第219話 似た物親子
「それでは、いよいよスライムの話に入ります。気つけに蒸留酒でも用意しておきましょうか?」
「いや、これからはこの村に一番関係する事だから、酒は控えて置こう」
「本当に大丈夫ですね。世の中がひっくり返りますよ!」
「――そいういう事なら一杯だけ用意しておいて貰おうか。なぁロベルト……」
何故ここで奥方様の名前が出ない。勿論、村長さんの名前もね。正直領主様はうちの父ちゃんタイプだな、ここで奥方様を心配すればもっと待遇が良くなるのに。
「ルイスさん、スライムの話しと言うが、それは浄化の話しですよね。村に排水溝を作って排水を浄化する。もう一つが各家のトイレにスライムを使うという話ですよね」
「村長さん、それはあくまで表面的な事です。本来のスライムの話はそれではありません。それが先ずはこれですね」
爺ちゃんは、スライムゼリーを二種類出した。が、そこで爺ちゃんの痛恨のミス。
「おい! ルイス! 今それをどっから出した?」
「これで、あ! こ、これはですね……」
「それはアイテムバッグだろう。そんな物をどうしてお前が持っている?」
あちゃ~~これはやっちゃたね。普通アイテムバッグなんて王族や上位貴族ぐらいしか持っていない。当然それは滅多にダンジョンからでも手に入らないからだ。それをちょっと王族との関りがある程度の爺ちゃんが持っているのはあり得ない。
スライムゼリーの話で世界をひっくり返そうとするつもりが、その前にアイテムバッグと言う魔道具で世界をひっくり返しそうだ。問題はここからだよ、ここを上手く乗りきればそれ程大きな問題にはならない。
『ソラ、今ちょっと良い?』
『どうしたんです? マスター』
『急で悪いんだけど、もしだけど、性能のかなり落ちるアイテムバックをソラのダンジョンの宝箱に入れるとしたらどの階層ぐらいなら入れられる?』
『どの程度にかに寄りますが、容量馬車一台、時間停止二分の一程度なら十五階層ぐらいになら確実に入れらますね。毎回という訳には行きませんが』
『そう、それなら何とかなりそう。ソラのダンジョンも十五階層まではもう出来てるもんね』
『えぇ、今は二十五階層までの構築に掛かっています。正直ここからはかなりスピードが落ちますよ』
『分かった。ありがとうね。近いうちに行く事になると思うからその時は宜しくね』
『了解しました。マスター』
この領主様の突込みは答えられないよね。だからと言って俺が答える訳にはいかないから、どうにかして今俺がソラと話した内容を爺ちゃんに伝えないといけない。でもどうする? あぁ~~そうだ!
「爺ちゃん、何勝手にとーのアイテムバッグを使ってるの? それはこの間、とーがダンジョンの十五階層で取って来たばかりの物じゃない」
「なに! エンターそれは本当か? もう十五階層まで行ったのか? いやそうじゃないもう十五階層まであるのか?」
父ちゃんは何が何だか分からない状態でオロオロしている。勿論、爺ちゃんもね。俺の機転でアイテムバッグの出所を俺じゃなくソラのダンジョンにしたんだから、二人はどう対処して良いか全く分からないのだ。
「駄目だよ、爺ちゃん。使うなら使うでとーにちゃんと了解を取らないと、まぁ使いたいのは分かるし、ダンジョンで出たのも奇跡のようなもんだもんね。普通なら十五階層ぐらいでは中々でないんでしょ。ダンジョン発見のボーナスだったのかもね?」
「マークの言うボーナスと言うのは分からんが、ダンジョンを発見した人には祝福があるという話は聞いた事があるな」
「そうなんですね。それじゃその祝福はその人の物なんですね」
「あぁそうだ。その祝福を奪ったりしたら天罰があるという噂もあるぐらいだ」
これは良い方向に話が行ったぞ。これならうちのアイテムバッグが買い取られたり、奪われたりする事はないという事だ。う~~ん、こういうところはあのズボラ神も、ちゃんとしてるのかもな……。
「そういう心持の領主様にも良い事があるんじゃないですか? 神は見ていると思いますよ」
「嬉しい事を言ってくれるなマーク。そんな事が起きたら神に感謝しないとな」
あるんだな~~それが。そのダンジョンの神が目の前にいるんだから……。俺がそう思っていると、うちの家族全員が、色んな気持ちで俺を見つめていた。爺ちゃんと父ちゃんは助けてくれてありがとうと言う気持ちと、余計な事を言うなという感じだろうが、婆ちゃんと母ちゃんは、良くもまぁそんな嘘がペラペラと出て来るなという気持ちだろうね。
「まぁ初っ端から色々ありましたが、話を戻しますね。こちらに出しました二つの物質は皆様も一度は見た事がある物ですからお分かりですね」
「勿論だ! それは誰がどう見てもスライムゼリーにしか見えん。子供でも知ってる事だな。そのゼリーをわざわざ見せてどうするのだ?」
さぁ爺ちゃんここからが本当の勝負だよ。出鼻で失敗したんだから、ここからは頑張ってよ。俺がそう思っていたら、いきなり……
「これをご覧ください。今から実演しますから……」
「ビュン!」
「ボス!」
「ルイス! それはなんじゃ! その強力な武器は⁉」
「これはスリングショットと言う武器で、この部分がこのスライムゼリーから出来ています」
OH、NO~~~~! 何をやってるんだよ爺ちゃん! ここで何故それを出す! ここは先ず温度計でしょう。それでも充分インパクトはあるし、石鹸作りにも役に立つ物だから、そっちの方が話を続けやすいでしょうが、それなのに、どうして……?
「スライムゼリーがそんな物に使えるのか?」
「はい、そうです。これも偶然の発見ですが、ダンジョンでスライムを討伐し時にそのまま普通は放置しますよね。私共もそうでしたが、その時にランプに使っていた獣脂がそのゼリーに偶々掛かってしまったんです。それもそれなりの量が、その結果このような収縮する物質に変化したんです。そうなれば、この物質を何かに使えないか研究しますよね。そしてその最終結果がこの武器です」
「その武器、スリングショットと言ったか、かなり強力に見えたが、どの位の威力なんだ?」
「そうですね。使う弾の種類にもよりますが硬いものだとオークの頭でも打ち抜きますね」
「「「……」」」
あぁあ、これどうするのよ? 相手が貴族だから武器に方がインパクトがあるというのは理解出来るけど、この状態は効果があり過ぎだよ。
爺ちゃんと父ちゃんはやっぱり親子だ。俺は誰に似てるのかな……? 似たいと思う人が居ないんだけど……。
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この後の話の中で、ダンジョン踏破を10階層と表現してる所で、意味がおかしくなる所があります。15階層と訂正しましたが漏れがありましたらお知らせください。
意味的に10階層で合っている所もあります。
大変申し訳ありません。
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