第205話 交渉の内容
爺ちゃんに、個人情報保護法について、今後考える事が必要だという認識を持たされる話を聞かされた後、父ちゃん達が騎士ロベルトに会ってからの事を聞いた。
父ちゃん達が到着したのが早朝だったから、本来なら帰宅の時間に捕まえる予定だったロベルトを出勤前に捕まえる事が出来、そのまま強引に今回の訪問の理由を説明したそうだ。
「良くそれでそのロベルトさんは話を聞いてくれたね」
「そこは、干しキノコから始めたからな」
いやいや、それはあくまで口実、架空の設定の為の物でしょ。そんな事で出勤前に話を聞いてくれる訳ないじゃん。相手は一応貴族の従士だよ。と、幾ら俺が思っても聞いてくれたことは事実だからそれ以上突っ込めなかった。
「それでその後は?」
「そこからは、簡単だ。エンターの付与武器を見せて領主様個人と話したいと交渉したのさ」
「まさか、その場で例のデモンストレーションをしてないよね?」
「やったに決まってるだろう! 盛大にロベルトの剣をぶった切ってやったわ!」
アホなのか! この人達は? 父ちゃんだけならそんな事をしても驚かないけど、爺ちゃんと婆ちゃんもいるのにそんな無謀な事を良くやらせたな? 従士の剣というのは普通多くが主人から下賜される物だぞ。それを……、あり得ない。その場で切り捨てられなかったのが不思議で堪らん。
「良く、切られなかったね?」
「そこはわしも不思議じゃったのだが、ロベルト殿に聞いた話で納得したよ」
爺ちゃんがロベルトに聞いた話は、偶々その日持っていた剣が、鍛冶屋からの貸し出し品だったからという事だ。領主様から下賜された剣は鍛冶師に調整と砥に出していたので、逆に父ちゃんとの鍛冶師勝負が面白いと乗って来たそうだ。
勿論、刃毀れ程度で剣がぶった切られるなんて思っても居なかったでしょうが……
「それで、その後はどうなったの?」
「当然、わしらの要求をのんで、領主様にコンタクト取ってくれたよ」
「本当にそれだけ? そこでも賄賂を使っていない?」
俺が思うに、剣をぶった切っただけでは、領主様にコンタクトをとるなんてまだしないと思うんだよね。機嫌は悪くならなくても、借りてる剣を壊されたんだから、気分の良い物じゃない。それなのにコンタクトを取ってくれたという事は、機嫌を良くしてる筈なんだよ。そうなれば普通に考えられるのはその付与した剣をロベルトにあげている筈。
そして、そんな剣を自分だけが貰ってしまうと、逆に領主様に申し訳ないという気持ちになるから、ロベルトは他にもあるのかと聞いて来て、存在を確認した上で、領主様に会わせる筈。自分の手柄にもなるからね。
「マークの言う通りだ。そのつもりで持って行っている剣だからな。商売人ならそうするのが常識だ」
やっぱりこの世界はそうだよな。献上=賄賂のような世界だもんな……。
「そこまでは分かったけど、領主様は直ぐに会ってくれたの?」
「あぁ会ってくれたぞ。普通なら翌日でも早いぐらいなのに、その日のうちに会ってくれた」
「物凄く速いじゃん! 普通あり得ないよね?」
「それがわしも知らなかったのだが、あのロベルトは領主様の騎士の中でも最上位の騎士で、領主様の右腕的存在だったんだよ」
成程、それなら納得だ。従士の最上位なんだから、騎士団で言えば騎士団長のような立場の人なんだから、そんな人が強力な武器に付いて進言してくれば、後日なんてあり得ないよな。まして男爵程度ではそんなに毎日忙しい訳がない。
「とー、凄い人と知り合いだったんだね」
「まあな。わしも驚いたがな」
「その後がいよいよ本番だね。そしてその結果がこれなんでしょう?」
「そうじゃ。この後のことでこうなったんじゃ」
この後の交渉で、父ちゃん達の帰りが遅くなり、領主様が一緒に来ることになった理由が分かる訳だ。いったいどんな交渉をしたらこうなる?
「爺ちゃん達が付与武器について話したのはここまでの話で分かるけど、それだけでは領主様は来ないよね。いったいどこまで話したの?」
「話したのは、付与武器と石鹸関係、後はスライムの浄化と水車の事だけだな」
ん? それだけ? ポーションは? 魔石魔道具は?
「爺ちゃん、それだけでここまで来てくれたの?」
「そうだ」
それはおかしいよな。これだけ帰りが遅くなっているんだから、他にも話したんじゃないかと思っていたのに、ベアリングすら話していない。まぁこれはその場で話さなくても、こちらに来る時には知られているだろうから除外して良いが、それなら尚更帰りが遅すぎる。
「どうしてそれだけで帰りがこんなに遅くなったの?」
「それは領主様の奥様が帰してくれなかったからだ。どうせ行く事になるなら、領主様達の準備が出来るまで、滞在して石鹸などについて教えて欲しいという事になったんだ」
「石鹸? 教えると言っても特許案件だから作り方は教えられないでしょ?」
「そこは作り方じゃなく、必要な材料の事だ。奥様は石鹸をこの領の特産品にしたいから、必要な材料で不足する物がないかや、今後その不足する物をどうするかをわしらに相談されたのだ」
そういうことね。確かに既に俺が作ったハト麦化粧水のせいで、爺ちゃんの店のある領ではハト麦の争奪戦が起きているらしいからな。まだハト麦はこれまで見向きもされない物だったから、他の領を探せばまだまだ沢山あるだろうけど、今後はどうなるか分からない。特許を登録したからな……。
「それって、獣脂や大豆の事?」
「勿論それもあるが、生産にはそれなりの設備と人手がいるだろう。それをどうするのか聞いてこられたんだ」
「この領の特産品にするなら生半可な材料と人手では無理だよ。蒸留酒でさえ特産品には出来ていないからね。特許はうちのもんだけど」
「という事は、遅くなった利用は一緒に来る為に滞在していたからという事?」
「大まかにはそういう事だが、根本的には領主様が直ぐここに来ると決めたからだな」
ここに来ることを直ぐに決めた? 決め手は……? 付与魔法? いやそれだけじゃないな。スライムの浄化と水車だ! それにはここに来て村長を交えた話し合いを持たないといけないからな。
勿論、地下の事を知っているという事は付与魔法の詳しい説明は済んでいて、錬成陣の話もさわりぐらいはしてあるという事だ。
元々フットワークの軽い領主だから、見たいというのが今回の訪問の主な目的だな……。
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