第183話 得手不得手、御免!

 アルコール経口補水液のお陰か、王都組の状態も落ち着いたから、今日はここで野営をすることにした。


「それにしても酷い目にあった。あんな身体強化があるなら前もって言って欲しかったぞ」


「ルベリ爺ちゃんは、言ったら嫌がっていたでしょう。それにこれは体験した方が良い事でもあるんだよ。身体強化を調子に乗って使って大怪我した人も居るからね」


「成程、それはエンターだな。だから担ぎ手をモリーが変わったんだな」


「そのお陰でわしは腰が痛いがな……」


 ルイス爺ちゃんごめんよ。こればっかりはしょうがないんだ。身体強化が使えるのが俺と父ちゃんを除けば、母ちゃんと婆ちゃんだけだから、身長差があっても母ちゃんが適任だった。


「ルベリ爺ちゃん、夕飯の支度が出来るまで時間が掛るし、丁度良いから身体強化の事について少し教えるね。先ずは意識して魔力を目に集めて、そして暗い所でも良く見えるというイメージをしてみて」


 ルベル爺ちゃんは俺に言われた通り、自分の魔力を目に集中しようとしているが、中々上手く行かないようだ。まぁこれはしょうがないよね。王都住まいで、生活魔法ですら殆ど使う機会が無い人だろうから、目に魔力をとか言われても一長一短にはいかない。


「おぉ~~、やっと魔力が目に集まりだしたぞ、ここまで行ったらイメージするんだな。暗い所でも良く見えるように……」


「そう、それで魔力にイメージが反応すれば、今は夕方だから昼間のように見えるようになるよ」


 魔力を目に集めることが出来るようになったなら、もう少しで出来るだろうと俺は思っていたが、それからずっとルベル爺ちゃんは、夕食が出来るまでやっていたが成功しなかった。これってやっぱりイメージ力が足りないんだろうな。日頃からイメージを使って属性は同じでも違う魔法を使っていたりすれば、そういう経験値が貯まって行って、反応が早くなるんじゃないかな。


 まぁ根本的に得手不得手があるという事も考えられるけどね……、はい! これが正解でした! 結局、夕食を食べて寝るまでの時間に、他の王都組にも目の身体強化の暗視を教えたんですが、他の人は時間差はあれどルベリ爺ちゃんほど時間は掛からず習得、一番最後がルベリ爺ちゃんでした。


 翌朝、ルベリ爺ちゃんの元気がないのは、みんなでスルーした。こういう時は変に声を掛けない方が良い事もあるからね。


「おはよう! ここからダンジョンまではもう少しなんだけど、今日も荷車に乗って行く?」


「マークよ、今日は速く走るための身体強化を教えてくれんか。流石に昨日みたいにはなりたくないからな」


 やっぱりそう来たか……。でもな~~、ここで走る方の身体強化を教えると、一人だけ厳しい人が出そうなんだよな。ただでさえ、朝から落ち込んでいたのに、今日も出来なかったら、更に酷いことになる。さて、どうしたもんか……? そう思いながら、奥さんであるロジー婆ちゃんの方を見たら大丈夫という感じで頷いて来たので、皆に教えることにした。今日はどうしても早くダンジョンに着きたいという気持ちもあったからね。


 結果、今回も同じくルベリ爺ちゃんは習得できず、時間オーバーになったので、何と息子であるルイス爺ちゃんに抱えられて、移動する事になった。本当は俺と父ちゃんが名乗り出たんだが、流石にそれは嫌だとルベリ爺ちゃんが拒否したので、ルイス爺ちゃんという事になった。


『ごめんよルベリ爺ちゃん! 屈辱だろうけど今回は我慢して。ソラが昨日から早く来いと煩いのよ』


「もう直ぐ開けた場所に出るからスピードを落として、そこにダンジョンの入り口があるから」


 父ちゃんのことがあるから、身体強化のスピードの落とし方は念入りに皆に教えていたから、誰も怪我をする事も無く、ダンジョンの入り口のある場所に着いた。


「ここにダンジョンがあるのか? 何処にもそれらしい物はないが」


「ここにあるけど、今は入り口を隠してるの。今はまだ見つかる訳にはいかないからね」


 真っ先に俺にこう話しかけて来たのはルベリ爺ちゃんだったが、これは恥ずかしさを拂拭する為の言動だと思う。良くあるでしょ、恥ずかしさを誤魔化すのに饒舌になる人、正にあの状態……。


「それじゃ、ダンジョンの入り口を作って貰うから、少し僕から離れれて。僕を目標に入り口が出来るから」


 俺がそう言った瞬間、俺の目の前が急に光だし目を開けていられないような状態に成った。その数秒後、その光が収まった時には目の前にダンジョンに降りる階段が出来上がっていた。今回は門までついて……。


「マーク、今回は門まで付いているな」


「ルイス爺ちゃんと前回入った時は一人が入れるぐらいと言ったからね」


「わしらは前回見ていないから分からんがこれがダンジョンの入り口なんだな」


「とー、これも仮の入り口だよ。ダンジョンを正式にお披露目する時にはもうちょっと違った入り口になると思うよ」


 父ちゃんにはこう言ったが、俺自身迷っているんだよね。ダンジョンの入り口って俺は一か所しか見た事がないから、どんな物が適当なのか分からない。ソラの前のダンジョンは洞窟タイプだったから、ありふれたものだった。だが今回は平原に突然現れる形だから、どういう物にしたら良いのか見当もつかない。まして此処は特級ダンジョンだからね。


 ただ、この場所を以前訪れた人がいればここがどんな場所だったか覚えている可能性もあるから、幾ら突然現れたダンジョンでも極端な入り口は違和感があり過ぎるような気もする。そうなると今ぐらいの入り口でも良い様な気もするが、さて、どうしたものか?


「それじゃあ、パワーレベリングの始まりだよ! みんな準備は良い!」


「マーク、そのパワーレベリングとはなんじゃ?」


「アハハ! ごめん! 言うのを忘れていたよ。パワーレベリングというのは……」


 俺の気持ちの中ではもう決め事のようになっていたので、自然にパワーレベリングと言ってしまったが、今回はそれで行く事にしていた。元々戦闘力の無い人達だからそれしか短期間でレベルを上げることが出来ない。いずれ時間が出来て、本人達が望めばその時には普通のレベル上げに連れ来て上げても良いけど、今回は前世で良くあった経験値を割り振るやり方でレベルを上げて貰う。


 まして、今回のパワーレベリングはソラの協力の元、十階層のボス部屋のボスラッシュで行う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る