第173話 丸投げに向けて

「マーク‼ この匂いはなんだい!」


「マークちゃん、これはどういう事かな?」


 案の定俺の思惑通り、母ちゃんと婆ちゃんが一番に反応した。しかし、この二人の嗅覚は本当にどうなっているんだろうね。と思っていたら、少し遅れてだけどもう一人反応した人が居た。 


「マーク、この熟成酒はあんたが作ったのかい?」


「まあまあ三人共落ち着いて、この熟成酒は僕が作ったんだけど、この錬成盤の効果のせいだよ。勿論、僕の魔力量やマイスターの効果も関係してるけどね」


「それで、マークこの熟成はどのくらいの物なんだい?」


「この樽という事もあると思うけど六か月だね。かー」


「「「……」」」


 そりゃそう成るよね。このペースで熟成すれば二日で一年、二十日で十年物が出来るという事だからね。それに通常出荷ベースの三年なら、六日で出来てしまう。まぁ現状は三年も必要なく出荷されているから、意味はないんだけどね……。


「とー、婆ちゃん達がこんなだから、取り敢えず、これも皆に配ってくれる」


 俺が父ちゃんにそう言った瞬間!


「何を言ってるのかな? マークちゃん。先ずは私らに飲ませるのが筋でしょ」


「はいはい、何が筋なのかは分からないけど、熟成魔法使いの人には先に飲んでもらいましょうかね。でも飲むならちゃんとしたものにしようね」


「ちゃんとした物?」


「そうだよ、水を足してアルコール度数を調整した物だよ」


 俺はそう言って、六か月熟成させたウイスキーに皆には内緒だけど、湖から流れている川の水を混ぜて度数を45度近辺に調整した。勿論、川の水は沸騰させて殺菌はしてあるよ。普通ならこれで止めるんだけど、今回はそれにもう一工夫してみるつもりだ。それはまだ何とか残っていた、三年物のウイスキーとのブレンドを試すつもり。


 まぁ本来ならシングルモルトの方が良いのは確かなんですが、現状熟成酒が少ない以上、熟成酒の風味を味あう意味でも、このブレンドは現状効果があると思います。


「マーク、それは何をしてるんだい?」


「これはウイスキーのブレンドという作業だよ。本来はこれも多くは三年以上の熟成酒同士でやるもんなんだけど、今回は六か月と三年でやって見るつもり。色々配合を変えてね」


「それなら、皆で飲み比べをした方が良いね」


「出来ればそうしてくれる。人によって好みが違うから、自分の好きな配合を見つけるのも楽しいよ」


 これから俺がやろうとしてるのは、分かり易く言うと日本酒やワインなんかの唎酒ききさけみたいな事。本来のウイスキーのブレンドはブレンダーという人が、結構細かく配合を変えてやるものなんですが、今回は種類もないし、割と大雑把にやっている。


「これは! 今まで飲んだウイスキーと違うぞ!」


「そうね、確かに違うわ。この違いは何なのかしら?」


「蒸留したばかりの物も、わしらには問題ないが、美味いさで比べるならこのウイスキーだ。マークこのウイスキーは何が違うんだ?」


「このウイスキーは少し変わった水で薄めてあるのと、三年物のウイスキーとブレンドしてあるよ。それにコップごとにその配合も変えてある」


 俺がブレンドの説明をした後からは、皆、コップごとのウイスキーを少しづつ味わいながら、自分の好みを見つけていた。


「マーク、私は勘違いをしていたみたいだね。ただ熟成すれば酒は美味しくなると思っていたけど、こういう作り方もあるんだね」


「マリアベル婆ちゃん、その考えも間違っていないけど、本来はシングルモルトと言って、ブレンドしないウイスキーの方が良いんだよ。だけど、それなら根本的にそのシングルモルトを変えるという手もあるんだよ」


「マーク、それはどういう意味だい!」


「かー、うちはずっと同じ樽でウイスキーを作ってるよね。当然そうなると同じ木材で出来た樽で寝かせることになるけど、この樽の木材の種類を変えたり、樽の中を焦がしたり色んな違いを作る事で、シングルモルトの味や香りが変わるの。今回調達して来て貰ったコン(トウモロコシ)で作った酒なんか、樽の内部を焦がして熟成させれば、バーボンという酒になるよ」


「蒸留酒は奥が深いんだね……」


 母ちゃんはこう言っているけど、蒸留酒に限った事じゃない。今度作るであろう日本酒だって、水や米で味が変わるし、酵母でも大きく変わる。


「そういう事で、皆さんはどうします?」


「マーク急にどうした? どうするって何をだ?」


「ルベル爺ちゃん、これまで、色んな事を教えて来たけど、全てに共通する事は何だと思います?」


「――それは、魔力か?」


「大正解!」


「それしかないよな。魔力の多いお前の両親と祖父母は色んな事が出来るからな」

 

「だったら、どうするの意味も分からない?」


「マークよ、それはわしらにレベルを上げろと言っているのか?」


「上げろじゃないよ。それをどうするか聞いているの?」


 これまで、王都組の家族に色んな事を教えて来たけど、結局は自分達で作るなら、全てにおいて魔力が足りないんだよ。まぁ何を作るかは個人によって違うと思うし、作らないという選択肢も無い訳ではないから、必ずしもレベル上げや魔力の増量法をやる必要はないけど、俺としては色んな物を丸投げしたいから、魔力量は上げて欲しいというのが本音。勿論、俺達と同じように、危険を回避する意味もある。


「爺さん、これはわしたちがマークから一番に教えられたことだ。これだけの事を知って、関りを持つなら自分の身は自分で守れるように成らないといけないという事だ」


「そうだよ。魔力量を増やすのは確かに物作りに役立つから必要な事だけど、それだけじゃないんだよ。僕が初めてポンプを作った時は偶々運が良くてそういう事が無かったけど、ルイス爺ちゃんが王都に酒を献上した時は伯爵様が護衛を付けたぐらいに危険だったからね。特に特許なんかが絡むものは物凄く危険だよ」


「そうじゃのう……」


「マークの言う通りね。私達は今回蒸留酒を作って貰うだけのつもりだったけど、それだけでは済まなくなっているものね」


「でしょ! マリアベル婆ちゃん! それに石鹸も作りたいでしょ?」


「そう言えばマーク、あんたまだシャンプーとリンスの作り方を教えてくれていないわよ」


「かー、それは明日、皆と一緒に作るつもりだよ。それと馬車関係の事もね」


「マークがレベルを上げろというのは、ダンジョンの事もあるんだろう?」


「そう、どうせダンジョンを見に行くのにレベルを上げないなんて勿体無いじゃん」


 丸投げをする為に、色々画策して、レベル上げをさせようと色々話したが、やっぱりこれまでそういう生活から外れていた人達だから、結局この日は結論が出ず、明日までに決めて貰うという事で、今日はこのまま、試飲会を続けてお開きとなった。


 何としても、ダンジョンに連れて行って、レベルを上げさせるぞ。俺の未来の為に……!

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