第207話 いろいろバレてた

「エンターよ、ここが地下室の入り口なのか?」


「はいそうですが、何か?」


「いや、ちょっと気になってな」


 あわあわ、これはもう駄目だ。俺が父ちゃんを追いかけて何とか出来ないかと、自分の部屋の前に着いた時には領主様がもう勘付いていた。しかし、ここで諦める訳にはいかないし、出来るだけ被害が最小限ですむようには動かないといけないと思い、父ちゃん達の後を追って、地下室に直ぐに降りて行った。


 だが、その努力も虚しく、俺専用の工具は直ぐに見つかってしまった……。そして、


「エンター、お前の息子は中々の策士だな」


「え! どういう事でしょうか?」


「ここにある物を見れば、あの模型などを作ったのがお前でないと直ぐに分かるぞ。作ったのはお前の息子だろう?」


 何でそうなる⁉ 確かに工具は俺用に小さく作って貰っているが、それだけで模型とは繋がないだろう。まして俺の見た目年齢から考えれば直ぐにそうはならない筈。それなのに俺と簡単に結び付けたのには理由があるという事だ。


 それにさっきから気になっていることがある。普通こういう場面に出くわせば驚くものだろう? 常識外の子供がいるんだから。それなのに……。


「何故、領主様はそう思われるのですか?」


「これでも領主だからな、私は……」


 いやいや、その返事では意味が分からないよ。この領主は自分が超能力者だとでも言いたいのか?


「領主様、それはどういう事でしょうか?」


「なに、簡単な事だ。ロベルトに調査せていたからな」


 え! それってどういう事? ロベルトさんて父ちゃんの仲の良い騎士さんじゃなかったの? 俺はてっきり前世の異世界あるあるのように、教会の神父と領主が繋がっていて、教会の洗礼の情報が漏れたのかと思っていた。まぁ洗礼の時にステータスは何処にも表示されなかったから、それも無いかなと思い始めていた時だったが……。


「ロベルト様が調査?」


「すまんな、エンター。騙すような事をして」


「いえ、ですがロベルト様はそんな事をしていませんでしたよ」


「そりゃ、バレたら調査にならんだろう」


 確かに、その通りだ。父ちゃんや俺達が何か探られていると思ってしまったら、調査の意味がないもんな。でも何をどうやって探っていたんだ? ロベルトさんはうちに来ても父ちゃんと店で話すだけだったし、キノコやハーブの話が殆どで、何かを調べている素振りなんて一切なかったぞ。


「エンター、私は店を見ていた訳ではないんだよ。お前達家族を見ていたんだ」


「わしたち家族を……?」


「良く考えてみろ。お前達との出会いは何だ?」


「それは……、鉱山ですね」


「まぁそれが初対面ではあるが、本当はもっと前、お前がポンプを特許登録した時から調査は始まっているんだ」


 成程、俺達はもっと前から領主様の監視対象だった訳か。そりゃそうかも知れない。突然ポンプなんて物を発明したら当然領主としては気になるよな。それにその後も次から次へと色んな特許を申請してるし、蒸留酒の注文を大量にしても普通に仕上げて来てるからな。俺達は……。


 そうなれば、この家もおかしいし、家族もおかしいと当然思うよね。まして爺ちゃんの店の件も伯爵様の寄り子である男爵様も情報を持っている筈だから、家族の対象が爺ちゃん達にも広がっていたんだろう。だが、それはあくまで調査対象だったという事で、それと俺との話は繋がらない。


「ですが、それとうちのマークはどう繋がるんですか?」


「それも簡単だ。その子は外に遊びに出ないだろう」


 わぁ~~ここでも俺はボッチ判定だよ。確かに間違っていないけど、そのボッチ判定がどう繋がるんだ?


「外に遊びに出ない?」


「まだ分からんか? 普通、外に子供が出なければ如何してると思う?」


「家の中で遊んでいますね」


「そうだ。なのに子供の声は聞こえないし、エンターが何か作っている素振りが店では一切なかった。そしたら自然と答えが出て来るんだよ。この家には音や声が漏れない所があって、そこで色々やっているとな。ましてエンターは店があるから店にいる時は村の人間が知っているからな」


 それって、ロベルトさん以外にも監視役は居たという事? 流石にそうじゃないとそこまで調べる事は出来ないからね。まして村人じゃないと毎日は無理だ。


「もしかして、村長……」


「おぉ~~、流石だな」


 やべ! 今のを聞かれたか! 


「そんなに怯えなくても良いぞ。私はそれを咎めるつもりもないし、利用するつもりもない。ただどんな子か会ってみたかっただけだからな」


 俺の独り言を聞かれた事でヤバいと思い思わず母ちゃんの後ろに隠れたが、それを怖がっていると思われたようで、領主様は微笑みながらこのように言ってきた。


「あなた、そんな事を言ったらかえって怯えてしまうじゃない。名前はマークと言うんだったわね。良い物を作ってくれて感謝してるわ」


 いや~~、どちらかと言うとこっちの方が俺にとっては怖いんだが。この言い方は初めて会った時の婆ちゃんに雰囲気が非常に似てる。


「いいえ、喜んで頂けたなら嬉しいです」


「エンター良く聞いて欲しんだが、私がこれまでこれぐらいの情報を持っていたのに何もしてこなかったという事を理由に信じて貰えんか?」


 この領主様の言っていることは至極真っ当な事で説得力がある。普通の貴族ならこんなに情報を持っていれば、特許などを取り上げないとしても何らかのコンタクトは取ってくる筈。それをこちらから来るまで待つというのは普通ならあり得ない。


 多分、この事は伯爵様もご存じなんじゃないだろうか?  俺達はこれからコンタクトを取ろうと思っていたが、その先を行かれているように感じる。


「領主様、この件は伯爵様もご存じですか?」


「勿論ご存じだぞ。その上で今のような対応をしていたのだ」


 う~~ん、ここまではこちらの負けだな。本来はこちらが主導権を握る予定だったが、今のところは向こうが主導権を持っているようだ。さてこの先はどうしよう? 俺が隠れる必要は無いみたいだけど、今以上の事を教えて主導権をこちらが握るのが得策なのか分からなくなった。


 こちらが主導権を握る=俺が全て作っていると完全に思われるからな。ここはやっぱり表に立つのを父ちゃん達に最後まで任せた方が良いんじゃないかな? 殆どバレていても、俺の前世の記憶や特殊職業、特殊スキルまで辿り着かないようにするには、その方が良いと思う。


 最悪でも天才児で終るようにするのが一番だな……。

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