第197話 緊急事態とこの国の事
何とか飯テロが終わったのは良いが、この後の話がかなり面倒くさそうだ。予定がかなり変わったと言っていたし、米の関係で水車の話までしてしまったからな。
「とー、それでどう変わったの? かーは殆どの話を持って行くと言っていたけど」
「そうだ。小出しにしても結局は目を付けられる事に変わりがないなら、一気に持って行って、後ろ盾になって貰った方が良いだろう。それに上の方の話は上でして貰った方が良いからな」
「マーク、その方が良いと思うぞ。実際、今回商業ギルドで話を聞いて来て確信したからな」
「何を聞いて来たの?」
爺ちゃんが話してくれた内容は、爺ちゃんが父ちゃんの預金額を見て卒倒したのと関係があった。それは特許制度が知らないうちに国際特許の制度に代わっていたからだ。正確にはそこまでキッチリした制度ではないんだが、国家間でも特許は有効だという慣習のような物が出来ていたんです。逆に悪い言い方をすれば、守らないなら今後一切貿易はしないし、こちらも勝手に作ると脅迫したんだそうです。この国が……。
「結構やるね。うちの国王様」
「その結果がこの金額だ……」
「はぁ~~~~~~!!! その数字本当⁉ それは爺ちゃんがひっくり返るわ!」
「どれどれ爺さんが卒倒したという金額を、私にも見せておくれ」
「婆さん、冗談ではなく止めておいた方が良いぞ」
俺が物凄く驚き、爺ちゃんが止めたのにも関わらず、婆ちゃんは何時もの調子でその金額を確認した。
「……………………」
「婆さん! 息をしろ! そのままだと死んでしまうぞ!」
「お義母さん!! しっかりしてください!」
「お袋! まだ死ぬのは早いぞ!」
いやいや、そんな事言ってる場合じゃないでしょう。兎に角今は婆ちゃんに呼吸をさせないと。こういう時にはどうしたら良いんだろう? ドワーフの気付け薬で何とかなるか⁉ 流石に今の状況では無理か! どうする? どうしたら良い?
良し! こうなったら心肺蘇生だ。多分心臓に負担が掛かって、心停止してるんじゃないかな。急激な血圧の変化で心停止が起きる事があると前世の記憶にある。恐怖映画で死亡した例もあるらしいからな。
「爺ちゃん、ちょっとどいて!」
爺ちゃんをどかせて、俺の記憶にある心肺蘇生の方法で、俺は必死に婆ちゃんの胸を押したが、俺の体重ではそこまでの効力がで無いようなので、母ちゃんに代わって貰って同じようにやって貰った。すると、
「ごふ!」
「婆ちゃん! ゆっくり息を吸って!」
「すー、はぁー、すー、はぁー」
「そう、そのまま暫くゆっくり大きな深呼吸を続けて」
「マーク、もう婆さんは大丈夫なんだな?」
「爺ちゃん安心して。婆ちゃんはもう大丈夫だよ」
俺も安心したからか、こんな時だが心の中で、
『日頃心臓に毛が生えているんじゃないかと思える婆ちゃんがな~~』
と思っていた。物凄く不謹慎だが……。
婆ちゃんはそれから暫くして落ち着いたが、それから先は一切喋らず、俺達の会話に一切参加して来なかった。まぁ婆ちゃんがこうなっても無理のない額だったからね。後から俺も知った事だが、あの額は小さな国の国家予算並みだったらしい。この国だと伯爵三人から四人分の税収だそうだ。
「マーク、わしがもっと増えるのかと言った意味が分かっただろう?」
「そうだね。でもそれはしょうがないと思うよ。それにそうならないように他の人に色々振ってるんだから」
「マーク、その時はこの金の事は知らなかっただろう。後からこじつけるな!」
確かにその通りだ。俺は特許料の事で特許を振っていたんではなく、ただ仕事がこれ以上増えるのが嫌なのと、最終的に全て丸投げしたいからそうしただけだからな。
「まあまあ爺ちゃん、これからも色々増えるけど僕はお金にそんなに興味がないから、みんなで分けてくれたら良いよ」
「それなら、領主様や伯爵様に儲けて貰おう。そうすればわしらの後ろ盾に成ってくれるだろうからな」
「爺ちゃん、そこは甘く見ない方が良いと思うな。貴族はそんなに甘くないよ」
「マークそれはお前の前世の感覚だな。この世界の貴族は確かにあくどい者もいるが、そういう奴はそう長生き出来ん」
爺ちゃんが言っている意味が俺には良く分からなかった。あくどい貴族は長生き出来ないというのが……。
「マーク、お前は隣の領の男爵を覚えているか?」
「当然覚えているよ。ソラの件で問題になっていた領主だからね。確か国から調査が入ったんだよねダンジョンの事で」
「そうだ。結局あの男爵は貴族籍の剥奪に成ったぞ。死ぬ事は無かったがな」
「え! そんな事に成ったの!」
確かに、国にというか伯爵に対して報告していなかったし、私腹を肥やしていたからな。でもその程度で貴族じゃなくなるなんて結構厳しいな。せいぜい貯めこんだ分を吐き出させて降格ぐらいだと思うけどそうじゃないんだ。
「この世界というのは言い過ぎたかもしれんが、少なくともこの国はそういう国だ」
「この国は? それってこの国はそういう事に厳しいという事?」
「特許の事でも分かるだろう。この国の上層部は全体的に曲がった事が嫌いだし、貴族も法律は守る者が多い」
爺ちゃんの言い方だと俺の考えとは逆で、貴族より平民の方があくどいと言っているようにも聞こえるな……。そう言えば酒の特許の時も特許を登録する前までは騒がしかったけど、その後は何処の貴族も何も言ってこない。という事は登録されてしまえば貴族でも手出しが出来なくなるのか? ――権力よりも法律という事かな?
逆に平民の方があくどい方法で色々仕掛けて来ることがあるんだな。爺ちゃんの店のように……。
「そこは分かったけど、領主様にはどう話すの? 口で説明して分かる物とそうじゃない物があるよ」
「そこでじゃ、領主様にここに来ていただいてマークが教えるのはどうじゃ?」
「それは無理! そういう事なら僕はダンジョンに住むからね」
「やはりそう来るか。それならそこはわしらが頑張るしかなさそうだな」
俺としてはこの先をどうしようと父ちゃん達に任せるんだけど、それに俺が直接関与するのだけは絶対にしないと決めている。その為に皆に全部教えたし、特許を割り振ったんだからね。
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