第182話 やる事が増えてない?
昼食代わりに食べた、肉串を全て撒き散らかしたにも拘らず、王都の家族を野営地まで身体強化で荷車ごと運び、更に追い打ちを掛けるという暴挙をやってのけた俺だったが、その後の王都の家族の行為には流石に呆れるを通り越して感心した。
「マ、マーク……、さ……」
「うっ……、さ、さ……」
「さ、酒……」
マジか~~~、この状態に成っても酒を欲しがるのか!? やっぱりすげぇ~~な! ドワーフ! 俺にはまだ分からないけど、ドワーフにとって酒は命の水なんだな。しかし、ここで配るとしたら何が良いんだろう? 気付け薬的な物なら度数の高い酒が良いんだろうが、この状態にそれはちょっと拙いような気がする?
そうだ! やはりここは前世の知識を活かして、先ずは脱水症状を何とかする意味で、水の代わりにエールにしておこう! 普通なら糖分と塩分の少し入った水の方が良いんだろうが、ドワーフにそれでは効き目が無いような気がするからエールに塩と蜂蜜を少し入れて、アルコール経口補水液を作って飲ませよう!
「とー! 早く皆にこれを配ってあげて!」
「お、おぉ……」
父ちゃんが俺の作ったアルコール経口補水液を皆に配った瞬間、何の
「旨い! もう一杯!」 と言ってきた。
待て待て、本当にそんな物が旨いのか? まだ「不味い! もう一杯!」なら理解出来るが、自分で作っておきながらこういうのもおかしいが、あれが旨いとは到底思えないんだが……。まぁ試飲をしてない俺が言えることではないんだけどね……。
「本当に旨いの?」
「変わった味だが、不味くはないし、体に染みわたって行く感じがするから旨いと思うぞ」
「そ・う・な・ん・だ……」
正直半信半疑で作った物だから、この反応はこちらの方がびっくりする。確かに古来の酒ミードに塩を合わせてもアクセントにはなりそうだし、塩キャラメルと同じだと思えば有の組み合わせ。でもな~~~? この世界のこの時代のエールはホップこそ使われていないが、ハーブなどは使われているから、初期のエールのような甘みはそこまでないんだよな。――そこに蜂蜜を少し入れた程度で美味しくなるかな……?
あぁそう言えば蜂蜜で思い出したけど、グリスに蜜蝋がいるから、養蜂も考えないといけないな。まして養蜂が出来れば、ミード酒も作れるから酒の種類が増る……?
あれ? これってどこも作っていないのかな? 前世では紀元前一万四千年前から作られていた酒だぞ。この世界に、もしないのなら……、あ! そうだ! この世界の蜂は魔物だから、まだ養蜂がされていないんだ。
「だからか……」
「マーク、何がだからなんだ?」
「蜂蜜と蜜蝋の事を考えていたら、この世界にない酒を思い出したんだよ」
「蜂蜜の酒か!」
「そうだけど、この世界の蜂は魔物だから、良く考えたら蜂蜜も蜜蝋も大量に集めるのは大変だなと思ったの。テイム出来れば良いんだけど……」
「蜂のテイムか? 小さいけど数が多いから出来るかどうかは分からんな?」
いやいや、この世界の蜂は小さくないからね。父ちゃん達はこの世界の蜂しか知らないからあの大きさでも小さいというんだろうけど、俺にとっては充分大きいからね。だって、働き蜂でも前世のオオスズメバチの五倍はあるし、女王蜂なんて二十倍ではきかないんじゃないかな。俺も一度しか見た事が無いからあまり覚えていないけど……。
あれを見たのって、確か俺が森に入りだした頃だよな。この世界の料理の味付けが塩味ばかりだったので、森で使えそうなハーブやキノコを探してる頃だ。あの時は魔法で全滅させたからあまり気にしていなかったけど、大きかった事だけはよく覚えている。勿論、蜂の巣もね。
ん! この世界の牧場にいる牛や鶏、馬はテイムされているんだよな。そう考えれば蜂も出来ると思うけど、誰もやっていないし、父ちゃんも分からないという。でもそれって、冒険者が採ってくる量で足りてるからやらないだけじゃないかな? もしくは攻撃性の高い魔物はテイムするのに魔力量が多くいるとか、そういう制約があるのかも知れない。
「とー、村に帰ったら今度牧場主の人を紹介してくれる?」
「マーク、お前が考えている事は分かるが、多分無理だと思うぞ」
「とー、何か勘違いしてるようだけど、僕が知りたいのはテイムのスキルがどういう物かだけだよ」
「お前は! テイムも出来るのか!?」
「う~~ん、それは分からないけど、テイムのスキルの事が分かれば、蜂をテイムしてこれから必要な蜜蝋や蜂蜜が幾らでも手に入るでしょ。だからそれが可能か知りたいんだよ」
「分かった。村に帰ったら一度話してみる事にしよう」
ここではここまでしか言わなかったが、本当は牧場主に会えたら、お願いしたい物があるんだよね。そう、以前から考えていた、チーズとバターを作って貰いたいんだ! この事はずっと思っていた事だけど、五歳の俺じゃあ、突然会いに行っても相手にしてくれないだろうし、俺が直接行くと目立つから、勇気が出なかったんだ。
「マークちゃん、さっきから面白そうな話をしてるわね。蜂蜜の酒というのがあるんだね。それはとっても美味しそうなお酒じゃないか。それは是非作らないといけないね……。ねぇそうでしょ、マークちゃん」
こえぇ~~、婆ちゃん、その言い方はマジで怖いよ。最近はなりを潜めていた婆ちゃんが復活してるよ。酒が絡んだ婆ちゃんはやっぱり凄みがあるな。
「分かったから、そういう脅しは止めてくれる。僕だって作りたいのは山々だけど、テイムが出来ない限り大量には作れないんだから」
「それだったら、私がテイムのスキル持ちを連れて来てあげるよ」
「え! 婆ちゃん、それホント! テイムのスキル持ちの知り合いでもいるの?」
「いるよ」
何だか俺に似た返事をした婆ちゃんだが、これは朗報だよ。婆ちゃんの知り合いに居るのならその方が良いもんな。それに婆ちゃんが簡単に連れてくるという事は、その人は今テイムのスキルを使っていないという事だ。まぁ言ってみれば婆ちゃんのように彫金スキルを持っていても爺ちゃんが商人だから使っていないのと同じようなことだ。
「それじゃ、婆ちゃん帰ったらよろしくね。上手く行ったらお酒は必ず作るから」
ダンジョンに行く為にここまで来たんだが、ここまで来る間だけでも色々あり過ぎて、帰ってからが少し不安になる。やる事を減らす為に動いているのに、逆に増えているからね……。
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