第199話 墓穴とソラ

「それじゃ、明日から模型を作るから、完成まで領主様の所に行くのは待ってくれる。出来るだけ急いで作るから」


「親父、そういう事なら少し出発を遅らせるか? ただそうなると面会の日時も遅れるな」


「そうだなエンター。面会の前にもうひと段階やらないといけなくなったからな」


「僕が言うのもなんだけど、今度の事だけど村長には話しておかなくて良いの?」


 本当に今更なんだけど、村の大掛かりな工事の話を村長抜きでやって良いのかという事に俺は今頃気づいてしまいました……。


「それは問題ないと思うぞ。領主様が承諾している事に村長が何を言える」


「まぁそうだけど、こういうのは一応礼儀として必要じゃないの? 鉱山の時は話に行ったでしょ」


「それはそうだが、あの時はわしが領主様と面識が全く無かったからな。だが今は違うし、話しに行く内容が当分はおおやけに出来ないような話だから、領主様に直接話を持って行かないと、逆に問題になる可能性が高い」


 そう言われればそうだな。出来るなら秘匿しておいて欲しいと領主様が思うようなことを、こちらが先に公にしたら拙いよな。情報は与えるけどその情報をどう使うかを領主に丸投げすれば、責任は領主が獲る事になるから、こちらはその辺を気にしなくて良いという事だ。


「そういう事なら後は任せるね。それじゃ僕は模型を作る準備をしてくる」


「マーク、ちょっと待ちなさい。あんたは明日からその模型だけを作るのかい?」


「それはそうだよ。急いで準備しなくちゃいけないんだから」


 今回作る模型はかなり精巧に作ってミニチュアで動作まで出来るように作らないといけないし、村の模型なんてジオラマのように作るんだから凄く大変だ。だから準備は早ければ早い方が良い。


「それは困るね。まだ樽作りも終わっていないし、獣脂石鹸に匂いも付けていないよ」


「かー、そこは少しだけ待ってよ。作らないとは言っていないでしょ」


「だけどね……、お義母さんが領主様の奥様に石鹸とシャンプーやらを持って行きたいと言っているよ」


「それなら、僕が模型を作ってる横でかーが作ったら良いよ。作り方は教えるからさ。それに何なら糠の化粧品も教えようか?」


「それは本当かい! 糠の化粧品なんてあるのかい?」


 し、しまった~~~! これは当分内緒にするつもりだった事じゃないか~~~。何と俺の口の軽い事! 余計な仕事をしたくないばかりに、ご機嫌を取ろうとしてつい口が滑ってしまった。


「糠で化粧品は作れるけど、まだ研究は必要だよ。僕が考えている植物があるか分からないからね」


「それはなんという植物だい?」


「その名前が分からないから植物図鑑で探さないといけないの」


「だったら探せば良いじゃないか」


「いや、だからその時間が今はないでしょ」


 俺が探しているのは、前世ではティートゥリーとサイプレスという植物。この植物から取れるオイルが抗菌剤に成るので、防腐剤として使えるのです。だから糠化粧品を作る上で絶対に必要なのだ。まぁ一週間とかで使い切るなら問題ないのだが、それだと個人で作って使う感じになるから、商売には向かない。


「マーク、時間は作るもんだよ」


 そんな事は分かっているけど、かーの言う通りに働いていたら絶対に体を壊すから、断固拒否だ。かーが相手だから言い方は変えるけどね……。


「かー、化粧品というのは肌に使う物だから、そう簡単には出来ないの。もし使った人に何かあったらどうするのさ?」


「そう言われると何も言えないね。確かに女性の肌に何かあったら大変だからね」


「そうでしょう。だから今は僕に時間を頂戴。模型を作り終えるまでで良いから」


 まぁこれまで色々やらかして来ているし、俺に前世の記憶がある事を知っているから、両親が俺の事を五歳児だと見れないのもしょうがないけど、最近特に俺への依存が高過ぎる。もう暫くの辛抱だとは思うけど、全く抵抗しないのは違うと思うから、今回はこうやって逃げることにした。


 そうそう五歳児で思い出したけど、俺も後約二か月で六歳だ。この一年の内容が濃すぎたから、自分ではそんなもんと言いたいぐらいだけどね。俺の感覚では二年ぐらい経っているように感じるぐらい内容が濃かった。


「しょうがないね。今回はマークのいう通りにしようかね。だけど模型作りが終わったら、約束したことはキッチリやって貰うよ」


「分かってる。ちゃんと約束は守るよ」


 この約束も王都の家族が戻って来るまでだと思うから、それまでは我慢だ。それさえ乗り切れば、人手も増えるし、王都の家族を使い倒して俺は好きな事をやるつもり。


『そうなれば暫くダンジョンに籠るのも良いな』


『何時でもいらして下さいマスター! お部屋は用意してありますよ』


『聞いてたのソラ?』


『ダンジョンが成長する度に、マスターとの結びつきが強固に成っているのか、マスターと意識を共有してるようになっていますね』


『そうなんだ……。俺の方は違うみたいだけど。それは良いとして、さっき凄い事を聞いたような気がするけど俺の聞き間違い?』


『マスターの部屋の事ですか? それなら本当の事ですよ。最近のマスターの思考が自分の自由な時間が欲しい、色々研究したいという感じでしたので、ダンジョンにマスターの家の部屋と地下室と同じ物をご用意しました』


『そ、そうなんだ。それは嬉しいね。それでそれは何処に作ったの?』


『何処と言われると困ります。ダンジョン自体が異空間のような物なので、ダンジョンの何処かとしか答えられません』


『それじゃ、どうやって行くのさ?』


『ダンジョンの入り口の転移陣に乗って頂いて、部屋をイメージいて頂ければそこに行きます。勿論、マスターだけの特権ですよ』


『それは嬉しいけど、それでは当分いけないよ。だって俺はまだ五歳だよ。みんなが見てる前でダンジョンに一人では入れないよ』


『成程、それは失念していました。マスターは一応まだ子供でしたね』


『失礼だよソラ! 一応ではなく現役ピチピチの五歳児だよ。思考はそうではないけど……』


『それでは入り口を変更しましょう。そうですね後二か月ほどお待ち下されば、入り口をマスターの家の地下通路に設置出来ます』


『二か月か……、本当はそれより前に欲しいけどそんな無茶も言えないね』


『ダンジョンの成長を遅らせて良いのであれば可能ですよ』


『いやいや、そこまでする必要はないからね。少し俺が我慢すれば良いだけだから』




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る