姉妹・携帯ラジオ


 ――ほら、よくあるでしょ?


 ホラースポットに行って、その場のノリで物を持って帰って来ちゃうみたいな。

 それから怪奇現象が起き始めるみたいな。

 まさに、それだったんだよね。


 ごつくて古臭いけど、ちょっと高そうな携帯ラジオを見付けてさ。

 ふざけて、担任の誕生日プレゼントにしちまおうって事になって。

 同じクラスの連中と一緒にホラースポット行ったから。

 器用な女子がラッピングして、それっぽくしたら担任、喜んじゃってたよ。

 いつも口うるさいから、賄賂わいろみたいな? つもりだったんだけどさ。

 それからすぐ、担任は交通事故で死んじまったんだ。


 それだけなら、関係ないだろうと思ったんだけど。

 その携帯ラジオ、俺の所に返されたんだ。担任の思い出にとか言われて。

 普通、担任の家族に渡さねぇ?

 それで、このラジオのせいで担任が死んだうえ、また俺らの所に戻ってきたんじゃないかってなってさ。

 一緒に行った連中と、元の場所に返しに行こうって言ってたんだ。

 次の休みの日にでもさ。

 でも俺、いつの間にか、一緒に行った女子の部屋で動けなくなっててさ。

 その女子、俺を見てめちゃくちゃ悲鳴あげてた。

 何がどうなってるのか、理解できなかった。

 でも、わかったんだ。

 俺、ラジオの中に閉じ込められてる。

 なんか、吸い込まれたような感覚があって……誰か、たすけ――。



「っていう、怪談が流れてたの。途中で聞こえなくなって、壊れちゃったんだけど」

 末っ子の四子よんこは、手作りクッキーをつまみながら話してくれました。


 私は大学生、すぐ下の妹が高校生、末の妹は中学生。

 もうひとり、すでにお嫁に行っている姉がいて、女ばかりの4姉妹です。

 現在は、お嫁に行った姉に赤ちゃんが産まれて、何かと大変なので母が手伝いに行っています。

 父は東京に単身赴任していて、私は妹たちと田舎の古い家で暮らしています。


「今朝、燃えないゴミに出した携帯ラジオ? 最初は動いてたのね」

 私は、四子に麦茶を出しながら聞きました。

「うん。いつから庭に捨てられてたのかわかんないけどさ。昨日の雨で、壊れちゃったんじゃん?」

「けっこう泥んこだったもんね」

「――ただいまー」

「おかえりー」

 高校生の三子さんこも、学校から帰って来ました。

「ねぇねぇ、隣のクラスでさ。男子がひとり、行方不明になったんだって」

 そう言いながら、テーブルに置いたクッキーをつまもうとしています。

 私はその手を叩き、

「手ぇ洗って、うがいしてからにしなさい。隣のクラスって、この間、担任の先生が亡くなったクラス?」

 と、聞きました。

 三子は台所の水道で手を洗いながら、

「そうそう。そのせいか知らないけど、休んでる女子とかも居てさぁ。ほら、向こうの八百屋さんの近くに住んでる子。別に仲良くはないんだけどさ」

 と、話しています。

「担任の先生が亡くなるなんて、ショックだったんじゃない?」

 私は三子にも麦茶を入れながら言いました。

「そういうタイプには見えないけどね。まあ、人は見た目じゃないって感じ?」

「そういう事よぉ」

 クッキーを食べ始める三子の隣で、四子は首を傾げながら、

「その担任の先生って、交通事故で死んだの?」

 と、聞きました。

「うん」

「ラジオで言ってた怪談、高校生くらいの男子の声だった」

 そう言って、四子はクッキーを頬張りました。


 おやつタイムの、何気ない会話でした。

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