第92話 また予定が……

 婆ちゃんの同意も出たので、湖に行くついでに森の調査もする事が決まった。


「そうするか。どちらにしてもダンジョンが出来ればこの村も変わるだろうから、調査して置いて損は無いだろう」


「そうしましょう。でもその前にエンターはする事があるよ」


「モリー、わしがする事なんてあったか?」


 俺は母ちゃんのその一言で、その言葉の意味が何なのか直ぐに気がついた。当然酒作りである。そりゃそうだよね。酒に関しては鬼の母ちゃんが在庫の減った酒を見過ごすわけがない。このまま泣き崩しになんてさせる訳がない。キッチリ減った分は父ちゃんに補充させるよね。


「そんなの決まってるだろう。減った分の酒の補充だよ」


「それは、もう許してくれたんじゃないのか?」


「何言ってるんだい! 説教を止めただけで許して貰えたなんて考えが甘いよ。許して欲しけりゃ、最低限在庫を元に戻してからにしな」


 わぁ~~もろ酒の在庫は自分の物と言っているように聞こえるよ。まぁ確かに爺ちゃんの店の地下の在庫は婆ちゃんの物と言う感じだったから、うちの地下の在庫は母ちゃんの物なのかも? 最初に作ったのは俺なんだけどな~~~、地下室も全て……。


 というわけで、翌日から父ちゃんの酒造りが始まったのだが、当然のように材料になるエールとワインがないので、その買い出しから始めなくてはいけない。そしてこれまた当然のように、この領には在庫があまりないという事で売って貰えず、パーシブ商会のある隣のグーテン子爵領まで買い出しに行かなくてはいけなくなった。


「とー、グーテン子爵領にうちの馬車で行くなら、ちょっと改良したいんだけど、少し時間良いかな?」


「何をするつもりじゃマーク。また何かとんでもない改良じゃないだろうな?」


 鋭いね父ちゃん! 今度の改良は出来たらとんでも改良になるから、前もって言っているんだよ。それはソラがいるから出来るかもという改良なんだけど、もし出来たら絶対に世間には出せない物になる。


「まだ分からないけど、出来たら凄い事だから前もって言っておこうかと……」


「いったい何をするつもりだ! わしは今の段階でもう逃げたいんだが」


 俺はそれ以上父ちゃんに返事を返さず、取り敢えず出来るかどうかの確認に入った。


『ソラ、聞こえる?』


『はい、マスター。何の御用で?』


『聞いていただろうから、今の現状は理解出来ていると思うけど、まだダンジョンを作る所が決定していなんだ。だけどその前にやらないといけない事が出来たから、ソラに少し相談がある』


『話の内容は理解していますが、それとマスターが私に尋ねたい事がある事との関連性が分かりませ~~ん』


『まぁそこは気にしないで、俺の質問に答えてくれたら良いよ。出来ないとは言わないよね、ソラ……』


 俺がこう言うとソラから恐怖を感じている感情のような物が伝わって来た。


『わ、分かりました。何でもお聞きください』


『それじゃあ、遠慮なく……』


 俺がソラに今回聞きたい事は、ソラが上級後半のレベルに到達しているから、出来るんじゃないかと思うからです。それは俗に言うマジックバッグとかアイテムバッグと言われる物が作れるかという事。でも俺の最終目標はそれを自分で作るという事で、ソラに作って貰うという意味ではない。


 だから、俺が本当にソラに聞きたい部分は、アイテムバッグの魔法陣を俺に教えられるかという事なんだよ。だけどダンジョンの仕組み上、指示はソラが出しているけど作っているのはダンジョンだから、ソラが魔法陣を知っているかが分からないから、そこが聞きたい。こんな内容をソラに聞いたら、


『出来ますよ~~。実際作るのはダンジョンですが、その構造などは私が指示していますから』


『それは助かる、ではどうやって教えてくれる』


『マスター、何か勘違いしているようですが、マスターはコアである私のマスターですから、言い換えればダンジョンのマスターでもあるんです。ですからマスターが私に触れながらアイテムバックを想像して頂ければ、アイテムバックは作れます。但し、ダンジョンがないので、既存のバッグを改良するという形になりますが』


 おぉ~~~それは凄い事を聞けたぞ。簡単に言えばソラの手助けで、アイテムバッグの付与が出来るという事だ。ただこれが毎回やらないといけない事か、一度やれば次からは自分だけで出来るのか確認しないといけないな。


『それなら、ここに……、拙い! 今それをやると父ちゃんに見られてしまう。出来たら父ちゃんのいない所でこれはやりたいから、ソラ、少し待っていて』


『マスターも色々大変なようですね~~』


 今は念話で話しているから良いけど、ソラが言うようにコアに触れないといけないなら今は出来ない。そういう所はまだ父ちゃん達には見せたくないからね。そんな所を一度でも見せたら、どれだけ利用されるか分かったもんじゃない。下手したら酒もそれで作れとか言いかねないからね。


 ソラとの会話を一時止めて父ちゃんに、


「とー、色々考えたけど時間が掛かりそうだから、先にもう一つの方の改良をするよ」


「えらく長く考え込んでいたようだが、そんなに凄い物なのか? 出来れば程々にして欲しいんだが」


「まぁそれは置いといて、今から馬車にブレーキを付けます」


「ブレーキとはなんだ?」


「えっとね、ブレーキというのは馬車を止める装置の事だね」


 このブレーキの必要性を感じたのは、ソラを回収後、母ちゃん達と帰る時に特に感じた事だ。ダンジョンのあった場所はそれ程高くは無いけど、山の中腹にあったし、その影響でダンジョンに向かう道はなだらかだけど、傾斜がついていたから、帰りには下り勾配に成っていた。そんな道をベアリングなどで改良された軽量の馬車がスピードを出せば、馬車と馬を繋いでいる馬車ハーネス(日本ではくびきという)の部分に負担が掛かるし、馬に急制動でも掛ければ、壊れてしまい、馬に怪我をさせるかも知れない。


 だから、絶対に帰ったら付けようと思っていた……。


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