐らく拳骨と母ちゃんが言ってるのは父ちゃんの頭を思いっきりハタいたって事だと思う。それが手のひらか拳骨かは分からないが、領主様達の前でする事じゃないでしょう。
「マジで拳骨をとーにしたの?」
「当然だよ。幾ら結界があるからと、これ見よがしにロベルトさんにナイフまで投げたんだから」
わぁ~~流石にそれは庇いようがないわ! 幾ら何でも相手は騎士様だよ。身内に対してだったらその程度は怒られる程度で済むけど、ロベルトさんは拙過ぎる。まぁ魔法を使っていない所だけは褒めてやるけどね。
「でも、それじゃ流石に領主様も怒ったんじゃない?」
「それが全くさ。それどころか自分の部下に魔法が使える人が居たから魔法まで試されていたよ」
う~~ん、それじゃ父ちゃんは殴られ損という事になるのか? 殴られたのに実際は実験も終わらなかったんだから、そうなるよな……。
「でもさ、逆にそこまで行ったのに、この時間で上がって来れた方がおかしいんじゃない?」
「そこはどうしてか分からないけど、それ以上は領主様が聞いてこなかったから、休憩に入れたよ」
普通に考えて、魔石魔道具の優秀性を知ってしまったら、それをどうやって作るのかに当然なる筈なのに、何故だ……? 俺がそう思っていたら、その答えが直ぐに分かった。
母ちゃんはその時気づかなかったんだろうが、奥方様が止めたんだという事が俺には直ぐに分かった。何故なら、食堂に入って来る時に領主様の襟首を奥方様が掴んでいたからね。
多分、奥方様は母ちゃんの父ちゃんに対する拳骨を見て、これ以上は拙いと思ったんだと思う。それなのに領主様が止めないから、色々止めようと目で合図したりしたんだろう。その結果止まりはしたけど、領主様が文句を言ったから最終的に実力行使にでて、襟首を捕まえて地下室から引きずり出したという事だと思う。
あくまであの状況を見た俺の想像ではあるけど、粗方間違ってはいないと思う。やはり、奥方様はうちの女性陣と似たタイプの人じゃないだろうか?
この先も奥方様は要注意だな……。
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