第202話 マーク自重を覚えろと言われる

 道具作りから始まった、模型作りは何とか四日で終った。


「マーク、お前これは流石にやり過ぎだろう。作っている最中から思っていたが、これは……」


「とー、何を言ってるのさ、こんなにカッコイイのに! これを領主様に見せたら喜んでくれると思うよ」


「いや~~~、マーク……、これは逆にひかれると思うぞ」


 俺の自信作の村のジオラマは父ちゃんと爺ちゃんから非常に不評だ。勿論、下手で不評という事ではなく、逆に前世でいう何分の一スケールモデルと言える程に、全てが実際の村をそのまま小さくしただけのように出来ているからだ。


「そうかな~~、爺ちゃんもそう思うの?」


「上手く出来ているとは思うんだが、これは上手くというか正確に作り過ぎだからな」


 う~~ん、こういうのって前世の異世界あるあるに良く出て来ていた、軍事的に拙いという事なのかな? でもこの国は戦争もしていないし、前世の中世で良くあった貴族同士の戦争というのも無いから問題ないと思うけどな……。


「今更作り変える時間もないし、まぁひかれても良いから、これを見せて交渉にしてよ」


「そうだな……。ただマーク、これだけは言っておくが、追加注文が来ても知らんからな」


「え! そっちの心配だったの?」


 あぁ~~そういう事か! この世界には模型という物が存在しないから、前世のプラモデルのような感覚で捉えているから、商売になるという事か……? 例えば城の模型とか馬車の模型の部品なんて作ったら、それを趣味で作る人が出るかも知れない。まぁ最悪の場合は、部品を自分で組み立てるんじゃなくて、作った物を売ってくれとなるかも知れないけどね。


 でもこの文化が広まれば、公共事業の前に模型で、完成予想が出来るようになるんじゃないかな?


 ん! これってもしかしたら新しい職業が生まれる? いや流石にそれはないか? この模型は木工の分野だろうからな。ただこれをスライムゼリーで作ったらまた違ってくるかも知れないな……。実際、今回俺が作ったジオラマの方には木や草を表現するのにスライムゼリーに色を付けて使っているから、全く無いとは言い切れない。


 そうだ! この世界に顔料は存在していて、前世でいうテンペラ絵具、水と卵黄や膠を混ぜた絵の具は使われているから、これから植物から油を採るように成れば、亜麻仁油も採れるようになるから、前世と同じ油絵具も作れるな。


「マーク、お前なにニヤニヤしてる? また何か思いついたのか?」


「とー、僕そんな顔してた?」


「あぁ~~物凄くいやらしい顔をしてたな。これでまた金儲けが出来るという感じでな」


「とー、そこは違うよ! 僕が思っていたのは……、そうじゃない」


 言われてみれば結果として父ちゃんの言う通りになるんだよな。だけど俺は純粋に文明が進歩すると思っていただけなんだ。まぁ商売になると一瞬思った事は確かだから、強くは否定出来ないが……。


「それで今度はなんだ?」


「いや、ただ僕は、この模型も商売になるかな? と思ったのと、新しい絵の具が作れるなと思っただけ」


「そらみろ! 商売になると考えているじゃないか! それに新しい絵の具となればそれもまた特許が絡んで来るんだぞ」


「はぁ~~、マークよ、頼むから少し大人しくしていてくれんか? わしらは今度の事でもギリギリなんだぞ」


「爺ちゃんの気持ちも分かるけど、考えるのだけはしょうがないじゃない。こういう物が作れるというのは切っ掛けがあれば出て来るもんなんだから……」


 でも流石にこれ以上今増やすのは得策じゃないよな。この村がもっと発展して、職人や商売人が多く集まった段階ならまだしも……。いやしかし、それでも特許は絡むんだよな……。これから俺は本当にどうしたら良いんだろう? 物作りは止めたくないけど、作った物を世の中に出すのが本当に大変だ……。


「親父、これは領主様だけじゃ無理じゃないか?」


「エンターもそう思うか?」


「とー、その領主様だけじゃ無理ってどういう事?」


「マークそれはな、お前が作る物の範囲が広過ぎるんだよ。多分お前の前世の記憶が一番の原因だけど、それに追い打ちを掛けるマイスターという職業があるから、関係する職業が多くなり過ぎるんだ。結果領主様だけでは対応が厳しくなるんだよ」


「それじゃ、どうするの?」


「領主様に後ろ盾に成って貰うのは変らないが、そこに各ギルドも参加させた方が良いんじゃないかという事だ」


「それって、職人や商人をギルドに任せるという事?」


「そうじゃ、秘密を守るために、知り合いや信用が置けるものに限って、この先を進めるにはわしらの知り合いだけでは限界があるからな」


 う~~ん、父ちゃん達の言ってる事も分かるけど、本当に大丈夫だろうか? 先ずはそのギルドの人間が信用出来るかが分からないんだから、厳しいんじゃないかな? 


 まぁその為の領主様の後ろ盾ではあるんだけどね……。


「爺ちゃん、その考えも分かるけど、先ずは領主様を引き込んでからの方が良いと思うよ。その上で領主様にギルドに声を掛けて貰えば、何かあっても領主様の責任だからね」


「いずれはそうするにしても、マークは今はしない方が良いという考えなんだな」


「そう、人なんて本当に分からないんだから、地盤を固めた後の方が良いと思うよ。領主様や伯爵様を最低でも引き込んだ後の方が確実性は上がるよ」


「だったら、マーク、お前も自重を覚えろ。今のペースでどんどん作られたら、わしらだけでは本当に対処出来んからな」


 結局ここに落ち付くんだな。俺が自粛するしか今は方法がないという事だ……。


『良いじゃないですかマスター、何か作りたくなればダンジョンに来れば良いんですから』


『ソラ、それはそうだけど、それを頻繁にやってたら俺は本格的にダンジョンに引き籠る事になるからね。五歳にして引き籠りおじさんには成りたくないよ』


『失礼な事を言いますが、マスターはある意味もう充分引き籠りですよ。そうでしょう、最近友達と遊んだ記憶がありますか?」


 ん? 遊んだ……? そう言えば洗礼が終わってからずっと幼馴染のミーシャちゃんやロックと遊んだ覚えがない。洗礼当初は少し遊んだが、爺ちゃん達がうちに来てからは一切遊んだ記憶が無いな。


 これは引き籠りというよりボッチという方が合っていると思うが、見方によればこれも引き籠りなのかもな……? 用事がある時以外、外に出ていないもんな……。

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