第186話 スライムと面白い

 今回も遅めの昼食になったが、この時間だけでスライムについてとスライムゼリーについて話さなければいけない。まして、スリングショットについても全く話していないんだよね。


「皆が気になっているこの武器はスリングショットって言うんだけど、もう既に扱い方や効果については分かっていると思うから、名前だけ改めて憶えてね。そして皆が一番気にしてる部分であるこの部分の素材だけど、これはスライムゼリーから出来ています。スライムゼリーは知っているよね?」


「勿論知っているぞ。ダンジョンで捨てられている物だからな」


「セガール爺ちゃん、そうなんだけどね、その捨てられているスライムゼリーは僕の鑑定だと万能物質と出るんだよ」


「「「万能物質!?」」」


「そう、色んな物に使えるという万能物質。その一つが今回のこれね。これはダンジョンから出るスライムゼリーに獣脂を適量合わせたら出来たもので、僕の前世の知識の中にあるゴムに似たもの。こうやって伸ばしたら、縮む性質があるんだ」


「あ! そう言えば、マークのくれたリストに書いてあったな」


「そうそれ! あれに書いていたスライムという部分は排水や汚水の浄化に使うという意味なんだけど、話が大きくなり過ぎるから、領主様に報告しないといけないの」


「まぁマークが関係してる物は殆どが特許か領主や国王に関係するからな……」


 諦めのように、それを言われると反論のしようがないんだけど、俺からしたら何故今までスライムやスライムゼリーに興味を持たなかったのか、その方が不思議なんだけどね。生態すら全く分かっていないんだから……。


「ルベリ爺ちゃん、その通りなんだけど、この他にもこのスライムゼリーには秘密があるの。それがダンジョン産じゃないスライムゼリーが不完全万能物質だという事」


「「「不完全万能物質!?」」」


「これで分かると思うけど、スライムゼリーには完全万能物質と不完全万能物質があって、それぞれで性質が違っていて、作れる物も違ってくるの。そしてまだ研究途中なんだ」


「だから、マークはこれを売れないと思っているんだな」


「セガール爺ちゃん、その通り! 先ずはスライムの活用法を世間に広めるかという問題から関係しているから、今直ぐには無理なんだ」


 ここまでは、意外にすんなり来たけど、これは俺のやらかしがあまりに多いから、みんなが麻痺してるからだろうな。だがここまで話したなら、ついでに温度計と肥料についても話して置きたい。そうじゃないと今度いつ話せるか分からないし、今度領主様の所に行く時にどこまで話すかも決めようがない。


 ましてここまで話せば、リストに書いた事の殆どを話し終えたことになる。ただ、日本酒、芋焼酎、コーンウイスキーを作る事はまだ出来ていないが……。


「ここまでは良いね。それじゃあ最後に、あのリストに出ていた温度計と肥料について話すね……」


 そこから俺はスライムゼリー関連で、温度計と肥料の話をした。当然そうなると食いついて来る人達がいる訳で、質問攻めにはあうし、今回も売ろうという意見まで出たが、話を元に戻してスライムの話が領主に出来てからという事で逃げた。


「それにしても、どうして今まで誰も気にしなかったのか?」


「ルベリ爺ちゃん、それは僕も思ったよ。本当に不思議だよね」


「マークに今回わしが買ってきた魔物図鑑にも、スライムについては数行しか書いていなかったみたいだしな」


「そうなんだよ。それにそれは他の魔物でもそうで、自然の生態を詳しく調べた形跡がないんだよね。ただ偶然見た人の情報ぐらいで、研究しようと調べたものは殆どなかったね。勿論、全く無い訳ではないんだよ。特に素材として使われている物については詳しく書かれている物もあった。ただ、どちらかと言うとそれはダンジョンでドロップした素材からの研究で分かった事が多かったね」


 わざわざドロップするものだから調べたは分かるんだけど、そうなると益々、スライムゼリーの研究をしていないのが理解出来ない……。


 前世のアニメにあった魔法の三大難問みたいな物なのかな? いやいや、流石にそんな大層な物じゃないよな。ただ単に化学反応的な物に対する知識がないから、興味が湧かなかった。ただそれだけじゃないだろうか? でもそうなると錬金術をこの世界の人はどう考えているんだろう? 俺からしたら錬金術でも科学、化学の一部という認識なんだよな。


「改めてわしは思うが、マークからしたらこの世界は不思議でならんのだろうな?」


「ルイス爺ちゃん、それは少し違うかな。不思議というより面白いの方が多い世界だよ」


「面白いか……」


「だって、この世界には魔法があって、魔物もいるんだよ。それに今回のように不思議な生物スライムなんて居るんだから、面白くない訳がないじゃない」


「だったらマークは面白いから、色んな物を作っているのか?」


「とー、それはそうだよ。面白く無い物を、とーも作りたくないでしょ!」


「まぁそうだな……」


 改めてルイス爺ちゃんと父ちゃんに言われた事で、俺の物作りの原動力ってやっぱり面白いからなんだと分かった。勿論、この世界にないから作りたいという物もあるけど、その根底にはこの世界でならどう作るというのがあるように思う。それってその過程を考えるのが面白いからなんだよね。


「そろそろ良いかな? こういう事だからスライムについてはもう少し待ってくれる?」


「それにしてもマークはとんでもない物を発見したね。これはそう簡単に世の中に出せないよ。それに錬金術師の私からしたら、物凄く研究してみたい物質だね」


「ロジー婆ちゃん、そう思うなら好きなだけやってよ。僕はそれだけに掛かりきりに成れないから」


「またこの子はそんなに簡単に言う。物凄い発見なんだよ! そういう物をホイホイ人に任せちゃいけないよ」


 ロジー婆ちゃんはこう言うけど、俺にとっては誰が作っても良いもんなんだよね。勿論、金儲けの為や身の危険の為に秘匿する事は必要だろうけど、誰がという部分に関しては正直誰でも良いんだよ。一番最初の美味しい所を俺が経験出来れば、その後の苦しい事は人任せで何も問題ない。


 俺にとっての物作りの一番は面白いなんだから……。

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