第200話 変態の記憶

 母ちゃんとの交渉も終わり、ソラとの打ち合わせも終わったので、自分の部屋に戻り、水車の構造を思い出しながら、簡単な設計図を描いてみた。


「問題はこの先だよな。水車の力を如何に動力にするか? 無駄のない歯車の構造を作って効率よく動力を用途別に伝えるか?」


 今回の水車の用途は基本三つ。小麦を挽く、米の籾摺りと精米、鍛冶用の簡易スプリングハンマー。前世のスプリングハンマーのように結構なスピードで動作させなくて良いなら、米用のものと大して構造を変えなくても出来るのだが、やはり鍛冶用は量産を目的にしているので、スピードがある程度欲しい。しかしそうなると構造と水車の水量もそれなりに必要になるから色々と難しいんだよな。


「米用の構造はオルゴールの構造似たあれで良いか! 一番簡単だもんな」


 俺が考えた米用の構造は、水車の回転に直結した回転軸の周りに板の羽を付けて、それが杵の部分に付いた木の羽を持ち上げて、板から羽が外れる事で杵落下して籾摺りと精米をすると言う構造。ただこれだと米が割れてくず米が出来てしまうから、本当は良くないのだが、水車の動力で自動でやるならしょうがない部分ではある。


 まぁ本格的に米の生産がおこなわれて、主食や酒の大量生産が始まるまでは俺が作った手動の物でも事足りるから良いのだが……。


『マスター、魔道具にすれば良いのでは?』


『まだ聞いていたのね?』


『そんなに考え込んでいたら、思考が私の方にも流れ込んで来るから、自然に聞こえるんです』


『それはゴメンね』


『それで魔道具にするというのはどうします?』


『それはまだやらないよ。いきなりそんな事をしたら世の中が大騒ぎになるからね。先ずは順序をおって文明は進めるよ』


『マスターがそう言われるなら良いですが、必要になったら何時でも言ってくださいね』


 ソラのいう事も分かるし有り難いんだけど、いきなり歯車も出来ていないのに、魔道具に歯車が採用されているのはあまりにもおかしいから、先ずは歯車がどういう働きをする物か多くの人が知ってから先に進みたい。


 それに簡単に歯車と言っても形状は様々で、形や大きさの違いで本当に色々な動きが付けられるし、金属で作れるように成れば耐久性が数段良くなる。


 歯車の種類には……、平歯車、内歯車・内歯歯車、はすば歯車、ねじ歯車、やまば歯車、かさ歯車、冠歯車、ウォームギヤ、球状歯車、スプロケットなどがあり、これに歯の形にも種類がある。インボリュート歯形、サイクロイド歯形、トロコイド歯形などだな。これに歯車の歯の数や、噛み合わせる歯車の種類によって、減速や増速、回転軸の向きや回転方向を変えたり、動力の分割なども出来る……。


 いやいや、これって絶対俺の知識じゃないだろう? 前世で俺が幾らそういう事を調べるのが好きな人間だったとしても、これは流石に詳し過ぎるし記憶があり過ぎ。今までも時々思っていたけど、俺の前世の記憶はいじられているんじゃないかと思える時があった。だってあまりにも詳し過ぎるんだよ。自慢じゃないけど確かに俺の前世で調べた記憶のある物も多いのだが、今回の歯車なんて歯形まで知ってるのはあまりにも異常。もしこれが本当に俺の記憶なら、変態と言われてもおかしくない。


 糠化粧品の件でもそうだ。母ちゃんには偉そうに言ったが、あれに使う防腐剤代わりのティートゥリーとサイプレスという植物のティートゥリーなんて、前世ではオーストラリアにしか分布しなかった物だから、俺が知っているのがおかしいのだ。まぁサイプレスは日本名イトスギだから知っていてもおかしくはないが……、って、こんな風に考えてる時点で記憶がおかしいだろう。知らない筈のティートゥリーの分布の知識があるなんて……。


『マスターって変態なんですか?』


『良いかいソラ君、俺が変態なんではなく、俺にこんな知識を与えてる神が変態なんだよ。俺のステータスからしても時々おかしなことをする神だからね。etcとかetcとか……。まぁその最たるものが俺の職業マイスターなんだけどね』


『そうなんですね。勉強になります』


『いや、そんな事は別に覚えなくて良いけど、俺が変態じゃないという事だけは覚えておいて』


『了解しました。ではまた思考を再開してください』


 う~~ん、こうも思考をソラに読まれるのは気持ち悪いな。今も聞いているだろうけど、これは何とかしないとおちおち何も考えられない。


『毎度悪いけど、ソラさんや俺の方から思考が行かないように出来ないのかい?』


『さぁどうでしょう? それはマスター次第じゃないですか?』


 そりゃそうだよな。俺が思考が行かないように意識して止めない限り、ソラに思考が共有されるのは止めようがないんだからな。――ん! 俺はソラのマスターなんだから俺がソラに命令したことは忠実に守る筈だよね。それならソラに聞くなと命令すれば良いんじゃない。ただソラとの通信が完全に切れるのは不便だから、聞いて欲しくない時だけ時間限定で聞くなと命令すれば良いんじゃないだろうか?


『ソラ、聞いてたね。それなら出来そう?』


『出来るかどうかは分かりませんから、試しにやってみて下さい』


『そうだね。それじゃあ、今から明日の朝まで思考を聞くな!』


『了解しました』


 これで安心して自由に思考出来るな。いや、これ本当にソラに聞こえていないのか? それはソラが話に入って来なければ、本当に聞いているのかそうでないのかなんて分からないじゃんね。ソラが盗み聞きをしてたら分かりっこない。これまでも俺の思考だけ読んで、何も言わなかった時があったんだから。


 なんてアホな事を俺はやっているんだろう……。


 まぁ良いやこれ以上考えても本当に時間の無駄だから、今はそんな事考えないで兎に角、設計図に集中しよう。


 米用と鍛冶用は設置場所が違うから、基本構造は同じでもスピードが変えられるように作れば良いが、小麦用は臼になるから回転方向の変更と出来たら減速出来るようにした方が良いな。小麦を挽くのに速くしたら熱で小麦が駄目になるからな。


 そうだ、小麦と言えば最後にふるいに掛けないといけないから、水車よりこれが一番の問題なんだよ。前世のこれまた異常な記憶の中に中世では竹や木製のざるでふるいに掛けていたという知識があるけど、この世界でも多分そうだよな。この世界のパンは完全に白い小麦で出来ていないからな。


 100~120のメッシュなんてどうやって作る?



 *******************************


 100のメッシュというのは1インチの中に100の隙間があるという事です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る