第227話 誓約魔法

「それはですね……」


 そう言ったまま、俺は黙ってしまった。


 やっぱり鑑定の事は言えないよな。鑑定のスキル持ちがこの世界にいる事は知ってるけど、物凄く希少な存在だと聞いているから、もし言えば国王から招へいが間違いなく掛かる。まぁ招へいならまだ良いが、召喚だったら最悪だ。一生こき使われる未来しか見えないからね。前世あるあるだけど……。


 そうだ異世界あるある! この世界には契約魔法は存在しないけど、今後の事も考えたら作った方が良いんじゃないか? 隷属魔法に繋がるかも知れないけど、この世界の法則から考えると隷属魔法を作って使うには物凄く多い魔力が必要な筈だ。


 俺からしたら大したことない付与魔法でも、父ちゃんでも魔力不足で苦労するぐらいなんだから、そう簡単に隷属魔法や条件の厳しい魔法は出来ないと思う。あの神の事だからそんな事はさせないようにしてるかも知れないしね。


 という事は、俺が契約魔法を作れればそこまではOKという事だ。


「マーク、何時まで待たせるの? そんなに教えられない事なの?」


「奥方様、ちょっと待っていてください」


 奥方様や母ちゃん達をその場に残して、俺は地下の俺専用作業台の所に戻って行った。当然、そんな奇妙な行動をとれば、父ちゃん達も俺に注目する。だがここで注目されようが俺の秘密を知りたいなら、俺のいう事を聞かなくてはいけなくなるんだからここはお構いなしだ。ましてこの魔法が上手く行けばこれも世界をひっくり返す。


 ここは本当に勝負だ‼ ここを乗り切れば本当の意味での俺の自由がある程度保障される事になる。


 俺は紙ではなく、将来必要になる時が来ると思って前もって作って置いた、羊皮紙を机の引き出しから取り出し、錬成陣を書く時に使うインクで誓約書の文章を罰のイメージをしながら書いて行った。勿論、書く時には魔力も流している。


「ふぅ~~~出来た」


「マーク何が出来たんだ?」


「これ、これは誓約書だよ、とー」


「マーク、何でそんな物が必要なんだ?」


「それは今から僕の秘密を話すから、みんなに誓約して貰う為だよ!」


 俺がこんな風に言ったから、父ちゃんが直ぐに小声で俺にこう聞いて来た。


「なに、マーク一体何を話すつもりだ?」


「鑑定のスキルを話そうと思って」


「お、お前それを言ったら国から呼ばれるぞ」


「だから、この誓約書がいるんだよ」


「それは分かった。それにお前がわざわざ作った誓約書だから普通の物じゃないんだろう。だが相手は領主様だぞ大丈夫なのか?」


「勿論、大丈夫だよ。それにこれが世の中に広まったら凄い事になるよ」


「また……、世の中がひっくり返るのか……」


 父ちゃんと小声で話していたら、好奇心旺盛な領主様の方から近づいて来た。


「マークが初めて何かをやり始めたと思ったら、コソコソと話しおって、一体何を作ったのだ?」


「領主様、作ったのではなくこれを書いたのです」


「何々、フムフム、これは内容的にマークについての事はマークの許可がないと誰にも話さないという誓約書だな。だがこれが必要か? 私達は絶対に話したりせんぞ」


「勿論、領主様方は信じておりますが、先程も色々あったではないですか、国まで話を上げないといけないという内容が。そうなれば国に話をするでしょ」


 幾ら領主様が良い人で口が堅い人でも、国が絡めば、そうもいかないのが貴族だからね。国王に逆らえば自分だけじゃなく多くの領民も巻き込んでしまうんだから、そこは国を優先するのが当たり前。それが悪いと言っている訳ではなく、それを防ぐ意味の為にもこの誓約書は必要なのだ。この誓約書を盾に取れば、責任は全て俺に来るからね。


 それに、もし俺が最悪の事態になっても、俺は家族を連れてダンジョンに逃げれば良い事だから、どうにでもなると思っている。


「確かにそうなるな……。しかし、マークのような子供に信用されないのは辛い物があるな」


 本当にこの領主様は良い人だ。子供に信用されないのが辛いなんて思う貴族はそういないだろう。これも神様のお陰かな? この不思議な場所にある、両親の所に俺を生まれさせ、ダンジョンのソラとも出会わせてくれたのは偶然じゃないよね。だからこそこれも神がOKしたなら問題ないという事だ。


「どうします? この誓約書にサインされます? サインされない方にはこれ以上何もお話し出来ませんけど」


「マーク、私はするわよ! マークの信用を得るにはこのぐらいなんてことないわ」


「マーガレット、お前、そんなに簡単に決めて良いのか?」


「たかが誓約書でしょ。命を取られる訳でもなんだから」


 そう言いながら何の躊躇もなく奥方様は誓約書にサインした。だが奥方様、それは浅はかなんですよ。今回はそんな罰則じゃないから死にはしませんが、そうする事も神が認めれば出来ない事は無いんですよ。しないけど……。


 奥方様がすれば、当然領主様もするから、残る今回の随行者は全員サインした。


「では」


 俺はそう言ってみんなにサインして貰った誓約書に俺の魔力を流した。すると皆がサインした文字が全部一瞬輝き、直ぐに元に戻った。


「な! なんだ今のは? あれは普通の誓約書じゃないのか?」


「誓約書ですよ間違いなく。でも本当に此処に書いてあることが出来なくなる誓約書です」


「本当に? そ、それはどういう意味だ?」


「そうですね。では奥方様、先程言い掛けて言わなかった事がありますね。あれを奥方様だけにお教えしますから他の人には言わないで下さい。ごにょごにょ」


「えぇ~~~~~~~~~~~~~! 本当なのマーク!」


「はい、ですが他の人には言って貰っては困りますよ」


「誓約したんだもの絶対に言わないわ! 主人でもね」


「そうですか、ではそれを試してみましょう」


「マーク、それはどういう意味?」


「…………」


 ここで俺が領主様に話して下さいと言ってしまうと許可した事になるので、ここでは何も言えない。


「マークは主人に試せと言ったのよね。だったらあなたマークは……あれ?……?」


「ま、マーク、本当に言えないわ!」


「マーガレット! それはどういう事だ?」


「私はマークの秘密をあなたに話そうとしたの。マークが試せと言ったからね。でもどうしても声に出せないのよその言葉だけが」


「奥方様、それでは今度は書いてみましょうか」


「も、もしかしてそれも出来ないの?」


「当然ですよ。秘密を人に教えるのに口とは限らないでしょ。この誓約書には秘密を教えないと書いてあるでしょ。これが話さないだったら書けば教える事は出来るという事です」


「「「…………」」」



 ふぅ~~、何とかなったな。でもここからがもっと大変だ……。


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