第211話 村長と父ちゃん

「かー、ちょっと僕、婆ちゃんを探してくる!」


「分かったよ。こちらは私達で何とかしておくから」


 領主様達との話が一向に進まないので、休憩を入れた方が良いと母ちゃんに言ったが、その時に飛んでもない事に俺は気づいてしまった。この場に婆ちゃんが居ないという事にだ。あの婆ちゃんがこの場に居ない何て普通あり得ないからね。まして奥方様に石鹸などの事を話したのは婆ちゃんなんだから、居ないというのは絶対におかしい。


「婆ちゃん~~~! 何処に居るの~~~?」


「マークかい! ここだよ~~」


 この声の方向は店の方だな。まさかこんな時に婆ちゃんは店番なんてしてないよね。そう思いながら店の方へ行くと、そこには、婆ちゃんが村長と話していた。


「婆ちゃん、何してるの?」


「何をしてるって、見たら分るだろう? 村長さんと話してるんだよ」


「それは見たら分るけど、今する事? 婆ちゃんには他にする事があるでしょ」


「だから、その大事な事をしてるんだよ」


 大事な事? それは領主様達より大事な事なの? どう考えても今は奥方様の方が大事だろう。これから化粧品や石鹸を売り出して行く為には、原材料の確保が……。あれ? もしかしてその話? この村でも原材料を確保しようという話を村長としてるの?


「その大事な事ってなに?」


「久しぶりに会うな。確か名前はマークじゃったな。その大事な話というのはわしから話そう。それはな……」


 村長がそれから俺に話した内容は、俺が思っていた事とは全く違う話だった。なんとそれは、俺が作ったジオラマに関係する話だった。ジオラマに関する物と言えば、スライムによる浄化と水車を利用した小麦粉挽きについてだ。だが、ここで気になるのが何故それを村長がそれを知っていて俺に話すかという事。俺は見た目五歳の子供だぞ……!


「あぁ~~!」


「どうしたんだい、マーク!」


「ううん、何でもないよ」


 村長の話を聞きながら俺が急に大きな声を出したから、婆ちゃんが心配して俺に声を掛けて来た。だが、婆ちゃんはその話を聞いていないから知らないし、村長もどこまで知っているか分からないので誤魔化した。


 村長はうちをスパイしてたから、俺の事をある程度知っているんだろう。だから普通子供に話さないような事を俺に話している。しかし、婆ちゃんも何でここでおかしいと思わないんだ? 普通こういう時に俺みたいな子供に話す内容じゃない物を話し出したら止めるだろう?


「マーク、そんな顔しなくても大丈夫だよ。村長さんはもう分かっているから」


「え!」


「マーク、わしはお前が普通の子供じゃない事は分かっている。だから心配せずとも良いぞ」


 いやいや、それって領主様より分かっている事になるよ。領主様でさえそこまで俺の事を知らないからね。まぁ直接一番監視してたのは村長だから、俺の事を知っていてもおかしく無いけど、逆にそれなら何故領主様は知らない?


「マーク、そんなに疑うような顔で村長さんを見たら駄目だよ。村長さんは全部を領主様に報告していないんだよ」


「え! 婆ちゃんもその話を知ってるの?」


「知ってるよ。さっき村長さんから聞いたからね」


「マーク、わしはその事を言いに急いで来たんだよ。全部は話していないから、正直に全部話す必要は無いとね」


 う~~ん、そこまでは何とか理解出来たけど、それならなんで村長はジオラマの話を知っているんだ? ジオラマの話は領主様達にしか話していないだろう? 


「何となく色々分かったけど、それじゃどうして村長さんはスライムの事とか知ってるの?」


「あぁそれでそんな顔をしてるのか? それは領主様から知らせを貰っていたからだぞ」


「そうなんだ……」


 確かにそれなら辻褄が合う。父ちゃん達の帰りが遅かったんだから、その前に村長に話が行っていてもおかしくない。村の事なんだから村長に色々調べさせたりもしただろうからね。


「マークのその様子を見ると、それでも信用できないだろうな。どうしてわしが全部を領主様に話してないのかと疑問に思うだろうからな」


「それは思うね。相手は領主様だから……」


 普通に考えて、領主様の部下のような村長が、調べた事を隠すなんてあり得ない。それなのに隠した事もそうだが、それをわざわざ言いに来たというのも驚きだ。


「マークは不思議に思うじゃろうが、それはわしとエンターの仲だからだ。マークはエンターがこの村に住み着いた経緯を聞いた事があるか?」


 ん? そう言えばそんな事聞いた事無いな。それにこれまで極当たり前のように思っていたけど、この村にドワーフはうちだけだし、鍛冶屋もうちだけなんだよな。父ちゃん達の年齢から考えると、この村に住み着いたのは早くてもここ十年の間。それならその前はという事になる。


「聞いた事無いよ」


「それなら丁度良いから話しておこう。エンターがこの村に……」


 村長さんが俺に父ちゃんがこの村に住み着いた経緯を話してくれたが、中々の物だった。元々この村に鍛冶屋は居たが、人間の鍛冶屋だったので寿命で亡くなり、それからというものずっと不在だったらしい。その結果、鍛冶仕事がある時はまとめて領主様が居るキール村まで、村長さんが代表で持って行き修理していた。だがそれではどうしても困る事が多かったので、何とか鍛冶師を見つけて住み着いて欲しいと探していたそうだ。


 そんな折、偶然にも父ちゃん達が冒険者としてこの村を訪れ、森で狩りをしたのだが、その時に父ちゃん達が使っていた武器が破損、母ちゃんが怪我をしたので、暫く滞在する事になったそうだ。勿論、父ちゃん達も金がない訳ではないのでポーションで怪我は直ぐに治せたが、肝心の武器がないので、村から村への移動に困ったらしい。


 そんな時、父ちゃんが村外れにあった元鍛冶屋の家を見つけ、そこを借りて修理出来ないかと村長に頼んだのだ。そうなれば当然村長は父ちゃんに目をつける。現状は冒険者のようだが、武器が修理できるなら、本業というか職業が鍛冶師だとそれで判断出来るから、今度は村長の方から頼み込んで行ったのだ


 そうなれば村長の方が今度は弱い立場だが、その時、父ちゃんは男気を出して、あっさりと引き受けたそうだ。元々父ちゃん達は半分駆け落ちのような状態だったし、いずれは落ちついて暮らしたいとは思っていたから、村長の話は渡りに船だったんだけどね。


 そういう訳で父ちゃん達がここに住むようになったんだけど、村長にとっては父ちゃんは一種の恩人みたいな立ち位置だから、色々恩を感じている。だから、今回色んな事を知ったけど、うちの家族が不利になりそうなことは領主様に隠したそうだ。


 村長が隠したって、何を隠したんだろう? そこが物凄く気になる……。

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