第201話 俺の前世の趣味ってジオラマ作り?

 水車の方の設計図はあれから色々考えて出来たんだけど、問題はやっぱり実際に作ってみてどうなるかだね。元々こういう物はトライアンドエラーが原則。やってみて駄目ならその部分を考えればどうにかなるもの。まして今回はミニチュアを作ってテストが出来るんだから、やり直しは幾らでも出来る。


 という事で、翌日は朝から小さな木材を作ろうと思ったのですが、なんと! 水車の模型を作るのに必要な道具が無いのです。そりゃそうだこの世界に模型などという物がないのだから、そういう物を作る丁度良いサイズや形の道具がないのだ。家や家具などを作る為の道具はあっても、それを五歳の子供が扱えるわけもないしね。


「こうなったら道具から作るしかないな……、丁度良い機会だから、この際日本式の大工道具を作ってみるか」


 俺がこんな風に言うのは何故か? 当然この世界の道具が前世の西洋風の道具だからです。ノコギリは押して切るタイプだし、カンナだってそうだ。これまではそこまで道具を必要としなかったし、どうしてもの時は父ちゃんを騙して部品を作って貰っていたから、必要が無かった。


 だが流石に精巧な模型を自分で作るとなれば、それなりの道具が無いと作れない。部品も滅茶苦茶多いし、今度は歯車も必要だからね。


「道具の刃の部分は錬成鍛冶で作れるから良いとしても、問題は持ち手部分や鉋なら鉋台を作らなければ行けないから、とーに頼むしかないな」


 結局こういう結論に達してしまったので、先ずは刃の部分を錬成鍛冶で作り、それに合ったサイズの持ち手や鉋台をまたまた図面を描いて父ちゃんに作って貰った。


「マーク、この道具は珍しい形をしているな。これも前世の記憶か?」


「そうだよ。これは僕が住んでいた国の道具で物凄く使いやすい物だよ」


「そんなに使いやすいなら、セガール爺さんが喜びそうだな」


「それはどうか分からないけど、使ってみる価値はあると思うよ。ただ大人用の物を作るなら、とーが、鍛冶で作ってやってね。構造はこれで分かったでしょうから作れるでしょ」


 本当は俺が大人用も錬成鍛冶で作っても良いんだけど、この先、本格的にこの道具が普及するようなことになった時に困るから、父ちゃんに作る練習をして貰う。どうせ今は領主様の所に行くまで暇してるからね。


「マークそれは違うぞ。構造だけが分かっても使い方が分からないと、最終的にどうならないといけないのか分からないから、ちゃんとしたものは作れないんだぞ」


 そりゃそうか。使い方の分からない物の微調整なんて出来ないもんな。


「それじゃ、僕が今から模型を作るのを見てたらわかるね」


「そうだな。そうすればその道具がどのように使われて、どういう働きをするのかが分かるな」


 結局、父ちゃんは俺の模型作りを見学するという事になったんだけど、俺が作った模型を見てこう言ってきた。


「マーク、お前それはちょっと小さ過ぎないか?」


「とーもそう思う? 僕もこれは小さ過ぎると思ってたんだ」


 この後、村のジオラマを作るという意識が強過ぎたのか、何故か出来た水車の模型は本当にミニチュアサイズで、構造が分かり難いものに成っている。構造が分かるサイズなら、せめて水車の直系が30cm以上ないと無理だと思うのに、出来た模型は直系が10cmもないのだ……。自分の事ながら何がしたかったんだろうと思ってしまった。


「マーク、お前な……」


「まぁこれはこれで使い道があるから良いの!」


「それならそれで良いけど、お前の職業マイスターも変なところで力を発揮するから困りもんだな」


 父ちゃんに言われて俺も思ったけど、そこは俺も同意するよ。俺のマイスターの職業はどんな物作りにでも力を発揮するから、物凄いミニチュアの物を作っても精巧に作れるから、途中では違和感を感じないんだよね。


「次はちゃんとサイズを決めて作るから、大丈夫!」


「いやいや、マーク、物を作るのにサイズを決めて作らないなんて普通あり得ないぞ」


 父ちゃんに言われなくてもそんな事は分かってるんだけど、本当に今回はどうかしてたみたいなんだよな。俺の前世にはジオラマを作る趣味でもあったのかな? マジでそれに没頭してたみたいで、ミニチュア水車の部品以外にも既に家屋用の部品やジオラマ用の木とかまで作っていたからね。――これは絶対に言えないけど実は串焼き屋台の部品もあったんだよ……。


「まぁこれは村の模型用だと思えば良いから大丈夫」


 結局、本当の事が言えず誤魔化す形になったけど結果オーライという事で、そのまま暫くジオラマ用の部品を作っていた。


「マーク、それは何だ?」


「これ、これは紙やすりというんだよ」


 俺が以前ポンプの模型を作った時に細かい修正をするのに必要だったので、竹や木材の表面を磨くのに以前から紙やすりを作って置いたんだ。そうか、木工作業をしてる所は、殆ど父ちゃんに見せた事が無いから見た事が無かったのか。馬車とかの時は使ってないもんな……。


「それはどうやって作ったんだ?」


「これはね……」


 紙やすりを作るなら本来なら厚手の紙を用意しなくてはいけないんだが、そんな紙はないから、布に紙をにかわで張り付け、厚手の紙の代わりにして使用した。


 必要な材料は

 膠

 厚手の紙

 砂粒(川の砂を細かくすり潰したもの)


 作り方は 膠を水に浸して柔らかくします。通常、膠は1:1の割合で水に浸し、一晩置いておきます。次に 柔らかくなった膠を湯煎でゆっくりと溶かします。沸騰させずに、溶かすのがポイントです。それが出来たら 適切なサイズに厚手の紙代わりに作った物をカットします。その後、溶かした膠を紙の片面に均一に塗ります。膠の量が少なすぎると砂粒がしっかりと付かないので、十分な量を塗るように注意します。そこまで出来たら、膠が乾かないうちに、砂粒を紙の上に均一に撒きます。砂粒がしっかりと膠に付着するように、紙全体にまんべんなく撒くのがコツです。そして最後に 膠が完全に乾くまで紙を放置し、 膠が乾いたら、紙を軽く振って余分な砂粒を落として完成です。


「マークよ、道具もそうだが、それも特許が獲れるぞ。どうする?」


「あぁ……、確かに……」


 これ以上特許はいらないんだよな。あの金額がもっと増えたら、今度こそ婆ちゃんが天に召されるかもしれないからな。


「とー、それはセガール爺ちゃんにあげよう。当分は公表する必要もないからね」

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