第91話 調査に行くまで……

 酒の話の決着がつかない状態だけど、このままでは父ちゃんの理解が進まないので、ここで言ったん話を終わらせて、ダンジョンの話をすることにした。


「かー、その話は一旦止めて、ダンジョンの話をした方が、とー、の考え方も変わると思うよ」


「そうだね。これから色々忙しくなるかも知れないのに、この馬鹿亭主は何も考えていないようだからね」


 そこで母ちゃんと婆ちゃんがダンジョンに行ったけど、早く帰って来た経緯やそこで起きたことなどを父ちゃんに話して聞かせた。最後に盗賊の話が出て来た時には父ちゃんも怒っていたけど、それは今どうでも良い事なので、華麗にスルーされて肩透かしを食らっていた。


 どうしてこういう所が父ちゃんは成長しないというか、何時までも直情的なんだろうか? 母ちゃんもそういう所はあるけどまだましだし、祖父母が来てからはそういう所の成長が著しい。拳骨の数はまだそんなに減っていないけど……。


「分かったかい? 馬鹿亭主」


「幾ら何でもその馬鹿亭主と言うのは止めてくれよ。確かにわしがやった事で余計な仕事が増えたことは確かだろうが、わしはそんな事になっているとは思ってもいなかったんだから」


「エンター、あんたはまだ分かっていないようだね。さっきモリーに何て言われた? 酒の評判を広めること自体が駄目だと言われたんだろう。だからダンジョンの事以外で既にあんたは馬鹿亭主なんだよ」


「……」


 流石にここまで言われれば父ちゃんも理解し、観念したのか返事も返せなかった。


「ということで、もし酒の注文が来たら、とーが作るという事で良いよね?」


「マーク、お前まで……」


 食べ物の恨み返し其ノ壱、充分に堪能して下さい。


「それじゃあ、この続きは僕が話すよ。かー達にもまだ説明できていない所もあるから良く聞いてね……」


 俺が話した内容は復習と婆ちゃんの為にダンジョンが生き物であるという所から、ダンジョンとコアの関係性やコアの出来る事を詳しく俺が分かっている範囲で説明した。内容は、


 1 コアの維持にはダンジョンに来る冒険者の魔力が必要。(極僅か)

 2 コアはダンジョンを作る事が出来る。

 3 コアはダンジョンに指示が出せる。

 4 ダンジョンを維持する魔力は外から吸収している。

 5 ダンジョンの魔力吸収力はコアのレベルによって決まる。(無制限ではない)


 この他にもダンジョンで死んだ冒険者がどうなるのかとか、武器防具がどうなるか等を話し、最後に鍛冶や魔道具に欠かせない金属がどうやって作られているのかを説明した。ただ、ソラが俺によって上級ダンジョンのコア、それも特級の一歩手前のコアにまで成長している事は伏せた。


 言ったら怒られるのは確定だからね……。


「これでもまだ分からない事があるから全部じゃないよ。でもダンジョンを移すという事はこういう事だという事は分かるでしょ」


「それで何処に移すつもりなんだ?」


「そこが問題だから、皆で話し合いたかったのに、どこぞの誰かさんが余計な事をしていたお陰で、話が出来なかったんだよ」


「マーク、悪かったから、それを何度も言うな」


 食べ物の恨み、其の壱パート2。まだ其の弐じゃないよ。


「移す場所の第一候補は僕が発見した湖の傍なんだけど、そこにも色々問題があるから皆の意見が聞きたいの」


「その問題とはなんだ?」


「エンター、あんたも少しは考えてから口に出しなよ。マークが湖で見つけたものは何だい?」


「マークが見つけた物……? あ! 銅の鉱脈か!」


「馬鹿亭主、それだけじゃないだろう。酒の材料になる米という物や食べられるかもしれない魚や貝もいると言っていたじゃないか」


「それだけじゃないよ。湖に行くには鉄鉱石の鉱山の傍を通らなくてはいけないから、領主様に迷惑になる可能性もある」


 これが逆だったら何の問題も無かったんだけど、如何せん鉄鉱石の鉱山が先に見つかったし、場所が手前だからどうしようもない。


 ん? 場所が手前ならその傍でも良いんじゃないか? 湖の傍じゃなく鉄鉱石の鉱山の傍という手もある。だけどあの傍は本格的に調べていないもんな。鉱脈があまりにも簡単に見つかったから、あの周辺の調査は殆どしていない。


 ゴブリンの集落があった辺りまでは森に入ったけど、それ以上は入っていないし、調査もしていない。そう言えば冒険者もあれ以上奥には行っていないんじゃないかな?


 元々、あの森はそんなに深いとも思われていないし、出て来る魔物が距離的に遠い割にオーク程度だからおいしくない場所だから冒険者も殆ど行かない。


「婆ちゃん! 婆ちゃんが生きて……、いや、婆ちゃんの知っている限りで、森からのスタンピードがあった事はある?」


、何か言い掛けたようだけど、言い換えたからそこは今回は許すとして、答えてあげるけど、あんたも少し言葉を選んで話すようにしないと口は禍の元になるよ。で、質問の答えだけど森からのスタンピードなんて私は聞いた事も見た事もないね」


 危なかった~~、女性に年齢に関する事を絡めた言葉を使うなんて、俺も本当に修行が足りないな。もしかして俺って前世でもこうだったの? もしそうなら俺はもてないし、女性と付き合った事もないんじゃないだろうか……?


 まぁ転生後ドワーフに成って偶々種族特性的に、口が悪くなったとも思えるから一概には言えないが、これは少し都合よく考え過ぎだろうか? 父ちゃんはそうだが、爺ちゃんは紳士だからな……。これって職業の違い? 職人と商人の……?


 職人系の職業、父ちゃん、母ちゃん、婆ちゃん、俺、口が悪い。当たっているな……。


「それじゃあ、一度皆で森の調査に行かない? 湖には行く予定だったんだから、同じでしょ。それで森に良い所があればそこに移しても良いんじゃない?」


「それが良いね。湖に移すと決める必要もないんだし、それもありだと思うよ。ましてダンジョンで肩透かしを食らったから武器の試験にも丁度良いしね」


 婆ちゃん、それは肩透かしではなく、フラストレーションが溜まっていると言うんだと思うぞ。まして帰る前に盗賊騒ぎもあったから余計にだよね。良く切れる武器の試し切りとレベル上げに行ったのに、何一つそれが出来なかったんだから相当な物だろう。婆ちゃんの性格からしたら特にね……。


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