第225話 奥方様
奥方様に脅威の嗅覚がある事に驚きながらも、知られて困る事でもないのでエッセンシャルオイルについて話した。
「マーク、それは獣脂石鹸に必要だから作ったのよね。だけど本当にそれだけ?」
そこはこの人の動物的勘なのか、エッセンシャルオイルが獣脂石鹸だけに使われるものではないと見抜いている。もしかして? この人の先祖に獣人がいるのか? それなら、この動物的嗅覚と勘も頷けるな。そんな事を思った時、この間王都の親戚に教えて貰った、うちの婆ちゃんと母ちゃんのあの酒に対する異常な嗅覚はドワーフの中では偶にある事だと教えて貰った事を思い出していた。
「マーク、聞いてるの?」
「あ! ごめんなさい! えっと、エッセンシャルオイルの別の使い道ですね。それなら確かにありますね。例えば……」
「マーク待ちなさい! そこから先は駄目よ!」
「モリー、どうして止めるの? 他にも使い道があるなら良い事じゃない」
「奥方様、それは駄目です。今研究中の事が成功しましたらお話し出来ますが、今はまだ駄目です。幾ら奥方様でも……」
「一応確認するけど、かーは、ハト麦化粧水の特許見てないの?」
「自分で作る訳じゃないから見てないね。それがどうしたんだい?」
「あれにもそれ使ってるよ」
「え! そうなの……。そしたらお義母さんの店では……」
そういう事だったのか。何であれ程驚いていたのか不思議だったんだけど、化粧水にも無水エタノールを使ってるの知らなかったんだ。
「だから、化粧水は爺ちゃんの店でしかまだ殆ど作られていないのか。おかしいと思ったよ」
「それなら尚更駄目だよ。これ以上増えたら困るからね」
流石に母ちゃんは、無水エタノールの新しい作り方が確立していない状態では、香水の話はして欲しくないようだ。俺は別に香水の話をするつもりはなかったんだけどね。エッセンシャルオイルは精油なんだから、シャンプーやリンス、トリートメントにも使えるし、普通にアロマオイルのようにも使える。勿論、天然成分だからと言って、肌には使って良いけど、飲用や食用に使っては駄目な物もある。
例えば
1 ティーツリー精油: 抗菌作用が強いですが、摂取すると中毒を引き起こす可能性がある。
2 ユーカリ精油: 呼吸器系に良いとされていますが、内服すると毒性が強く、重篤な中毒症状を引き起こすことがある。
3 ウィンターグリーン精油: サリチル酸メチルを含み、少量でも毒性が強いため、内服は避けるべき。
4 ペパーミント精油: 通常は安全ですが、高濃度での内服は胃腸障害を引き起こす可能性がある。
5 オレガノ精油: 抗菌作用が強いですが、摂取すると消化器系に悪影響を与える可能性がある。
ひゃ~~、また出て来たよ。俺の神から授かった無駄とは言わないけど、詳し過ぎる知識……。この間精油の作り方の知識が出て来た時に、香料の知識も出て来て、ちょっと嫌な思いをした。前世で普通に食べてたな~と思い出してね……。香料って基本的に合成物が多いから、成分を知ると怖くなる物もあるんだよね。勿論、安全なんだよ。そうじゃなきゃ食品に添加なんて出来ないんだから……。でもまさかあれがあれの合成物だとは思わなかったな……。
「かー、そんなに心配しなくてもエッセンシャルオイルは、それ以外にも普通にシャンプーやリンスにも使えるよ。あぁそうだお風呂に入れても良いよ」
「そうなのね。そういう物に匂いを付ける為に使える物がエッセンシャルオイルなのね」
母ちゃんは俺が言った内容に安堵したのか、さっきまでと雰囲気が少し変わったが、まだ警戒心が完全に取れてはいなし、化粧水に使われていたことがかなりショックなのか婆ちゃんの方を見ていた。一方、その婆ちゃんは私は知ってたよと言うような顔をしてすましていた。
こういう所では婆ちゃんと母ちゃんでは考え方が違うんだな。同じ酒好きなのに……。
「ところでマーク、他にはないの?」
「他と言いますと化粧品という事でしょうか?」
「そう、今凄く困ってる事があるのよ」
まぁ奥方様を見れば直ぐに分かったけどね。これは多分婆ちゃんが
それに気づいたのは、爺ちゃんの店に行った時に街中で見かけた、俺の村では見た事が無かった白粉を塗った御婦人を見掛けたからだ。これは異世界あるあるだし、ナーロッパでは良くある事だから、気になったので鑑定したら、鉛中毒と出ていた。勿論、他にも何人か鑑定して確証を持って婆ちゃんに教えたよ。まぁその後も見かける度に鑑定は続けたけどね。あぁそうそう鉛中毒はあったけど、水銀中毒が無かっただけこの世界は良かったよ。
多分、奥方様は婆ちゃんから直接聞いたか、伯爵様の奥方様から聞いたんだと思う。婆ちゃんが最初にそれを教えたのが伯爵様の奥方様だから……。
「ちょっと婆ちゃん!」
「何だいマーク。こっちにはあまり来たくないんだけどね。モリーがあんな目で私を見てるからさ」
「そんな事より、白粉の事を話した時に、簡易的な治療法も話したの?」
「あぁあれの事かい。確か牛乳を沢山飲め。すっぱい物を多く食べろだったね」
「そうそうそれ! どうなの?」
「マークが怖い顔して言ってたから、ちゃんと教えたよ」
俺がなぜこれを教えたのか、この世界や時代には前世のようなちゃんとした治療法がないから、気休めにでもなればとこの方法を教えたのだ。でもこれだって全く根拠がない訳ではないのです。カルシウムは鉛の吸収を減少させる効果があるから牛乳を、ビタミンCは鉛の排出を促進するとされているから、すっぱい物を多く摂るように勧めたのです。
そうだ! 新しい白粉の話をする前に、一応、奥方様を鑑定しておこう。見た目には健康そうだけど……。
無詠唱で『鑑定』
【鉛中毒弱】
う~~ん、これはどうすべきだ? 俺に鑑定がある事が言えないから、奥方様の状態を言う訳にはいかないけど、このまま放置も出来ないよな。これから色々とお世話になる領主様の奥方様には長生きして貰わないと困るからね……。
一応、方法がない事もないんだけど、俺が直接みんなの前で試せないんだよね。治癒魔法による治療だから……。俺のステータスには魔法は「全」となっているから、当然、治癒魔法も使える筈。これまでポーションばかりで使った事は無いけど、魔法はイメージだから、出来ない事はないと思う。それに俺の職業マイスターはある意味医者にも言える事なんだよね。物を作る事だけがマイスターじゃない。
この世界の治癒魔法に毒を治療する魔法があるかどうか俺は知らないが、前世のアニメや小説などの知識にはあるから出来ない事はないと思う。鉛だけを排出するイメージで魔法を作れば、今の俺なら出来る。だが、人目につかないようにどうやるかだ。
寝てる時なら出来るだろうが、幾ら子供の俺でも女性の寝室に忍び込むのはな……。
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