第184話 スリングショット
「さぁみんな入るよ!」
俺を先頭に、皆はダンジョンに入って来たが、階段を降り切った所でルイス爺ちゃん以外は皆立ち止まってしまった。まぁこうなる事は想像出来ていたけど、こんな所で時間を掛けている暇はないので、強引に皆を転送魔法陣の上に立たせた。
本来はダンジョンの入り口が出来たら、入り口付近に転送陣を置くつもりだけど、今は入り口を隠しているから、一階層の入り口に設置してある。勿論、今から行く場所も通常とは違う場所に転送陣を設置してあるよ。今回はボスラッシュによるパワーレベリングだからね。
「少し気持ち悪くなるかも知れないけど我慢してね」
初めての転送陣だと気持ち悪くなるかも知れないから、前もって皆に言っておいたのだが、十階層のボス部屋の前に着いた時に気分が悪くなった人は、王都組以外のうちの家族だった。
(父ちゃん) 「うっ、気持ち悪い」
(ルイス爺ちゃん) 「吐きそうじゃ」
(マイカ婆ちゃん) 「出る出る……」
(母ちゃん) 「お酒頂戴!」
これって昨日散々酔うという経験をしたから、王都組は慣れたんだろうか? まさかあの程度で耐性が付くとも思えないけど、この様子を見るとその経験値は入っているような気がするな。慣れ=経験値と考えれば、スキルの習熟度も同じようなもんだからな。
「昨日と全く逆に成ったね」
俺がそう言って、酔っていない王都組の方を見ると、王都組はみんなニヤニヤしていた。そんなに嬉しいのだろうか? 昨日の復讐ではないが、自分達と同じような目にあっている事が嬉しいようだ。だが、今回は転送陣酔いだったから、うちの家族全員吐くまでは行かなかったので、最後には悔しそうな顔をしていた。
「マーク、ここは何処なんじゃ?」
「ここは十階層のボス部屋の前だよ」
「はぁ~~!? お前は正気か?」
「セガール爺ちゃん、それは酷いよ。僕は正気だし真剣だよ。さっき言ったでしょパワーレベリングをすると……」
「…………」
まぁ、セガール爺ちゃんの反応が普通なんだが、敢えて俺はパワーレベリングをすると言ったでしょで通した。ただこれは良い訳なんだけどね。皆にパワーレベリングの話をした時に、俺はパワーレベリングがどういう物かを説明しただけで、今回どこでそれをやるかは言っていない。久しぶりの詐欺師マークである……。
「少し休んだらこのボス部屋でパワーレベリングをするから準備をしてね」
「準備と言われてもわしらは武器も持っていないし、戦えないぞ?」
「それは大丈夫。パワーレベリングなんだから攻撃は遠距離から一度してくれればいいだけだよ。これを使ってね」
俺が皆に見せたものはスリングショット。前世の昔風に言うとパチンコとかゴムパチンコという物だね。この名前の謂れには色々あるんだけど、弾になるものを飛ばす時にパチンという音がするからというのが有力らしいけど、それも確実ではないみたい。異世界物を良く読んでいた俺はこういう事を調べるのが好きだったから良く覚えている。
しかし、何故ここにスリングショットがあるのか? ゴムがあるなら馬車や荷車の車輪にタイヤを付ければ良いと思う筈。だが、そう簡単にはいかないのだ。だってこのスリングショットにはゴムを使っていないからです。確かにゴムに似た性質を持っているんですが、ゴムではないので、前世のゴムと全く同じではない。というより、この世界にしかない万能物質を使っているから、前世の常識が当てはまらない。
温度計の時もそうだったが、物理や化学に沿った結果の時もあればそうでない時もあるように、実際にやって見ないと分からないのが、この世界の万能物質と不完全万能物質。
このゴムに似た物を作りだしたのは偶然で、それも俺達が森の調査に行く寸前の事。だから荷車にタイヤも付けられなかったし、今も付けれていない。何故か? それは森から帰ってからが怒涛の日々だったからです。王都の家族のせいで……。
そんな訳で、まだ研究途中と言った方が良い状態。だけどスリングショットを作る為の代用になる物質は出来ているという事です。偶然ですが……。その偶然というのは、俺が森の調査=ソラとの別れという事を認識していたので、ソラがいる間に出来るだけ多く万能物質を作って貰っておこうと考えた時に起きました。
その偶然の内容は、ソラにダンジョン産のスライムゼリーを沢山作って貰ったんですが、元々が最弱のスライムのドロップ品ですから、できる速さが尋常じゃなく、俺がアイテムボックスにしまう速さが追い付かなくなってしまったのです。そうなると起きるのが事故、偶々ボックスに入れ損ねたスライムゼリーが、獣脂ランプに当り火を消しました。と同時にランプの獣脂がスライムゼリーに掛かってしまったのです。
この後ランプに獣脂を補給、明かりをつけ直し、作業を再開しようとしたんですが、獣脂の掛ったスライムゼリーの状態が変わっている事に気が付いた俺は、それがどんな風に変わったのか知りたくてしょうがなくなり、そのまま実験を開始、ゴムのような物質を作り上げたのです。
これがここにスリングショットがある事の顛末なんですが、実際にスリングショットを作ったのは昨日の夜という物凄く俺らしい行動。元々は投擲で良いと思っていたんですが、昨日の夜ソラと今日の事を話している時に疑似ゴムの事を思い出し、急遽作ったのだ。だって、石を投げるのもそれなりに運動能力がいるし、パワーレベリングでボスラッシュをするには、王都の家族の年齢はちょっと気になるのです。
「マーク、それは何じゃ?」
「これはね、こうやって使うんだよ」
俺は皆の前でスリングショットを使って見せた。それもボールベアリングように鋳造していた弾を使ってね。
「パチン! ドス!」
あれ? こんなに威力があるの? 俺の放った弾はダンジョンの壁に弾かれる事無く突き刺さり、物凄く鈍い音をさせた。これじゃ、当たり所によっては一撃でオークジェネラルを倒しそうなんだけど、パワーレベリングの意味ある?
俺がそう思っていると、後ろから物凄い視線を感じた。そして、
「マーク‼ お前という奴は……」
これは怒られるパターンだろうか? それとも俺にも使わせろの方だろうか? いったいどっち?
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