第221話 俺の出番なし
爺ちゃん、先ずは温度計の説明からだけど、これはどうするんだ? あれ? そこからは婆ちゃんがするの? 温度計の説明も爺ちゃんがするのかと思ったら婆ちゃんに交代した。
「ここからは私が説明します。先ずこの温度計と言うのは温度という物を測るものです。簡単に言えば長さや重さをはかる事と同じです」
「温度を計る? それはどういうことなの?」
「これは口で説明するが難しいので実験を見せますね……」
婆ちゃんが実験して見せたのは、先ずは一番簡単な水を沸騰させる事。その沸騰した状態の温度を温度計で計って見せる。勿論使う水は純粋に一番近い蒸留水。
「皆様方、このガラスの容器に入っている水は、蒸留酒を作る方法と同じ方法で作った水です。この水はポーションの時に説明しましたからお分かりだと思いますが、不純物という物が殆ど入っていない。純粋な水に近いものです。これを今から火で温めますので良くこの温度計を見ていてください」
約五分後、
「なんだ、玉のような物が出て来たぞ」
「領主様、これは気泡と言って、水の中に溶けている空気が気体に成っている物です。今のこの温度計の目盛りを読んでみて下さい」
「八十……五だな」
「はい、今のこの水の温度は八十五度です。温度の単位を度で表します」
「……」
まだこれでは意味が分からんよな……。婆ちゃんはちゃんと説明してるけど……。
更に三分後、
「領主様、このガラス容器の中の水はどうなっていますか?」
「ん? 泡のようで泡ではないようだが、ぐつぐつしているな」
「はい、それではこの状態の温度計の目盛りを読んで下さい」
「これは……ほぼ百か?」
「その通りです。この状態の水を沸騰していると言います。そしてこのガラス容器の上に出ている霧のような物が水蒸気と言います。普通は蒸留水の蒸気は見えないんですが、上空に上がった事で冷えて見えるようになります。ではこれで水が沸騰する温度が百度という事だ分かりました。そしてこの逆に水が氷るのが零度です。これは実験済みですし、今は出来ませんのでご容赦ください」
婆ちゃんが言った最後の部分は嘘だけどね。勿論、俺が魔法でやれば出来るけど、それを見せる訳にはいかないので、実験済みで誤魔化した。
「これは、蒸留水の作り方に似ているが、それで合っているよな?」
「その通りです。ですが領主様はお聞きになった事がありませんか? うちが作った蒸留酒と他で作った物では味が違うと」
「そうなのだ。だからこそエンターの所に頼んで良かったと思っている」
「それは、この温度を計っていないからです。蒸留酒を最適に作るには温める温度が一定でないと美味い酒にならないんです」
「それはどうしてだ?」
「それは今お見せした水の沸騰と関係があります。水は百度で沸騰すると今知りましたね。ではエールは何度で沸騰するか? 正確にはエールは水とアルコール成分で出来ていますから、その中のアルコールが何度で沸騰するかなんですけどね」
「マイカの話し方だと、アルコールの沸騰する温度が違うと言いたいんだな」
「流石は領主様です。アルコールは通常約 八十度より少し低い温度で沸騰します。ですからエールを蒸留する時には八十度を超えてはいけないのです。勿論、これでも完璧には出来ませんので、最低でも二度の蒸留が必要です」
「だから、他で購入したウイスキーは水ぽっかたのか……。温度ね……」
「マイカ! さっきその温度計は石鹸にも使うって言ってたわよね。それは石鹸を作る時にも温度が関係するという事ね」
これで掴みはOKだけど、婆ちゃんここからが正念場だぞ。さてどう説明するのかな?
「温度計についてはお分かりに成りましたか?」
「温度とは凄く大事な物なんだな」
「はい、物凄く大事な物です。ではこの温度計はどうやって出来ているでしょう?」
「おぉ~~、そうであった。この温度計の作り方が全く分かっていないではないか……? ――ん? 待てよ、今ここで話していたのはスライムゼリーについてだったな。そしてその話の流れで、温度計になったんだ。という事は……、まさか! これもスライムゼリーから出来ているというのか⁉」
「ご名答、そのスライムゼリーから作られています。ましてダンジョンのスライムゼリーではなく、自然界のスライムゼリーからです」
ここからが本当のクライマックスだぞ婆ちゃん。ここから肥料の話に持って行けるのか?
「マイカよ、勿論、スライムゼリーだけではないのだろう?」
「当然そうではありません。それが分かっていればもうとっくに温度計が出来ているかも知れません」
「何度も言うが私達はなんという物を捨てていたんだ……」
「マイカ、これの特許はどうなっているの?」
お! 流石は奥方様、鋭い所をついて来たね。当然この後に話す、肥料にも関係してくるから、この事は上手く話さないといけない。さぁ婆ちゃん腕の見せ所だよ。
「スライムゼリー関係の特許はまだ登録していません。当然国にも関係してくることですからね。温度と言う単位が必要になりますから。そしてそれだけではないのです、このスライムゼリーにはもう一つ重要な使い道があるので、特許を簡単には登録できないのです」
「確かにスリングショットも温度計も国が関与しないといけない物だ。だから無理だな……。いや! もう一つあると言ったなマイカは!」
「はい、もう一つは肥料です。現在クズ魔石で作られている肥料がスライムゼリーで作れます」
「「「……」」」
頑張れ領主様! ここを乗り切れば少しは楽になるぞ!
「マイカ、それは大変な事だぞ。今まで捨てて来た物が国民の食糧事情に物凄く関係するんだ。これは一つの国で収まる話じゃない。私はどうすれば良いんだ……」
この後も婆ちゃんはこの際だと畳み掛けるように、万能物質だという事は一切言わないが、自然界とダンジョンのスライムゼリーの違いについて話していき、ついでにこの村で今後始まるスライム浄化の話しについても話してしまった。
「マイカさん、その話からすると私の役目は物凄く大事じゃないですか?」
「その通りですよ、村長さん。これからはスライムの生態がこの世界を左右しますから、安易な気持ちでやられては困りますよ」
「……わし、村長止めたい……」
わぁ~~今回は俺の出番が全く無かったけど、流石は俺の爺ちゃんと婆ちゃんだ。スライムゼリーについて話しておかないといけない事は全て話したから、後は丸投げ状態だな。――領主様はどうするかな?
う~~ん、この状況、もう全て終わったようにみんな思っているけど、そうじゃないんだよな。まだ終わりではない事を伝えないといけないんだけど、どう切りだしたらいいんだろう……?
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