第208話 主導権を取り返した

 かなりの事がバレている状況に、こちらの対応が追い付かない状態だが、ここでペースを少しでもこちらに持ってこないと対等に成れない。そう思っていた時、


「領主様、そういう事でしたら、こちらも隠し事は出来るだけしないようにしましょう。本来はもっと後にご報告するつもりでしたが、今が丁度良いようです。実はこの村の近くにダンジョンを見つけました」


「な! 何と言った今! ダ、ダンジョンだと!」


「はい、ダンジョンを発見したのです」


「「「…………」」」


 ひぇ~~~、ここでそれを暴露するかよ爺ちゃん! 俺はもっとソフトに行くと思っていたんだけどな。例えばポーションとか……。それなのにいきなりダンジョンとは思い切った事をしたな。確かにこれ以上のインパクトはないだろうから、俺の事なんて消し飛ぶよね。


「そ、それは誠か? ルイス」


「誠でございます。なんなら今直ぐご案内しても構いません」


「――流石に今からは……。それにお前が後で報告するつもりだったという事は、今直ぐどうにかなるような状態のダンジョンではないのだろう?」


「はい、その通りです。今すぐスタンピードなどが起きる事は決してありません」


 まぁ領主なら一番にこの事を気にするのは当たり前だな。ダンジョンを持つ領主が一番にする事だからね。


「そういう事なら、今はこの地下室について教えて貰おうか?」


「はい、ですがこれだけはもう一度確認しておきます。ここで見た事は当分口外しないとお約束して頂けますね」


「二言はないぞ。私の責任においてこの事は口外せん。お前達の了解がない以外にはな」


「でしたら、お話ししましょう……」


 ・ポーション

 ・酒 

 ・付与魔法 (錬成陣)

 ・魔石魔道具 (魔法陣)

 ・スライム(スライムゼリー)

 ・温度計

 ・肥料

 ・石鹸、シャンプー、リンス

 ・錬成陣による金属加工

 ・ベアリング、板バネ

 ・ダンジョン 

 

「以上が今私共がお教え出来る内容です」


 あれ? 爺ちゃんが、ここに領主様を連れて来るのに話した内容も限定的だったけど、今話した内容も更に限定的。領主様の所に行く前は全部話すと言っていたのにな……。


「ルイスよ、ポーションとはどういう意味だ? ポーションにどんな発見があったのだ?」


「ポーションについては製造法によって効果が今より向上するという物です。簡単にいうと、一つの材料を変える事でランクが一つ上がるという事ですね」


「う~~ん、それでも凄い発見だが、それぐらいでこんなに秘密にするのか?」


「流石は領主様、それには続きがありまして、その一つの材料にはもう一つランクを上げる事が出来る物にも変えられるのです」


「――その説明ではイマイチ分からんな。いったいどういう意味だ?」


 そりゃ分からんよな。井戸水から始まって、沸騰水と蒸留水、それに更に魔法で出した水の沸騰水と蒸留水と変化出るんだから、簡単には説明出来ない。あぁそれに錬成陣のランクでも変わってくるからね。


「エンター、一度領主様に披露してくれんか?」


「親父、俺がか?」


「ここで錬金術のスキルを持っているのはお前だけだからな」


 ここで俺の名前を出さないのは爺ちゃんなりの思惑があっての事だろうが、父ちゃんで本当に大丈夫かな? あの緊張しいの父ちゃんだよ……。


「ちょ、ちょっと待てルイス! 今何と言った? エンターが錬金術のスキルを持っているだって!」


「はいそうです。エンターは錬金術のスキルを持っています」


「エンターの職業は鍛冶師だよな? それなのに何故錬金術のスキルを持っている?」


 まぁここで領主様が驚くのは無理はない。普通錬金術のスキルを持っているのは、職業が薬師か職業自体が錬金術師の人が殆どだからね。稀に趣味が高じて錬金術のスキルが生える人が居る程度だからね。


「そこに、先ほど話した付与魔法の錬成陣が関係してくるのです」


「錬成陣は確かに錬金術と付与魔法に使うものだが、エンターは付与魔法として錬成陣を使っているのだろう?」


 成程、錬成陣が魔法のブーストの役目をしてる事のさわりまでは話しているのか。だけど錬成陣の他の利用方までは話していないんだな。


「錬成陣は魔法を増幅する役目があります。そこまではご理解出来ますか?」


「それは一応聞いたからな。だが、本当の意味で理解してるかと言われると困るがな」


「それでは、何故エンターが錬金術のスキルを持っているのかお見せしましょう。エンター鉄鉱石の分離をお見せしろ」


「……」


 父ちゃんはもうどうして良いか分からないのか、爺ちゃんの言われるがままに動いている。まるでロボットのようにね……。そして俺が何時もやっている鉄鉱石から鉄だけを取り出す錬成陣による分離を領主様の前で披露した。


「な! 何だそれは⁉ それは鉄か!」


「そうです。これが混じりっ気のない鉄です」


 当然こうなるよね。普通に鉄鉱石を製錬しても、こんな純鉄なんてこの世界の技術では殆ど作るのは不可能だからね。まして作れたとしてもこの世界ではかえって不要な物。


「ルイスよ、それが鉄だというのならそうなんだろうが、それと錬金術とどう関係がある?」


「領主様、そこが重要なのです。錬金術はこれまで成分を混ぜる為にしか使って来ていませんでした。ですがこのように成分を分離する事に使うのも錬金術なのです。ですからエンターは錬金術のスキルを発現できたのです」


 爺ちゃんはこう言っているけど、本当は両方やったから発現したというのが本当の所だと俺は思う。勿論、両方やったから他の人より早く発現したというのもあるけどね。


「世の中の常識が……」


「領主様、私共がこれだけ慎重に事を進めている理由がお分かり頂けましたか?」


「……」


「あなた! しっかりしなさい! それでも領主ですか!」


 おぉ~~、ここでも女性の方が胆が据わっているな。この状況に領主と一緒に来ている騎士や従者の男性は領主と同じように呆けているのに……。


「良く分かった。こんな事はそう簡単に世の中に広められないな」


「領主様、そう思われるのはまだ早いですよ。まだポーションを作っていませんから」


 そうだよ。こんな所で呆けていて貰っては困るのだ。世の中がひっくり返るような事はまだまだあるのだから。まぁ領主は若いから大丈夫だろう? うちの曽爺ちゃん、曽婆ちゃんよりは若いんだから……。


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