第204話 どうしてこうなった?

「かー、父ちゃん達が領主様の所に行ってもう七日だけど、まだなのかな?」


「そうだね……、確かに少し遅いように思うね」


 父ちゃん達が領主様の居るキール村に向かってもう七日。あまりにも帰って来るのが遅いから気になって母ちゃんに聞いてみたが、母ちゃんも俺と同じ考えのようだ。だってキール村まではうちの改良馬車ならどんなに掛かっても一日半もあれば到着する筈なんだよ。何故なら、俺達の村であるザック村はどちらかと言えばザック男爵領の中でも標高が高い位置にあり、キール村まではずっと下り勾配に成っているから、速度が平地よりもっと出るからね。


「やっぱり、おかしいよね。まさか、とーが何かしでかしたのかな?」


「マーク、お前の心配する気持ちは分かるけど、少しはエンターを信じてやりな。あれでもお前の親なんだからやる時はやる人だよ。もし何かやらかしていたとしても、それを挽回するぐらいの器量は持っているよ」


 確かに、父ちゃんは鉄鉱石の鉱山の時でも、ちゃんと最後には目標の自由採掘権をもぎ取って来たし、キノコやハーブの交渉も上手くやってのけたからな。それに今回は爺ちゃんと婆ちゃんも一緒にいるんだから、前回よりもっと条件は良い。


「そうだね。今回は爺ちゃん達も付いているから何とかするよね……」


「マーク……、そこはエンターが一人で何とかすると思ってやりなよ!」


「う、うん。そうだね……」


 ********


「ハ、ハクション!」


「どうしたエンター? 風邪でも引いたか?」


「いや、急にくしゃみが出たんだよ。誰かわしの噂話でもしてるのかもな」


「お前の噂話をしてる人がいるなら、それはモリーかマークしかおらんだろうな」


「そうかもな。わしがおらんから寂しがっているんじゃろう」


 ********


 俺と母ちゃんが父ちゃんのやらかしを心配して話をした翌日、父ちゃん達が帰って来た。それも領主様達と一緒に……。


「帰ったぞ! ご領主様もご一緒だから、出て来て挨拶しろ!」


 はぁ~~! 何言ってるんだ父ちゃんは! こんな展開聞いていないぞ! 当初の予定では領主様との交渉後一度帰宅して、領主様の訪問を待つという予定だっただろう。それなのに一緒に帰って来るなんて俺達はどうすれば良いんだよ?


 当初の予定通りなら、父ちゃん達がどういう交渉に成ったかを俺達に報告出来ているから、俺達もそれなりの対応が出来るが、どんな話に成っているのか全く分からない今の現状ではどうして良いのか全く分からない。まぁそれでも対応しなくてはいけないのは変らないから、俺と母ちゃんは直ぐに店の前に出て、領主様に挨拶をした。


 勿論、俺は母ちゃんの横に居るだけだけどね……。


「これはこれはご領主様、ようこそおいで下さいました」


「うむご苦労。此度は世話になるぞ」


 え! 今領主はなんと言った? 世話になる……? うちに領主の世話をするような場所はないぞ? まさかとは思うが、領主を地下のあの場所に泊めるつもりじゃないよな?


「爺ちゃん、領主様が世話になると言ったけど何処で世話をするの? うちにそんな場所はないよ。爺ちゃん達の使っていた部屋を使って貰うの?」


 俺は子供だから、正式に挨拶をする必要もないし、初めのお辞儀だけすれば動く事も容易だから、領主の言葉の意味を確認する為に爺ちゃんの所に駆け寄り、真意を聞きに行った。


「マーク、ただいま」


「あ! うん。爺ちゃんお帰り! そんな事より……」


「そう焦るでない。ちゃんと説明してやるから」


「マークちゃんでもそんなに慌てることがあるんだね」


「婆ちゃんお帰り!」


「はい、ただいま」


「婆ちゃん! そりゃそうだよ! 流石にこの状況で慌てない人は居ないと思うよ!」


 何なんだよ! この二人はやけに落ち着いているな。俺と母ちゃんは何も分かっていないんだから、慌てて当然だろう。それなのに、こんな風に対応されると無性に腹が立って来るぞ。


 まぁでも何時もはこれが逆の立場だったから、俺がその感情を分からなかっただけかも知れないんだよな。これまでは俺が何事も知っている方で、教えられるのが父ちゃん達だったから……。ん? という事は父ちゃん達は何時も俺に腹を立てていたのか? いや、そんな事はないよな……。


「マーク、今回領主様が世話になると言ったのは、あの地下室に世話になると言ったんだ」


「いやいや、流石にそれはおかしいでしょう。領主様だよ! 王都の爺ちゃん達じゃないんだよ」


「マークちゃん、それを言ったら私達の両親ならどうでも良いと言っているようになるよ」


「いやそんなことは決して無いけど、そこは身内で平民の爺ちゃん達と領主様では違うと言いたいだけだよ」


 それにあの時、地下に爺ちゃん達を泊めると決めたのは俺じゃなく父ちゃんだからね。


「マークそこは気にしなくて良いんだ。領主様も了解してるし、逆に頼まれたぐらいだからな」


 頼まれた? いったいどんな話をすればそうなるんだ? 確かに俺も地下室を見せる事になるかも知れないという予想はしてたから、そこまでなら納得出来るけど、まさか宿泊場所に成るというのは考えもしなかった。


「頼まれたって、どうしてそうなったの?」


「それはな……」


 爺ちゃんが俺に話し出した内容は、宿泊場所の事だけではなく、結局今回の交渉の全てだった……。


 父ちゃん達がキール村に到着したのは出発した日の翌日早朝だったそうだ。やっぱり下りだから早かったな。その後、村の門が開くと同時に村に入る為に門番に挨拶をしたんだが、例の騎士にコンタクトを取る必要があるので、その門番に騎士の名前を出して、家を知らないか聞いたそうだ。


 勿論、変に思われないように、その騎士とは知り合いで土産があるんだけど、こちらから会いに来るのが初めてなのでという架空の話をでっち上げてだが。当然こういう世界だから便宜を図って貰う為に、土産に持ってきた干しキノコなどを見せた時に、門番にも賄賂というおすそ分けをしてだ。


 そうなれば、この世界のこの時代に個人情報の保護なんて無いような物だから、干しキノコの効力であっさりとその騎士の家は判明した。


 それを聞いた俺はそんなんで良いの? と思ったが、そこでは突っ込まず、今後の課題として、近いうちに領主様に話をしようと思った。当然俺が話す訳ではないけどね……。




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