第209話 職業とポーション

「それではポーションを作って行きますね。エンター頼むぞ」


「分かったよ、親父」


 爺ちゃんに言われて父ちゃんはポーションを作り始めたが、先ず初めに触った物で領主を驚かせた。


「ル、ルイス! そのガラスは何だ! そんな無色透明なガラスは見た事がないぞ!」


「流石は領主様ですね。このガラスの異常さにお気づきになりましたか。これは先ほどの錬金術による成分分離で透明になるガラスの材料を分離して作っているからです」


「そんな使い方もあるのか……」


 おぉ~~ここで突込みがないのは助かったな。だってここにはガラス用の窯もあるけど、本来なら誰が使うんだという事になるからね。まぁ勝手に領主様は鍛冶師の父ちゃんが使っていると思ってくれたようだが……。


 そう言えば、この世界にガラスが存在してる事は知ってるけど、いったいどんな職業の人が作ってるんだろう? やっぱり父ちゃんのような鍛冶師かな? ガラスを偶然見つける可能性があるとしたら、鍛冶師のような高温の金属を扱う人だよな。いや、陶器を扱う人も可能性があるか。窯の内部が高温になってガラス化する事もあるだろうからね。


 それにしても職業ってどうやって生まれているんだろう? 文明が進歩する度に職業が生まれないとおかしい事になるよね。今はガラスを作っている人が鍛冶師や陶器職人だとしても、次の世代に引き継がれた時に新しい職業が生まれるのかな?


 あれ? こういう事って、俺が知らないだけでもしかしたら皆は知ってる事……? そうじゃないと新しい職業が生まれない事になるからね。やっぱり俺ってまだ五歳なんだな……。前世の知識はあってもこの世界の常識は知らない。ん? でも俺ってこの世界の常識を変えて行ってるよな? 常識を知らないのに常識を変える? これ如何に……?


 俺がこんな事を考えている間に父ちゃんは既にポーションを作り終えていた。そしてそのポーションを見た領主様は物凄く驚いていた。


「エンター! 材料を変えると言ったが変えていないではないか?」


「領主様、変えましたよ。この水です」


「水?」


「この水は蒸留酒を作る時と同じ方法で作った水です」


「蒸留酒を作る方法は私も知っているが、それとどう関係するのだ?」


 おぉ~~、流石は領主様。特許の内容を見るのには、それだけでも金を払わないと見れないようになっているのに、金を払って見たんだ。作る作らないは関係ないのに……。


「水は蒸留する事で成分が純粋な物に近くなるので、ポーションを作る時に変な作用を起こさなくなって効果が良くなります」


「待てエンター、それはもしかして、一度沸騰した水でも同じ事か?」


「同じではないですが、従来のポーションよりは良くなります」


「何という事だ……。そんな簡単な事も今までやって来ていなかったのか?」


 まぁそうなるよね。だけどそれってミネラルや細菌、ウイルスの概念がないからそうなっていただけなんだよね。当然濁った水が悪いものだとは分っていても、普通に飲料水として使っている井戸水に不純物が入っているとは思わない。


 それに、こう言っては物凄く失礼な言い方だが、この世界のこの時代の人はお腹が強いんだと思う。俺が一度この世界の井戸水をそのまま飲んだ時にお腹を下した時があるが、それ以降は何故かそのまま飲んでも下さなくなった。これって前世でいう耐性が付いたという事なんじゃないかと思う。勿論、普通耐性が付くには長い年月が掛る物だが、この世界では違うのかも知れない。


「エンター、私にそのポーションを試させてくれんか?」


「ロベルト様、流石にそれは……。わざと怪我でもするつもりですか?」


「当然そのつもりだ。それにこれは我ら騎士にとって、とても大事な事だからな」


 ロベルトさんの気持ちは良く分かる。このポーションの効果が俺達の言う通りなら、騎士であるロベルトさん達にとって物凄く助かる事だからだ。


「ロベルト、少し待て。その前にもう一つだけエンターに聞いてからだ」


 領主様は何が聞きたいんだ? 反対するのかと思えば聞きたい事があるという。


「領主様、聞きたい事とは何でしょう?」


「それは、その水を変える事で中級や上級のポーションも効果が変わるのかという事だ」


「成程、そういう事ですか。それは今のところ分かりません。ですがその可能性は高いと思います」


「エンター、その言い方は試していないという事だな」


「ここからは私がお答えします。領主様が言われているように、この上のポーションではまだ実験をしておりませんので、正確にお答えは出来ません。ですが現在この実験は王都の私共の家族がやっていると思いますから、近々ご報告出来ると思います」


 ここで爺ちゃんがまたこの先の事を考えた事を言ったな。ここで王都の家族の存在を領主様に告げるのはとても良い事だ。今後王都の家族がここに引っ越して来た時に前情報を与えられるからね。


「ルイス、それは誠か?」


「はい、私共も秘密を守るために家族を総動員して色々と取り組んでいますので……」


「しかし、それならロベルトに許可は出せないな」


「御屋形様、構いません。それ程深い怪我をするつもりはありませんので」


「しかし……」


 本来なら、こういう事は錬金術師が判断するか、この世界に稀にいる鑑定スキル持ちがやる事なんだろうが、その両方がいない以上、実際に試してみないと分からない。ここまで言っておいておかしな話だが、俺達が効果が上がっていると言っているだけだからね。それもここでは言えないが俺の鑑定で分かった事。


「それなら、あなたが中級のポーションを用意してあげなさい」


「お前……、それは出来るが今直ぐには無理な事だぞ」


「ロベルトは我が家の騎士です。その騎士がやると言ってくれているのですから、任せれば良いのです」


 わぁ~~、ここでも踏ん切りというか決断力があるのは奥方様の方だ。


「奥方様、ありがとうございます。ではゴメン!」


 いやいや、ロベルトさん! 奥方様も思いっきりが良いけど、あなたも大概だね。奥方様に礼を言ったと思ったら、いきなり手のひらを思いっきりナイフで切りやがった!


「ひゃ!」


 この声を上げたのはなんと父ちゃんだった。冒険者まがいの事をやっていたのに、こういう事には慣れていないんだな……。まぁ俺も声には出さなかったけど「ヒュン」とはなったけどね。あそこが……。


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