第206話 これから俺はどうなる?

「大体の理由は分かったけど、この後はどうするつもりなの?」


「勿論、全部話すさ。ダンジョンの事までな」


「まぁあの領主様なら大丈夫だと思うけど、一緒に付いて来てる人達は大丈夫?」


「マーク、心配せんでも大丈夫じゃ。そこは本当に信用が置ける人を選んで貰ったからな。それに……」


 爺ちゃんがそこまで言った時に、俺はとんでもない物を見てしまった! それは、な、なんと! どう見ても領主の奥さんだと分かる人だった。こんな田舎の村には似つかわしくないドレスのような洋服を着て、侍女が傍にいれば、そうとしか思えないよね。


「じ、爺ちゃん! あ、あれは! どういう事!」


「あぁ、今それを言おうとしていたところだ。今回の視察には奥方様もご同行されている」


 マジか~~~! これは本当に予想外の展開だぞ。領主様に来て貰うのが今回の交渉の目的だから、爺ちゃん達と一緒に来た事以外はほぼ予定通り。しかし、奥様の登場は幾ら何でも予想外過ぎる。確かに石鹸の話で奥様を引き込むつもりだったが、あくまで手助けをしてくれるのを期待しての事。それが一緒に訪問するなんて……。


「なんでこう成ったの?」


「石鹸関係が大きな理由だが、もう一つスライムに奥様が興味を持たれたからだ」


「スライム……?」


「マークはこの世界のトイレについてどう思っている?」


「――正直に言って良い?」


「良いぞ」


「この世界のトイレは汚いし臭いと思っているよ。だからスライムの浄化を考えたんだからね」


 この世界に生まれて一番嫌だったのが風呂がない事よりも、トイレの汚さと臭さだ。勿論、前世に比べて不便な事や食事もそうだったが、その中でもトイレが一番! それを改善したいとずっと思っていたけど、俺自身がまだ今より小さかったから何も出来なかった。でも今なら出来ると思ってトイレの改善に取り組んだんだ。風呂に関しては他にも理由があって始めた事ではあるけどね……。


「そうだろう。だから奥様はもしそれが本当ならと確認に来られたんだ」


「それだけ切実に思っていたという事ね」


「あぁ、スライムの話をした時の奥様の食いつきは石鹸より凄かったからな……」


 その気持ちは分かるな。幾ら良い服を着て着飾っている貴族でも、出す物は出すし、場所も殆ど変わらないんだから、臭いよね。まぁ汚くは無いだろうけど。


「あ! もしかして、うちのトイレの話もしたの?」


「当然したさ。あのトイレは画期的だからな」


「でも、あれはまだ特許申請をしていないよ。大丈夫なの?」


「あのトイレをわしらは特許申請しないと決めたからな」


 え! そうなの? 俺はてっきりセガール爺ちゃんにさせるもんだと思っていた。今うちで使っているのは木製の洋式トイレだからね。


「それじゃどうするの?」


「領主様に任せることにした。この村は木工が盛んだし、この村の産業にもなるからな」


「でも、それじゃ一時的な物にしかならないよ。特許を申請したら何処でも作るようになるからね」


「マークよ、お前は今度何を作った?」


 俺が作った物? ――模型にジオラマ……、そういう事か! 俺が作りだした木工製品の特許を領主様が持てば、生産量が少なくなっても特許料がずっと入るから、それを木工職人に還元出来るという事だ。


「領主様は独り占めしないという事ね」


「そうだ。わしらが特許を申請しない代わり、還元してくれと頼んだんだ」


 いずれこの村はダンジョンの影響で物凄く変わって来る。そうなると、林業が衰退するかもしれない。その時に定期収入があれば生活は間違いなく出来るし、新しい木工製品が作られれば、林業ではなく木工製品による商売をして生活がもっと豊かになるかも知れない。木工産業なら最悪材料の木材はこの村で取れなくても良いし、木工産業なら林業より使う量が少なくて済む。ましてダンジョンでも木材は取れるからね……。


 そうだよ! ソラのダンジョンは資源の宝庫にする予定だから、この村がどう変わろうと、どんな職業の人でも対応次第ではどうにでもなる。


「そこまで分かれば問題ないから、僕は目立たないようにしているね。後は爺ちゃん達に任せるよ!」


「それは良いが、本当にお前が目立たないように出来るならな……」


「出来るよ!」


「多分無理だと思うぞ。良く考えろマーク! 地下室の入り口は何処にある?」


 地下室の入り口は僕の部屋の床……! あぁ~~、そりゃ無理だ! 領主様達が俺に興味を持たない訳がない。余程のバカじゃない限り地下室への入り口が俺の部屋にあれば俺と地下室を結び付ける。俺が全ての張本人だとは思わなくても、何らかの関係があると思う筈だから、少しでもおかしな行動をすれば、一発でバレる可能性が大だ。


 根本的に俺が領主様一行に会った時点でほぼ詰んでいる状態だな。今後一切会わないようにするか、何も触らなければ何とかなるかも知れないが、物作り関係の物に一つでも触れば、その時点でOUT。五歳児が普通そんなことしないからね……。


『マスター、やはりダンジョンに来るべきでしたね』


『俺も今そう思っていたけど、子供がいないとは言えないんだから、結局はそれも出来ないよ。一度領主様に俺は会ってるからね』


「僕は部屋にも居れない事になりそうだね」


「そんなの無理だろう。お前には一緒に遊ぶ友達もいないんだから……」


「そ、そんな事は……、あるな……」


 ここ最近の俺はボッチだもんな。幼馴染の同級生ともここ最近一緒に遊んでいないからな。それに今更家に居れないからと言って幼馴染の所に何しに行く? 


「そう言えばマーク、お前の部屋に置いてあるおもちゃは片付けてるよな?」


「おもちゃ? あ! やべ! 僕の部屋にはこれまで試作した竹馬、竹とんぼ、水鉄砲、積み木、木製パズル、リバーシ、将棋……、が置きっぱなしだ!」


「早く行ってアイテムボックスに全部しまってこい! あれを見られただけでお前の存在はOUTだ!」


 完全に油断していた。領主様と父ちゃん達が一緒に帰って来るとは思っていなかったので、自分の部屋を片付けるという発想が抜け落ちていた。そうだ! 地下室にも今回作って貰った子供用工具を置いたままだ。


 爺ちゃんに注意されていざ動こうと思ったその時、俺の思惑は全て無になる状態に成っていた。父ちゃんが領主様と奥様を家の中へ案内してしまったからだ。


 俺が今走ればまだ間に合うかもしれないが、身体強化も使えないし、幾ら子供でも貴族の前を走るなんてしたら不敬だ。


 終わった。俺の平穏な生活は……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る