第172話 またまたやらかし!

 これまたやばい物を作った気がするな。さっきは大見得を切って高性能の錬成盤を皆配れると言ってしまったが、これは性能が良過ぎて簡単には渡せないかも?


「どうしたマーク? 急に黙り込んで?」


「いや、ちょっと考え事をしてただけ」


「お前がこんな時に考え事をする時は、拙い物を作った時だろう。この錬成盤はどれだけ拙いんだ?」


 どうして父ちゃんはそんな事が分かるんだ? 俺って何時もそうだったけ? しかし、今はそんな事を気にしてる場合ではない。この錬成盤で、もし皆がポーションを作ったら、前回言っていた効果の幅がもっと広がる可能性がある。特にロジー婆ちゃんがこの錬成盤でポーションを作れば、以前俺が使っていた錬成陣で作った物と同等のポーションを作ってしまうかもしれない。


 まして、付与魔法に不向きな商業神の加護を持っている商人の二人が、それなりの性能の付与が付いた武器を作ってしまうかも知れない。勿論、ポーションもね……。


「とー、これはかなり拙い。世界がひっくり返るかも?」


「マークよ、それは何時もの事だろう。今更何を言っている」


「まぁ確かにそうか……」


 俺が今までに作った物や発見したことは殆どが簡単に世間に出せない物だ。それをこれから丸投げする為に皆に教えているんだから、確かに今更だよな。ここで知った事を世間に出すか出さないかを決めるのも大人の役目、俺はただ報告だけすれば良いんだ。


「それで……、早く白状しろマーク!」


「えっとね、この錬成盤の性能は今まで僕が使ってた一番性能が良い錬成陣より、一段上の性能に成っていると思う。だから、これを使うと商人のルベリ爺ちゃんとルイス爺ちゃんでもそれなりの付与武器やポーションが作れてしまうかもしれないの」


「分かった、それは門外不出だな」


「とー、それがそうもいかないかも知れないんだよ。だって、この錬成盤に使っている技術は魔法陣にも使えるから、魔道具を販売しようとすると特許登録しないといけないでしょ。そうなると錬成盤にもその技術を使う人が出て来るかも知れないから、隠し通すのは無理だと思うよ。それにこれには見ていたから分かると思うけど、スライムゼリーを使っているから、公表しない訳に行かないでしょ」


 父ちゃんにはこう言ったけど、本当はもっと拙いんだよ。このスライムゼリーは自然界のスライムから取れる不完全万能物質の方なんだよ。これは多分魔力の関係だと思うんだよね。ダンジョンで獲れるスライムゼリーは魔石と一緒に取れるから、魔力が少ないと思う。その逆で自然界の方は、ゼリーに魔力がかなり残っているんじゃないかな。


 あぁ~~~やっぱりそうだよ。それならダンジョンで獲れるクズ魔石を肥料に使うより、スライムゼリーを使った方が、濃度の薄い肥料が出来る筈。それで効果が薄いようなら、ゼリーの量を増やせば良いだけだ。


「マーク、その話はまた今度にしよう。スライムゼリーの話は問題が大き過ぎる。これこそ、領主様に話さないといけない事だからな」


「そうだね」


「エンター、今の話は本当の事なんだな?」


「爺さん、聞いていたから大体分かるだろう。スライムは物凄く利用価値のある物なんだ。今までは見向きもされなかったがな」


「……」


「なにぼ~~としてるのさ! 蒸留酒が出来たよ!」


 これはジャストタイミングだったな。流石に錬成盤の話やスライムゼリーの話で、蒸留に関わっていなかった人達の気力がなくなる程に成っていたから、この完成報告は気付け薬になって丁度良い。


「丁度、気付け薬が欲しかったところだから、良かったよ!」


 良し! ここまで暴露したんだし、これからの事を考えるなら、この錬成盤の良さを皆に分からせよう。そうすれば俺の仕事が減らせる筈だからね。墓穴を一時的には掘るかも知れないけど、これは先行投資だ!


「かー、マイカ婆ちゃん、この錬成盤で今出来た酒を熟成させてみて」


「マーク、何を言ってるんだい? 酒を熟成させるのに錬成陣は必要ないよ」


「かー、錬成陣の説明をした時に僕は何て言った? 錬成陣は魔力と魔法のブーストをすると言ったよね。だったら、熟成魔法もブーストが掛かるんだよ」


「マークちゃん! それは本当かい? それがもし本当なら私らでも熟成を早められるという事だよ!」


「マイカ婆ちゃん、その通りだよ。だから一度試してみてよ。そうだねこの小樽に今出来た蒸留酒を入れて、熟成魔法をこの錬成盤の上で掛けてみて」



 俺からこんな話を聞けば、かーとマイカ婆ちゃんだけじゃなく、周りで聞いていた、熟成酒に関心が強いマリアベル婆ちゃんなんかも積極的に動き、樽詰めから錬成盤の設置までテキパキと手伝っていた。


「それじゃ、やるよ!」


「モリー、張り切るのは良いが、魔力を使い切る程はやるなよ! 気分が悪くなって飲めなくなるぞ!」


「モリー、次に私もやるから、全力は出さなくていいよ!」


 そうやって、現状熟成魔法が使える二人が、魔力枯渇に気を付けながら、熟成魔法を高性能の錬成盤を使って掛けた。


「お義母さん! 良い匂いがしてきましたよ!」 


「本当だねモリー、私達が一日で熟成させる事が出来るレベルの匂いじゃないよ」


 やはりこの二人の嗅覚は異常だ。俺には全く違いなんて分からないような匂いなのに、この二人にはそれが分かっている。まぁそうなれば俺も気になるじゃない。二人の熟成魔法でどのくらい熟成が出来たのか? という事で「鑑定」


 これはやばいな……、幾ら小樽だからと言っても二人で一か月の熟成が出来てるよ。そうなると小樽なら俺と同じペースで熟成出来るという事だから、四か月で十年物が出来てしまうという事だ。


「モリー、早く飲ませておくれ!」


「そうだそうだ!」


「ちょっと待ってください。この量ですから一人ジョッキ一杯なんて無理ですからね」


 母ちゃんは皆からせかされながら、コップに一杯ずつウイスキーを注いで配った。そしてそれを貰った皆は日頃なら一気飲みのようにして飲むのに、今回はチビチビと味わって飲んでいた。まぁ水で割っていないのもあるけどね。


「くぅ~~~、利くね~~~」


「これが元の蒸留酒かい」


「流石にこれをジョッキで一気には無理だね」


 皆がそれぞれの感想をもらしながら、その酒を楽しんでいる時、母ちゃん達の成果に刺激され、俺はやはり好奇心を抑えることが出来なくなり、出来立ての蒸留酒を俺も小樽に詰めて、錬成盤の上で熟成魔法を掛けてしまった。


 結果、今までが大樽で一か月だった熟成が今回は六か月という馬鹿げた熟成に成っていた。まぁ俺も小樽だからというのもあると思うけどね……。


「ピク、ピク」


「スンスン」


 

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