第210話 ロベルト

「ロベルト! 直ぐにポーションを使え!」


「では、失礼して」


 ロベルトさんはさっきもそうだけど奥方様にゴメンと言っていたけど、どうして此処でも失礼してという言葉が出るの? 中世ぽい世界の騎士はこういう感じなの? 一々断りを入れないといけないの? 俺には到底理解出来ない世界だ……。


「ロベルト、傷はどうだ? 違和感はないか?」


「御屋形様、この通り傷も全く残っていませんし、効果が出るのもかなり早いです。それに違和感などもありません」


「そうか、それは良かった」


「それでは、次は内服での効果を見てみます」


 え! 今何と言った⁉ 今度は内服でと言ったのか? それってまさか……? そう俺が思った時、ロベルトさんはもう一度先程と同じように手のひらをナイフで切っていた。こいつは馬鹿なのか? 傷に振り掛ける方法だろうと内服だろうと効果が殆ど変わらないのが、この世界のポーションの常識だろう。まぁ体の内部に損傷があればそれも変わって来るだろうが、そんな傷がある人はそんなにいない? もしかしてこの人は胃潰瘍でもあるのか? それなら理解出来るが……?


「ロベルト、お前という奴は……」


「ロベルト、流石に私もそこまでやる必要は無かったと思うわよ」


「いいえ、これは必要な事です。私の経験から来るものですから……」


 マジか~~、この言い方は以前俺の考えているような事があったという事だ。まぁそれが胃潰瘍だったかは分からないけど、それと同じようなことがあって効果が薄れたことがあったんだな。う~~ん、中間管理職の胃が悪くなるのはどの世界でも同じなのかな?


「大変驚くことをされましたが、ロベルト様の評価はどうなりましたか?」


「ルイス殿、このポーションは凄いですね。初級ポーションとは到底思えないですよ。どう見てもこれは中級ポーションの域に入っています」


 へぇ~~、父ちゃんがね~~。以前の父ちゃんならこんなポーションは作れなかった筈。それなのにこんなポーションが作れたという事は、恐らく錬金術のスキルの習熟度が上がっているという事だ。でも何時練習したのかな? 付与はかなり練習してたみたいだけど……。


 ん? もしかして錬金術と付与は関連性があるという事か? もしそれが正解なら、錬金術を持っていない人でも、付与魔法を習得すれば錬金術を発現する可能性があるという事だ。時間はかなり掛かるだろうが。


「ロベルト、それは誠か?」


「はい、お館様」


「これはどういう事だエンター? お前は鍛冶師だよな。その職業の人間が幾ら錬金術のスキルを持っているからと、本職以上のポーションを作れるのはおかしいだろう。幾ら水を変えたからと言って」


「領主様、そこはこの錬成盤の違いです」


「錬成盤?」


 流石にここまで来ると領主様でも理解出来ないよね。この域まで来ると錬金術師や薬師という専門職じゃないと知らない事だから。


「領主様、錬成盤にはランクがあるんです。そのランクの違いで出来上がる物に違いが出るんです。ですからこのポーションは、私が作ってもこれだけ効果が高くなるんです」


「錬成盤にそんな物があったなんて知らなかったな」


「領主様、ただそれを知っていても多くの錬金術師達が良い物を使っていません」


「どうしてだ? 良い物を使った方がそれだけ出来る物も良くなるのだろう?」


「それは、その錬成盤を作るのが困難だからです……」


 爺ちゃんは錬成盤の作り方について一から領主様に説明を始め、新鮮な強い魔物の血で作る錬成盤ほどランクが高いと話した。


「ルイス、そなたの話からすると、そこにある錬成盤は相当ランクが高い事になるが、どうやって手に入れたのだ?」


「これは、私共で作りました」


「おい待てルイス、それでは自分達で魔物を倒したという事になるぞ」


「勿論、その通りです。うちのエンターはそんじょそこらの冒険者より戦えますので」


 爺ちゃんが領主様にこういった時、領主様一行の一人の目がキランと輝いた。まぁ普通に考えれば、こういう時にそうなるのはロベルトさんだと思うでしょう。ですが、これロベルトさんじゃないからね。何と! その時に目が輝いたのは奥方様でした。


 そしてそれに気づいた俺が一番に思ったのが、これヤバイでした。そりゃそうでしょ、この後ダンジョンにも案内するんだよ。そうなった時に奥方様が行かないなんて言うと思う? 絶対にあり得ないからね。脳筋奥様だとは知らなかったから避けようがなかったが、これは不用心過ぎた爺ちゃんの発言だった。


「それは薄々分かっていたが、そこまでとは思わなかったな」


「領主様、どうしてそれをご存じで?」


「そんなの簡単だろう。鉄鉱石の鉱山までの道を誰が作ったんだ?」


「あぁ~~確かに……。あの辺でもオークぐらいは出ますからね」


 そりゃ気づくよね。あの時、監視はされていなかっただろうが、オークが出るような場所の道路工事をこちらから受けたんだから、それなりに自信があったと思うのが普通だ。


「錬成盤についてはご理解頂けたようなので、次に行きたいと思いますが宜しいですか?」


「あぁ構わん」


 爺ちゃんが話の続きをしようとしているが、これって何時終わるんだ? じっくり話をするのは良いんだけど、このままだと夕方まで掛かっても終わりそうにない。それに幾ら何でも領主様達に食事を出さないのも失礼だ。


「かー、そろそろ休憩を入れた方が良いんじゃない? もう直ぐお昼になるよ」


「マークの言う通りだね。このままだと夕食に成るまで話が続きそうだよ」


 爺ちゃんが話す予定の話だけでも、


 ・ポーション

 ・酒 

 ・付与魔法 (錬成陣)

 ・魔石魔道具 (魔法陣)

 ・スライム(スライムゼリー)

 ・温度計

 ・肥料

 ・石鹸、シャンプー、リンス

 ・錬成陣による金属加工

 ・ベアリング、板バネ

 ・ダンジョン 


 これだけあるのに、今はまだポーションと錬成陣の話だけ。錬成陣の付与魔法についても実演はしていないし、この後の魔石魔道具の実演なんてしたら領主様が腰を抜かすかも知れない。


 どうせなら、ここに来る時に結界の魔道具の実演をして来れば良かったのに、それすらして来ていないからな。


「エンター、この辺で少し休憩を入れたらどうだい?」


「あぁそうだな。それに荷物の搬入も必要だな」


 両親は普通に話しているが、良く考えたら、今この店の外はどうなっているんだろう? 王都の家族の時は冒険者が付いて来ていたから、そこまで目立たなかったけど、今回は事情が違う。


 あれ? そう言えば婆ちゃんが居ないぞ? 婆ちゃんは上に居るのか? 


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